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第12話 仮面舞踏会で念願の王子様と再会を果たす

 私はパイをカゴの中に入れて、行こうとした。が、虫入りパイを食べさせられた記憶が脳裏を過ぎり、躊躇ってしまった。


 行くか行かないか、どうしようかなどと葛藤を経て、ようやく外に出る決意をした。


 しかし、ドアが開いた瞬間、夜になっていた。どうやらかなりの時間がかかってしまったらしい。


 もしかして王子様のお茶会に間に合わなかったのかなと思って手紙を確認した。


 が、日時がどこにも書かれていなかった。変だなと思った。普通は招待するなら絶対に必要な情報なのに。


 やっぱり嘘だったかと思って、私は窓から投げ捨ててしまった。ふと外が明るい事に気づいた。


 玄関を出ると、月の光が私が投げ棄てた手紙を照らしていた。すると、何か一部分が光っている事に気づいた。


 駆け寄って拾ってみると、王子の名前の下に文字が光っていた。


『今宵、お城の大広間にてお待ちしております』


 そう書かれていった。今宵――もしかして、今日の夜の事を差しているのだろうか。


 だとしたら、まだ間に合うかもしれない。私はそう期待して家を出た。今日の月は煌々(こうこう)と照らしていて、森が昼みたいに明るかった。


 これだったら迷わずに出れるだろう――そう思った私は森の中を進んでいった。アップルちゃんは寝てしまったらしい。だから、心配して呼び止められる事もなく、このまま森を抜けた。


 そして、馬車に乗った記憶を頼りに城に向かう事にした。



 お城に向かうと、何故か大勢の人達が来ていた。どれも目元に仮面を被っていた。


(もしかして、仮面舞踏会?)


 私は兄から聞いた話を思い出した。確か月が明るい日に、国内の貴族達を招待して仮面を付けて舞踏会を開くというイベントがあるということを聞いた事がある。


 そこでは互いの持ち寄せたお菓子を交換したりする――とか。まさに王子様にパイを渡すのにピッタリじゃない。


 だけど、仮面がない。兵士が仮面を付けているかいないかのチェックをしているし、もしこのまま出ていったら門前払いされてしまうだろう。


 私は困り果てていると、「やぁ」といきなり後ろから呼びかけられていた。


「うわわっ!」


 私は変な悲鳴を上げて振り返ると、黒いローブ姿の老人が立っていた。老人は私の反応を見て、フォッフォッフォッと笑っていた。


「すまんな。驚かすつもりはなかったんだ。もしかして、お困りかなと思って……」

「え、えぇ……仮面舞踏会に行きたいんですけど、肝心の仮面がなくて」

「そうかい、そうかい。だったら、これを付けなさい」


 老人はそう言うと、林檎の皮みたいに真っ赤な色をした仮面を差し出した。


「いいんですか?」

「もちろんだとも。腐った林檎が入ったパイを王子様に渡すんだろ? せっかく会えるチャンスだ。行ってきなさい」


 老人にそう励まされたので、私はありがとうとお礼を受け取って付けた。


「王子様にパイを渡したら必ずお返し……」


 私は老人の方を向いたが、もう既に消えていた。立ち去るのが早いなと思いつつ、私は列に並んだ。しかし、仮面を付けたからと言って、必ずしも通れるかどうかは分からない。もしかしたら貴賓(きひん)な格好でないといけないのかもしれない。


 事実、私の着ているドレスは周囲の貴族達に比べたら貧相だ。


(お願い。見過ごして)


 私は心の中でそう祈りながら進んだ。そして、私の番になった。兵士はジッと見たが、すぐに「ようこそ」と笑顔を見せてくれた。


(よかった……)


 とりあえず、第一関門は突破した。



 大広間を訪れるのは、兄の葬式パーティー以来だった。父に勘当(かんどう)を宣告されてしまったあの夜を思い出し、胸がキュウと締め付けられてしまった。


 駄目よ、ナーバスになっちゃ。今は王子のパイを渡すの事が最優先でしょ。


 私は気持ちを切り替えて、シナーノ王子を探す事にした。が、人が多いからか、思うように進めなかった。


「通してください。通して……きゃっ!」


 私は誰かとぶつかって倒れてしまった。その際に仮面が外れてしまった。


(まずい。私だってバレたら大騒ぎしちゃう)


 慌てて取りに行こうとすると、誰かに拾われてしまった。終わった――と思った瞬間。


「どうぞ。お姫様」


 聞き覚えのある声がした。この私の心を撫でてくれるような甘い声は……間違いない。


 顔を上げると、金色の仮面を付けた王子が立っていた。仮面越しでも分かる。


「シナーノ王子!」


 私は思わず抱きついてしまった。王子は「おっと、これを付けないと目立っちゃうよ」と仮面を見せてきた。


「あ、ごめんなさい」


 私は慌てて付けると、王子は「うん。素顔の君も素敵だけど仮面を付けた君も色っぽくて素敵だよ」と笑顔で言ってくれた。


「ありがとうございます……」


 私はふと脳裏にあの夜の出来事を思い出した。一生会わないと決めていたはずなのに。またこうして会ってしまった。いや、それよりもまず言わなくちゃいけない事があるでしょ。


「シナーノ王子。あの時は……」

「謝らなくていいよ。もう気にしていないから」


 王子は分かっていたのか、私が言い終えないうちに返事をしてくれた。あぁ、シナーノ王子。私はあんなに酷い事をしたのに、許してくれるなんて本当に天使みたいな人。


「本当に?」

「うん、国に帰って冷静に考えたら、いきなり出会ったばかりの女性の家に上がり込むなんて一国の王子としてあるまじき振る舞いだったと思う」


 あぁ、王子。あなたはなんて心優しいのだろう。全部私が悪いのに。


「それに……」


 王子が何かを言おうとしたが、周囲を警戒するように辺りを見渡した。


「ここだと人が多い。庭園で話さない?」


 王子はそう言って、私の腕を優しく掴んで導いてくれた。背後から嫌な視線を感じたが、必死に気のせいだと自分に言い聞かせた。 

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