第21話 ついに来ちゃった。王子様が暮らす国へ……。
目を開けると、森ではなくなっていた。綺麗に整えられた生け垣に囲まれていた。
一瞬私の国のお城に行ってしまったのかなと思ったが、トラウマの噴水がない事に胸を撫で下ろした。どうやら本当に来たらしい。
「シナーノ兄さん! ユキ様!」
すると、聞き覚えのある声が遠くからやってきた。豪華なドレスに身を包んだオーリンが嬉しそうな顔をしてやってきた。彼女は一目散に私に抱きついてきた。
「来てくれるって信じてました……」
オーリンは夢見心地な声でそう言った。
「さぁ、ユキ。僕らの両親の元へ連れて行ってあげるよ」
「えぇ、了解しました。シナーノ……兄様」
「シナーノ兄様?」
私が兄と読んでいる事に気づいたオーリンが目を丸くして私を見ていた。
「えっと、どういうことなんですか?」
「今日からユキは僕らの家族だ」
シナーノはそう言うが、オーリンはまだ状況が掴めないのか、ポカンとしていた。
「よろしくお願いします。オーリンさん」
私は頭を下げると、シナーノに「さぁ、行こう」と手を引かれた。振り返ると、オーリンは時が止まったかのように驚愕の表情を保っていた。
※
シナーノ王子のご両親――コールト王国の国王夫妻はとても良い人達だった。彼が事前に私の事を伝えてくれたのだろう、私を抱きしめてくれた。
「いつまでもここにいなさい。もう苦しまなくていいんだ」
国王の言葉に私の胸は熱くなった。今までそんな言葉を元両親から言われた事がなかったので、より一層胸に響いた。
「はい! ありがとうございます……ありがとうございます……」
私は目元を拭って新しい両親に感謝の言葉を何度も言った。
※
「ここが君の部屋だよ」
シナーノに案内された私の部屋は快適だった。ビックリするぐらい広々としていて、ベッドも二人分は寝れるのではないかと思うくらい大きかった。
サイドテーブルには綺麗な花が飾られた花瓶が置かれていたり、天井にはシャンデリアがぶら下がったりとオンボロ小屋での生活とは比べ物にならなかった。
「どう? 気に入ってくれた?」
「はいっ! 最高です!」
私は嬉しくなって、つい彼に抱きついてしまった。しかし、今は恋人ではなく兄妹の関係である事を思い出し、我に返ってゆっくり離れた。
「……すみません」
「いや、全然気にしてないよ。むしろこんなに喜んでくれるなんて嬉しいよ。さぁ、次もとっておきのものを用意してあげよう」
シナーノはそう微笑んだ後、また私の腕をを握った。
※
案内されたのはキッチンだった。小屋の時よりそこそこ広くて、レンガの窯や包丁などの調理道具が充実していた。
「ここでシェフ達がお料理を?」
私がそう尋ねると、王子は首を振った。
「ここではしない。別の場所で今夕食の準備をしているよ」
彼の言葉に私は不思議に思った。
「じゃあ、このキッチンは誰が使用しているんですか?」
「誰も使用していない。今日までは」
今日まで――この言葉に私はハッとした。
「もしかして私専用の?」
「あぁ、そうだ。好きなだけアップルパイを焼いてくれ」
「シナーノ兄様!」
私はつい嬉しくなって、また抱きついていしまった。我に返って離れようとしたが、今度は彼が背中に手を回してギュッとしてきた。
「前の所よりずっと快適だろ?」
「はい。天国にいるかのようです……」
私と王子は互いに甘い視線を送ったが、背後から咳払いした。ほぼ二人同時に振り返ると、オーリンが複雑な顔をして見ていた。
「シナーノ兄さん、お父様が呼んでいます」
「あ、あぁ……そうか。分かったよ」
シナーノはそう返事すると、私の方を向いた。
「じゃあ、またあとで」
そう言ってスルリと糸が解けるように離れると、そのままキッチンを後にした。オーリンは急に晴れやかな顔に変わった。
「ユキさん!」
オーリンは私に抱きつくと、頬をスリスリ擦りつけた。
「本当に来てくれるなんて夢みたいです……」
「えぇ、私も夢を見ているようです」
「そういえば、兄を……『シナーノ兄さん』と読んでいましたが、あれはどういう事ですか?」
「それは……」
私はオーリンに森であった事を全部話した。
「なるほど。そうだったんですね……けど、それでいいんですか?」
「それでいいって?」
「兄と兄妹関係でいいのかって事です」
オーリンは私からスルリと離れて何か言いたげな顔をしていたが、飲み込むようにジッと見つけていた。恐らく私とシナーノを再びくっつけたいのだろう。
「今は兄がいいの。私の好きな兄が無くなってポッカリ穴が空いた所に彼がやってきたから……今は、今はそれでいい。それがいい」
私が強めに言うと、オーリンは「分かりました。でしたら……」と微笑んだ。
「私も今日からユキお姉様と呼ばせていただきますね」
「え? あぁ、そうね」
シナーノが兄ならば、オーリンは妹という事になる。でも、彼女は歳はいくつなのだろう。
「えっと、オーリンはいくつなの?」
「はい。13歳になります」
13歳! 私より三つ下だ。なのにこんなに大人っぽい振る舞いができるなんて……私が惨めに感じる。いや、なに劣等感を抱いているんだ。
「じゃあ、この国のことを教えてね。オーリン……」
「ちゃん付けでいいですよ。その方が距離が縮まります」
「わ、分かった。オーリン……ちゃん?」
「ハイッ! ユキお姉様!」
オーリンは満面の笑みで返事をすると、私の腕を引っ張った。
「今度は私の番です」
「えっと、どこに行くの?」
「この国の雰囲気を知るには、街を訪れるのが一番です」
オーリンはそう言って、グイグイと私を城の外へと導いていった。




