第17話 森に引っ越してきた新しい住民はクセが強かった
仮面舞踏会からもう三日が経っていた。ベニーから招待状の連絡はあれ以来、来なくなった。よっぽど辛いパイを食べて憤慨してしまったらしい。
王子様はまた国に帰ってしまった。次いつ会えるか聞いてみた所、一ヶ月以上はかかるらしい。
それまで、私はいつもの日常を過ごす事になるんだけど……やっぱり寂しい。
陶器の小人達は出かけていて一人の時は、特にその感情が顕著に現れた。
あぁ、シナーノ王子。あなたに会いたい……。
すると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「はい」
「ワシだ」
「アップルちゃん!」
私はルンルンとスキップでドアを開けると、熊が「よう」と手を上げて挨拶してくれた。
「お久しぶりです! 暫く見なかったので、体調でも崩されていたんですか?」
そう尋ねると、アップルちゃんはなぜか私の顔をジッと見てきた。何か変なものが付いているのかなと思い、顔を拭いていると、熊は「そうだ。チョとした風邪を引いたんだ」と言って中に入った。
ふとアップルちゃんがかごを持っている事に気づいた。その中に何か入っている事に気づいた。
「そちらは?」
私がカゴを指差すと、アップルちゃんは「あぁ、君に届け物を頼みに来たんだ」と言ってカゴを渡してきた。
「届け物? 一体何ですか?」
「中に蜂蜜が詰まった瓶が入っている。それをローリエという人に届けて欲しいんだ」
ローリエ……初めて聞く名前。
「その方はどこにお住まいなんですか?」
「森の奥に住んでいるんだ」
「森の奥? そんな人、住んでいましたっけ?」
「最近引っ越してきたばかりだそうだ。君の家を出て西に向かえば辿り着くはずだ」
熊はそう言って私に方位磁石を渡すと、よろしくと言って出ていってしまった。
ローリエ……いったいどんな人なろう。怖い人でないといいけど。私はそんな不安を抱きながら身支度をした。
見張りとして、あちこちに陶器の人形を置いた。こうすれば、カカシみたいな役割りを果たして狼を追い払う事ができるかもしれない。
護身用として斧……いや、そんなの持って行ったら敵対しちゃうじゃない。むしろご近所さんになるんだから、お届け物以外にも何か持っていかないと。
私は昨日作っておいたアップルパイも数切れ中には入れて、外に出た。そして、方位磁石を頼りに進んでいった。
確かに西側はあまり来た事がなかった。前に一回だけあったような……いや、私じゃなくて誰かがこっちにいたような気が……。
なんて事を考えていると、小屋らしき建物が見えた。想像では荒れ放題かなと思ったが、庭は綺麗に整えられていて、どれも花の良い香りがした。
小屋もピカピカで、真っ白な壁と青色のドアという海を連想させる色合いが深緑の森と相反して際立っていた。
「すみませーーん! どなたかいらっしゃいますかーー?」
私は大声で呼びかけると、ドアの方からドタドタと足音が聞こえたかと思いきや、バンッと大きな音を立てて誰かが飛び出してきた。なぜか火だるまになっていた。
「アッツっ! あっちゃっ! わっちゃっちゃっ!」
「だ、だだだだ大丈夫ですか?!」
私は何か火を消すものがないか探したが、消せそうなものが蜂蜜ぐらいしかなかったので、カゴに入っていた瓶の蓋を開けてかけた。一瓶だけだったが、大部分を鎮火する事ができた。残りは叩いたりなんかして、全部消す事ができた。
「あぁ……あぁ、熱かった……」
ほぼ黒焦げに近い状態でムクッと起き上がった。
「あの……だ、大丈夫ですか?」
私が恐る恐る聞くと、黒焦げの人物は「うん! 平気だよ!」と明るい口調で答えた。ブルブルと身体を震わせると、焦げが剥がれ落ちて、ようやく姿が露わになった。
寝癖かと思うくらいボサボサになった白髪で、レンズが分厚い丸メガネを付けていた。格好も継ぎ接ぎだらけの長ズボンと長袖を着ていて、何というか奇妙だった。
「あの……あなたがローリエさん?」
私が尋ねると、ボサボサ髪の人は「うん。そうだけど……何のよう?」と首を傾げていた。
ここで、私はアップルちゃんに頼んだ蜂蜜を消火に使ってしまった事を思い出した。
「あの、えっと……アップルちゃ……く、熊さんにお届け物を頼んだんですけど、その……」
私はどう言ったらいいのか分からず、マゴマゴしていた。ローリエはカゴを見て、「あぁっ! なるほどね……別に気にしてないよ。お薬の材料にする予定だったんだけど……まぁ、また頼めばいいから」と手を横に振った。
「お薬……?」
「うん、私。自然に生えている花や植物を使って傷の治療をしたりする研究をしているんだ。
へぇ、そうなんだ。なんか面白そう。
「……よければ、中に入るかい?」
ローリエは私の心の中を読み取ったかのように、ドアを開けてくれた。
「あ、ありがとうございます! お邪魔します……」
私はそぉっと忍び寄るかのように中に入った。
「うぷっ」
入った瞬間、一気に気持ち悪くなった。至る所にお薬の材料となる草花が散乱していた。壁にかけてあってドライフラワーになっているのはまだマシで、地面に転がってい果物なんかは腐敗して蝿が集っていた。
机らしき場所には、ガラスのコップや器が散らばっていて、中には見慣れない色をした液体が入っていた。
これで本当に身体に優しいお薬が作れるのかな?
むしろ身体に悪くなりそう。
「あー、ごめんね。研究に没頭しちゃってさ。掃除がままならないんだよね……」
ローリエは頭をボリボリ掻きながら足場のない床を慣れた様子で進んでいった。
「あ、適当に座っていいから」
「あ、はい……ありがとうございます」
適当に座れって言ったって……どこに腰を降ろそう。私は本が山積みになっている所を見つけ、手でホコリをはらって座った。
「あはははは〜〜〜ん!」
すると、ローリエが急に蹲ってしまった。
「ど、どうしたんですか?!」
「あはは……研究にのめり込み過ぎて三日前から何も食べていなかった」
「み、三日?! よく何も食べずに生きられましたね……」
私はふとアップルパイを持ってきた事を思い出し、すぐにカゴを手に取ってきた。
「あ、あの……これを」
私はカゴの中に入っているアップルパイを見せた。すると、匂いがしたのか、急に起き上がったかと思うと、私の手に持っているパイを凝視した。
「それ、食べていい?」
「え、えぇ……どうぞ」
私がそう言うやいなや、ローリエはサッとパイを取ると、無我夢中で食べ始めた。
「うまっ、うまっ、うまうまうまうま!」
あっという間に食べ終えてしまったので、私はカゴの中を見せて「全部どうぞ」と言った。
「いいの?」
ローリエは瞳を耀かせて見ていた。私が頷くと、今度は両手にパイを持って交互に食べていた。
「うまっ、ふまっ、ふまふまっ、ふまうまうあまーーい♡」
ローリエは幸せそうな顔で両手の平パイを平らげた。そして、軽くゲップした後、ジッと私を見ていた。
「君……私の助手にならない?」
「……え?」




