第25話 このままココにいても助かるわけがない
私はベッドの上に林檎を乱暴に投げ棄てると、サイドテーブルをドアの前に置いて入って来られないようにした。そして、ベッドの上に腰掛け、自分は何をすべきか考えた。
頭の中で色んな人物達の会話が反響している。その中で老人の話が浮かび上がった。
――ローリエはお薬を儲けのために作ってるんだ
確かこんな感じだった気がする。儲けがあるという事は資産があるという事だ。つまり、蓄えがある。オーリンやシナーノと一緒にいても今日明日の楽しみしか味わえない。
だが、ローリエは違う。自給自足の生活をしている。私もローリエみたいにならないと。このままこの城を過ごしても、未曾有の大災害が起きれば略奪が始まる。それが起きる前になんとかしないと……。
「やめなよ!」
どこから入ってきたのか、灰色の猫が現れた。
「せっかく手に入れた幸せを手放しちゃうの? ようやく君のお姉さんから逃げられたというのに……」
「フシャァアアアアアア!!!!」
私は猫みたいに威嚇した。灰色の猫は驚いたのか、慌てて逃げていった。よし、邪魔者は消えた。あとはどうやってローリエのもとへ行くのか……そこが大事だ。
確かシナーノは地面に図形を描いて魔法を唱えていた。呪文は覚えているけど、肝心の図形が分からない。
「ユキ! ユキ!」
王子らしき声が激しくドアをノックしていた。どうやらオーリンが私とシェフとの間でひと悶着があった事を王子に告げ口したらしい。
「ユキ、開けてくれ! 大事な話があるんだ!」
そう言われて開けるような奴がいるのだろうか。
――ドンドン
突然窓を叩く音が聞こえた。もしかしてケダモノ達が……と思って窓を見ると、一匹のカラスが羽ばたいていた。
嘴に何か咥えていた。私は窓を開けて紙を受け取ると、カラスはカァと鳴いてどこかに行ってしまった。
紙は二つ折りになっていたので広げて見ると、幾何学的な図形が描かれていた。私は瞬時に転移魔法に必要な図形だと思い、早速描き始めた。机の上に鉛筆と芯を削るためのナイフがあったので、私はナイフを取ってカーペットに描いた。
「開けてくれ! 君を責めたりはしない! たぶん誤解があったんだ! 僕達は家族だろ? ちゃんと話そう」
家族――この言葉にナイフを持つ手が止まった。家族……頭の中に兄の顔が思い浮かんだ。
そして、王子とオーリンも……。しかし、すぐに私を狙うケダモノ達が襲い掛かってくる情景に占拠されていった。
嫌だ。あの悪夢みたいな状態には戻りたくない。私は再びナイフを握って描き出した。
すると、兵士達を呼んだのか、ドアの外が騒がしかった。私はどうにか書き終えると、林檎を持った。手が滑って林檎が落ちてしまった。
私は拾うか拾わないか迷った。これはアップルちゃんからもらった大切な林檎……それにこれはジャムにするための大切な食糧。
私は急いで林檎をカゴの中に入れた。が、その途中でドアが破られてしまった。
兵士達がワラワラとやってきて、私を拘束する。
「やめて! ケダモノ! ケダモノ!」
私が暴れれば暴れるほど、兵士達の力は強くなっていた。
「何をしているんだ! 彼女を離せ!」
すると、シナーノが兵士達に強い口調で離すように命じた。だが、大男の兵士が食ってかかっていた。
「ですが、こいつは様子がおかしいです。恐らくスパイかと……」
「彼女はそんな人じゃない」
王子は否定しようとするが、兵士の一人が私の描いた図形を指差した。
「見てください! 転移魔法の図形です!」
「なに?!」
大男が指差した方を見た後、私の方を見た。
「国王陛下のもとへ連れていけ」
大男がそう命じると、兵士達が私を無理やり立たせて歩かせた。
「やめろ! 彼女は……」
「シナーノ王子。一部の人しか知らない魔法を使える事が分かった以上、放っておく訳にはいきません」
大男は彼にそう言うと、「さっさと歩け」と私の背中を強く押した。言われるがままに歩いているとしてオーリンと会った。
彼女は青ざめた顔で口元を手で覆っていた。私はこれ以上彼女の顔を見るのが耐えられなくなり、視線を逸した。
背後からオーリンと王子が話しているのが聞こえた。
一体何を話しているのか分からないままその声はドンドン遠のいていった。
※
「君が息子が話していたユキ第二王女か」
コールト王国の国王が玉座からジッと私を見下ろしていた。私は両手に縄を結われた状態で立っていた。
国王の隣には王妃がいた。私を嫌悪しているのか、視線が痛かった。
それもそうか。見ず知らずのお姫様が突然やってきて家族だなんて言われたら拒絶反応を示すのは当然だ。それにこんな挙動不審な奴は……。
「ユキ第二王女が一体どういう罪でお縄になっているのか、述べよ」
国王は兵士にそう命じると、大男がハイっと背筋を伸して私の行動を余す事なく伝えた。
「……なるほどな」
国王は頬をかいた後、唸った。私は黙ったまま彼の返事を待った。すると、国王の隣にカラスが止まっていた。
国王や兵士達は気づいていないのか、カラスに対して何の反応も示さなかった。
カラスが鳴いた途端、国王が口を開いた。
「お前は本日をもって死刑に処する」
死刑――まさかそんな重い罪になるとは思わなかった。
「待ってください! 死刑はあんまりです!」
私がそう叫ぶと、カラスの姿は消えて、国王の唖然とした顔をしていた。
「……死刑? 何を言っているんだ。私は国に帰ってほしいと頼んだんだ」
あぁ、なんだ。そうだったんだ。でも、よかった。これで国に帰れる……んん?
なぜだろう、心の中がグチャッとする。葛藤しているのかな。




