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第13話 私が味わうはずだった甘い体験を全部奪われてしまった。

「オーリンから君がお茶会で姉に意地悪された話を聞いたんだ」


 噴水の(ふち)に腰をかけたシナーノ王子がそう言った。私は胸に槍で刺されたような気持ちになったが、王子の顔を真っ直ぐ見て心を落ち着かせた。


「意地悪されたなんて……何かの誤解です。あの時は喉に詰まらせてしまったんです。それがきっとそういう風に見えてしまったのでしょう」


 私は必死に姉がそういう事をしていないように弁明した。どこからともなく感じる視線が怖かったのだ。


 恐らく……いや、絶対に姉だろう。ベニーは垣根(かきね)の隙間から私達の話を盗み聞きしているに違いない。


「嘘をつかなくていい」


 王子が私の手のひらを重ねてきた。懐かしき温もりで、胸が熱くなった。


「もし君を(おびや)かそうとする者がいたら僕が守る」

「王子……」


 私は彼と見つめ合った。恐ろしき視線は消えて、その代わりに蜂蜜みたいに甘い雰囲気が漂った。


 私と彼の顔が近づいていく。このまま――と思ったが、私は本来の目的を思い出した。


「あ、あのっ! シナーノ王子……これを」


 私はカゴを差し出した。王子は若干照れた顔をして咳払いした後、カゴの中身を確認した。


「もしかしてあのアップルパイ?」

「えぇ。とびきり美味しい林檎で作ったんで

す」


 私はそう言って、カゴの中からパイを取り出そうとした。が、空っぽだった。


「……あれ?」


 私は手を突っ込んだ。もしかしたら移動している際にパイが隅っこの方に移動してしまったかもしれない――そんな期待を抱いていたが、泡となって消えてしまった。本当に無くなっていたのだ。


「あれ? あれ? あれ?」

「……どうしたの?」


 私の様子がおかしい事に王子はすぐに気づき、心配そうな顔をしていた。


「あの、パイが……」

「シナーノ王子!」


 恐れていた事態が起きた。私が涙目で王子にパイが無くなった事を伝えようとする前に、ベニーが現れてしまったのだ。


 ベニーは自分の魅力を最大限に活かした真っ赤なドレスをしていた。


「どこを探しても見つからないからてっきり帰られたかと思いましたが、まさかこんな所にいたとは……」


 ベニーはそう甘い声で言った後、自分の腕を王子の腕に絡ませて、わざと自慢の胸に押し付けていた。


「何か御用ですか? ベニー第一王女」


 王子は笑顔で挨拶したが、目が一切笑っていなかった。ベニーはそれに気づいていないのか、王子と同じ金色の仮面を外して「今日はあなたに渡したいものがあるんです」と言って、胸元から風呂敷に包まれたものを取り出した。


 なんて品性のない渡し方!


 そんな安っぽい色仕掛けで王子がメロメロになるなんて思っているの?


 もし引っかかるとしたら、(よこしま)な考えしかない奴らだけよ。


 私は心の中でそう毒ついたが、本人の前で言う勇気はなかった。王子は「何かな?」と取ってつけたような笑顔で風呂敷を見ていた。


 ベニーは「これです」とウインクして風呂敷を開けた。そこには私が作った小さなパイが入っていた。


「はい。私の手作りです」


 ベニーは妖艶な笑みを浮かべて、王子に風呂敷ごと渡した。シナーノは「ありがとう」とぎこちない笑みを浮かべていた。


 王子は気づいているのだろう。私もベニーがパイを見せた瞬間から気づづいていた。


 あれは私が作ったパイだ。あの時ぶつかってきたのはベニーだったんだ。恐らく格好で私だと気づいたのだろう。


 ベニーはすぐさま私に近づいて、カゴの中に入ったパイを風呂敷に包んで持っていった。


 そして、それを……あぁっ! 想像しただけでも腹が立つ。


「お姉様、それは……」

「ユキ!」


 さすがに我慢の限界だった私は姉にそのパイは自分が焼いたものだと言おうとした。が、何故かベニーに突然抱きしめられてしまった。


「あぁ、元気そうでよかった。お見舞いにも行けずにごめんなさい……」


 ユキは力強く抱きしめると、私だけにしか聞こえないような声で「バラしたら殺す」と脅した。


 全身の血が引いていくのが分かった。ベニーは私からゆっくり離れると、王子に「さぁっ! 食べて!」と声を(はず)ませた。


 王子は「では、お言葉に甘えて」と一口食べた。


「どう? 美味しい?」

「うん! 最高だよ! まさか君にお菓子が作る才能があるだんて思っても見なかった」

「本当? フフフ……嬉しい」


 あぁ、悔しい。本来であれば、あれは私があげるはずだったのに。


 王子は姉に合わせているのかもしれないけど、あんなに嬉しそうな顔をしているのを見ると、少しジェラシーを感じてしまう。


「君も食べるかい?」


 すると、王子がパイをベニーに差し出してきた。


「よろしいのですか?」


 姉は目を丸くしていた。


「うん、君と一緒に美味しいものを分かち合いたいんだ」


 王子はベニーにそう微笑むと、姉は有頂天になって「いただきますわ!」と一口かじった。


 あぁ、私もあんな風にされたかったなと嘆いていると、王子が何かを呟いている事に気づいた。


 一体何だろうと思った瞬間、ベニーの顔が見る見るうちに青ざめていった。


「え、うわっ、な、な、なにこれ? から、か、からーーーい!!!」


 ベニーは舌を出しながら暴れていた。そしてから急いで噴水の水に舌を突っ込んでいた。


 その光景があまりにも惨めで、私はつい噴き出してしまった。すると、ベニーの鋭い視線が私に向けられた。


 殺意が溢れ出ていたので、私の顔も青くなっていった。


「行こう」


 すると、王子が私の腕を掴むと、走り出した。私は危うく転びそうになったが、王子がすぐにお姫様抱っこしてくれたので、地面に叩きつけられずにすんだ。


 私と王子はベニーを置いて、そのままお城を飛び出した。

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