第16話 この苦しみをどうやって消し去ればいいの? 辛くてたまらない……。
アップルちゃんは私の呪いについて何を知っているのだろう――それを知るのは怖い。
けど、前に進まないと。私は緊張を紛らわすために一口紅茶を飲んで気分を落ち着かせた。
「……教えてください。私は呪われているのでしょうか」
私の質問にアップルちゃんはもったいぶるように腕を組んでいた。
「……君の周りで次々と死人ができているのは単なる偶然ではないと思う」
という事は、私には人を死なせる力みたいなのが……。
「でも、僕は何ともないですよ。彼女と一緒にいても」
表情が暗くなっている事を読み取ったのか、シナーノ王子がすかさす反論していた。熊は「話は最後まで聞きなさい」と注意した。
「私も人間達が話している噂しか情報がないんだが、それでもある違和感があった」
「違和感?」
私が首を傾げると、熊は私の方を向いた。
「これはあくまで私の想像だが、誰かが君のお母さんを殺そうとしたんじゃないかな。君がお腹に入っていた時に」
あまりにも唐突な推理に私はビックリしていた。まさか私が殺した訳ではなく、第三者が殺そうとした?
でも、一体誰?
「恐らく君が生まれて不都合になる人間の仕業だろう。考えれば、大体検討がつくが……」
母と私が生まれて不都合になる人間……あ。
「義理の母がお父様と結婚した時は私が生まれた直後だって、兄から聞きました」
私がボソッと言うと、アップルちゃんは「なるほど。つまり、君を呪われているように見せかけたのは義理の母で間違いないだろうね」と頷いた。
私と王子は唖然としていた。義理の母が私を殺そうと……いや、私の母もろとも殺そうとしていた。
「何のために?」
私がボソッと呟くと、シナーノ王子は「たぶん想像する限りでは君のお父様は……」と言ったが急に口をつぐんでしまった。
お父様の事について、王子は何か察したのだろう。でも、言わなくても大体想像がつく。お父様は義理の母と不倫関係になっていた。
義母は王妃の位が欲しくて、母を殺し、見事自分の地位を獲得した。しかし、不都合な事に母が殺されたのは私が出産した直後だった。
義母は私を城から追い出すために呪われているという噂をかけて……あれ?でも、新たな疑問が浮かぶ。
「どうして私の兄と姉は殺さなかったのでしょうか。なぜ私だけ……」
頭の中がこんがらがってしまった。すると、熊が「うーむ。これは残酷な話になるかもしれないな」とボソッと呟いた。
残酷な話? もしかして……。
「兄と姉は義母の子ってことですか?」
これにアップルちゃんは目を大きく見開いた後、黙って頷いた。私の心が沈んでいくのが分かった。王子はもう分かっていたのだろう、私の手を握っていた。
「悲しいかもしれなけど、気を確かに持つんだ」
そう言われても、私の心はグチャグチャだった。つまり、本来であれば私が正式なお姫様になるはずだったのに、義母のせいでこんな森の中で暮らす事になるはめになってしまった。
でも、兄……ジョナは私を可愛がってくれた。もし兄もその事実を知っていたとしたら、私に隠して本当の妹として接してくれていた事になる。
頭の中で次々と兄の顔が浮かんだ。目に涙が溢れてきた。
「ジョナ……ジョナ……」
私は両手で顔を覆い、何度も兄の名前を呟いた。
「大丈夫。大丈夫だ。僕がいる」
王子は私の背中を優しく擦ってくれた。
「そうだ。君は一人じゃない」
アップルちゃんも穏やかな声で私を励ましてくれた。けど、それだけでは私の心は穏やかにならなかった。
「少し涼んできます」
私はゆっくり立ち上がって、洞窟の外へと向かった。
「待って。僕も……」
「王子様」
シナーノも一緒に付いていこうとしたが、アップルちゃんが私を気遣うつもりで引き留めてくれていた。私は何も言わずに足早に歩を進めていった。
※
月は嘘みたいにまだ明るかった。しかし、若干翳りがあるのか、消えかけの蝋燭みたいにチカチカとしていた。
一度風が吹けば、たちまち森全体が闇で覆われて、迷子になりそうだっった。
もうすでに心の中では迷子だけど。アップルちゃんの話を思い出しながら私はトボトボと歩いていった。
私はどうしたらいいの?
この行き場のない怒りはどうしたら発散できるの?
このまま黙って過ごせと言うの?
この事実を知った上で……いや、でも、あれは仮説で……うーん。当たっても無くても私はもう元の生活には戻れない。
ベニーがやってきたら、罵声を浴びせてしまうかもしれない。あるいは、義母の所に行って……いや、これ以上は考えるのは止めよう。
復讐は駄目だって、アップルちゃんが言っていたじゃない。けど、私の中に溜まっている鬱屈とした感情は消える事はない。
このまま一生蟠りを抱えたかま生きろと言うの?
そんなの無理だよ。なんて考えていると、私の家に辿り着いた。
すると、風が私の髪を靡いた。自然と庭の方を見る。そこには見た事もない色をした林檎が成っていた。
雪みたいに真っ白な林檎だった。私は自然とその木に近づいていき、白い林檎を採った。
そして、何の躊躇もなく食べた。すると、不思議な事に蟠りがスゥと消えた……。
……あれ?
私はなんで悲しんでいたっけ?
どうして、一人で森を歩いていたんだっけ?
うーん、思い出せないや。
「ユキ!」
すると、背後から私を呼ぶ声がしたので振り向くと、シナーノ王子が立っていた。
「大丈夫かい?」
王子が心配そうに私に駆け寄ってきたが、何の事かサッパリだった。
「あの……シナーノ王子がどうして私の所へ?」
私がそう尋ねると、王子は「もしかして覚えてないのかい?」と目を見開いた。
「え、えぇ……一人で森を歩いた所までは」
私がそう答えると、王子は思案に耽った顔をした。
「……僕と森を散歩していたんだ。仮面舞踏会の帰りでね」
仮面舞踏会――あぁっ! そうだった。確かベニーにイタズラしたんだっけ。具体的に何をしたのかは忘れたけど。
「そうでしたね。楽しいパーティーでした」
「あぁ、僕もだ……」
王子はそう言って、私を見つめていたが、どこか憂いを帯びていた。




