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第22話 僕達は今日から家族なんだから。

 コールト王国の街は非常に賑わっていた。商店がいくつも立ち並び、自慢の商品を声高らかに売り込んでいた。


 私はオーリンに導かれるがまま人混みの中を掻き分けていった。彼女は一つ一つ商店を指差して、そこで何が売られているのか、何が美味しくて何がいまいちなのかも丁寧に教えてくれた。


 私は胸が高鳴っていた。こんなに王子様以外でドキドキしたのは久しぶりだ。あと、歩いていて気がついた事がある。誰も私に冷たい視線を送っていなかった。最初はオーリンがいるから上辺だけ行儀よくしているのかなと思ったが、背後から「隣にいる女性は誰だろう」「可愛かったな!」などと私に向けて言っている言葉とは信じられないほど話しているのが聞こえてきた。


 それだけではない。彼らの視線も珍しさと好奇心が入り混じっているだけで、毛虫でも見るような嫌悪感は一切感じられなかった。


 ここでは私の噂は広まっていないみたい。だから、こんなに暖かいのか。もし知ってしまったら……いや、駄目だ。考えちゃだめ。あの国で街を歩いた時のことなんて……。



 城には何回か出入りした事はあるが、街だけは一生に一回しか行った事がなかった。まだ五歳ぐらいだっただろうか。兄が美味しいものを食べさせてくれると言って私の腕を引いて案内してくれた。コールト王国と同じくらい賑わっていた。けど、反応は真っ反対だった。


「ねぇ、あの子……」

「あぁ、やっぱりそうだ」

「第二王女だ」

「王妃を死なせた王女だ」

「気をつけろ! もし名前を言ったら呪われてしまうって」

「えー、やだやだ……なんでここにいるの?」

「あれはジョナ王子じゃないか?」

「どうして呪いの子を……何か考えがあるのかな?」

「もしかして処刑台に連れて行くとか?」「おぉっ、それはいい! 王国の破滅を招くかもしれない呪いの子は即刻打ち首だ!」

「けど、どうしてあんなに元気に育ったのだろう」

「きっと悪魔がこっそり森に隠して育てていたに違いない」

「やっぱり呪いの子だ……」



「あ、あああ……」


 私は膝から崩れ落ちてしまった。頭の中で私の罵詈雑言が反響していた。視界もグニャっと曲がって、今が朝なのか昼なのか夜なのかも分からなくなってしまった。


――ユキお姉様!


 私の頭の中にオーリンの声が反響する。けど、混乱している私の五感では彼女がどこにいるのか分からなかった。三半規管が狂ったのか、吐き気が催していた。何度も咳き込んでしまった。


――誰か! 誰か兵士を!


 オーリンの叫ぶ声は聞こえたが、私の異常は収まる事はなかった。周囲がざわつき始めていた。私はそれすらもあの時の声のように聞こえてきて、思わず耳を塞いでしまった。


 しかし、冷たい声はまだ聞こえていた。脳内に直接届けているかのように反響していった。


――大丈夫ですか?


 すると、誰かに声をかけられた。一体誰だが分からず、黙っていると、いきなり腕を掴まれた。


 牢屋に入れられてしまう――と直感した私は手脚をジタバタさせて抵抗した。それにより周囲は大騒ぎになった……かもしれない。


 私は複数の人達に運ばれたような感覚がしたが、その前に意識を失ってしまった。


――ユキお姉様! ユキお姉様!


 オーリンの声がする。目を開けようと思ったが、全身が重りがのしかかったみたいに動けなかった。


――ユキ!


 この声は……シナーノ王子!


 不思議な事に彼の声を聞いた途端、一気に力が湧き上がって瞳がカッと開いた。私の視界にはオーリンとシナーノが心配そうな眼差しで私を見ていた。


 オーリンは私の手を握って、何度も謝っていた。王子は「よかった」と布団に顔を埋めていた。


「あの……私の方こそごめんなさい。せっかく楽しいお出かけを台無しにしてしまって……」

「気にしないでください! 私は……その……浅はかでした。あなたの事を深く知った訳ではないのに」


 そう言って目元を拭うオーリンに私は彼女の頬に手を触れた。


「どうか気を病まずに……私が言っていないのが悪いのです。私がもっと心が強かったら……」

「君は悪くない」


 王子は私の手を握って真っ直ぐに見つめていた。


「これからは細心の注意をはらうよ。もちろん、窮屈な思いはしたくない。嫌な事があったらすぐに僕に伝えてくれ。遠慮しないでくれ。今日から僕らは家族なんだから」


 家族――この言葉に私の胸が暖かくなった。そうだ。今日からシナーノとオーリンが私の新しい家族なんだ。もうベニーを気にする事なんてないんだ。


「分かりました……シナーノお兄様」


 私がそう言うと、王子は「ゆっくり休んで」と頭をポンポンと叩いて部屋を出ていった。


「オーリンちゃんも……気にしないで」


 私は彼の真似をして頭を優しく触れると、オーリンは「ハイっ! ユキお姉様」顔をゴシゴシ擦って笑顔を見せた。


「じゃあ、温かい飲み物持ってきます」


 オーリンは立ち上がると、部屋を出ていった。閉め方が甘かったのか、若干ドアの隙間ができていた。一人だけになった。


 そういえば、オーリンとシナーノに気を取られていたから気づくのが遅くなったけど、ここは私の新しい部屋だ。


 ベッドが心地良いなんて初めてだ。ずっと寝ていたいけど……今は寝たくない。悪夢を見るのは嫌だからだ。


「ね? 僕の言った通りでしょ?」


 すぐ近くで声がしたので、辺りを見渡してみると、灰色の猫がカーペットの上に座っていた。


「えぇ、ありがとう」


 私は猫に感謝の言葉を述べると、彼は「この先もいくつか分かれ道があると思う。その時にまた現れるからよろしくね」と言って、半開きのドアを小さな腕で少し開けると、そのまま通り抜けていった。

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