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第14話 王子様に可愛いって言われちゃった! 嬉しいけど

 私と王子はベニーの辛いパイを食べた時の事を思い出しながら走った。


 ベニーのあの顔と言ったら!


 もうどの滑稽な喜劇よりも可笑しかった。私の心の中はスッキリしていた。直接やった訳ではないが、ベニーが酷い目にあっている事に満足していた。


 あぁ、なんて愉快な気持ち……。そうこうしていると、私のお家に戻った。


「今日は中に入らず、外で話さない?」


 王子にそう言われたので、私は「いいわ」と快諾した。私とシナーノは、林檎の木の下に腰を降ろした。


「さっきのお姉さんの顔、面白かったね」


 王子は仮面を外して言った。


「えぇ……でも、意外でした。あなたにあんな悪戯っ子な一面があるなんて……」

「ハハハ……うーん、ちょっと違うかな。これを見て」


 すると、王子はズボンのポケットからベニーが持っていたはずの風呂敷を取り出した。


「ほら」


 シナーノは広げると、中にはベニーが食べたはずのパイがあった。


「え? どうして? だって……」


「魔法で同じのを二つ作っておいたんだ。それで、もう一つのパイを辛くさせる。あとはお姉さんの目を盗んでパイをすり替える……どう? 君を虐めた仕返しにしては上出来だと思わない?」


 私はビックリして暫く話せなかった。自分の代わりに、彼が姉に仕返しをしてくれたのだ。王子は私の唖然とする表情に曇っていた。


「もしかして迷惑だった? もしそうなら、僕は君の姉さんに意地悪な事をしてしまった……」

「いえいえ! そうじゃないんです。どうお答えしたらよいか……もし、私がパイを作らなかったらどうしていたんですか?」

「その時は君にあげるさ」


 あ、そっか。魔法をかける前は普通のパイだから、食べても問題ないのか。


「あの、ちなみにこのパイはどなたが……」

「僕が作ったんだよ」

「え?! お菓子も作られるんですか?!」

「うん、そうだよ。これは僕が作った自信作……どうぞ食べてみて。もちろん、魔法で辛くなんかしたりしないから」


 シナーノは冗談を挟みながらそう勧めきてきたので、私はパイを手に取って一口かじった。


「……美味しい」


 思わず心の声が口から漏れるほど絶品だった。パイは林檎ではなくイチゴだった。イチゴジャムとカスタードクリームの組み合わせは言わずもがな相性抜群だった。


「どう?」

「とっても美味しいです! よければ、一口いかがですか?」


 私はシナーノがベニーにした事を真似てみた。王子はすぐに気づいたのか、ニヤッと笑って「遠慮なくいただくよ」と言ってパイを一つ取った。


 彼が一口かじった途端、急に苦しそうな顔をした。最初は演技かなと思ったが、あまりもリアルだったため、本当だと思った。


「だ、大丈夫ですか?!」


 私は背中を擦ると、王子がいきなり噴き出した。そして、声高らかに笑った。あぁ、よかった。演技だったんですね。


「もうっ! 驚かせないでください!」

「ハハハ!! ごめんごめん……君の心配そうな顔が可愛くてつい……」


 可愛い――その言葉に私の顔が一気に赤くなった。


 王子も自分が発した言葉を脳内で再生したのか「し、ししし失礼」と林檎みたいに真っ赤にさせていた。


 私はどう返したらいいか分からず、とりあえずパイを食べる事に集中した。王子は黙って仮面を拾うと、また付けていた。


 私の心臓は高鳴っていた。可愛いだなんて、生まれて初めて言われた。


 いつも蔑まれた言葉しか向けられていなかった私にとって、王子の言葉はあまりにも甘すぎた。


 なんか恥ずかしくて、王子を直視できない。それは言った張本人もそうかもしれない。


 気まずい空気が流れる中、私はパイを食べ終えてしまった。


「……ごちそうさまでした」


 私が独り言のように呟くと、王子は黙っていた。あぁ、本当に気まずい。


「……散歩しませんか? 月が明るいですし」

「いいですね! あ、せっかくだから森を案内してあげます!」


 王子がそう提案してきたので、私は喜んで森の中を案内する事にした。今度は私がシナーノ王子を導く番なので、彼の腕を取って案内した。


 けど、どこに向かえばいいだろう。私は自分の頭の中にある森のオススメスポットを探った。


「……アップルちゃんに会いたくないですか?」


 私がそう言うと、王子は「アップルちゃん?……あぁっ! 君の作るパイが好きな熊だったね。でも、会って大丈夫なの?」と不安げな顔をしていた。


「大丈夫です! 彼はとても心優しいので、きっとすぐにお友達になれますよ!」


 私はアップルちゃんが姉に虫入りパイを食べさせられて心が傷ついた時に熊が優しく介抱してくれた事を話した。


 この話に王子は「信頼できそうだね。行こう」と頷いた。


「でも、今はお休み中じゃないかな?」

「うーん、たぶん、今は読書中のはずだけど……あっ! ほら、見て!」


 私は洞窟が明るくなっている事を教えた。シナーノが驚いた顔をして見ていた。


「山賊とかじゃないよね」

「荒くれ者は狼だけですよ。松明がついているという事はまだ起きていますね。行きましょう!」


 私は彼の腕を引っ張って走った。王子は転けそうになったが、すぐに足を合わせてくれた。



 洞窟の中はヒンヤリと気持ちよかった。


「うぶぶ……本当にここに熊なんかいるの?」


 王子は寒いのが苦手なのか、両腕を擦りながら歩いていた。


「えぇ。アップルちゃんは暑がりですから。それに人気(ひとけ)がない方が落ち着くらしいです」


 そんな話をしていると、アップルちゃんの部屋に着いた。とは言っても、小屋みたいな建物がある訳ではなく、机と本棚、壁に松明が取り付けられているぐらいだった。


 アップルちゃんは真剣に読んでいるのか、私達が来たことに気づいていなかった。

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