表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校一の美少女がお母さんになりました。  作者: 九条蓮
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/73

第52話

 三人の食事を終えた頃だった。

 俺は洗い物をしながら、弥織と珠理の会話に耳を傾けていた。

 別に盗み聞くつもりはない。ただ、二人の会話を聞いている事が、最近の俺にとっての癒しになっていたのだ。


「ねえねえ珠理ちゃん、この中でどれか欲しいのある?」


 弥織がスマートフォンの画面を表示させて、何やら見せている。


「わー! クマさんのぬいぐるみ、たくさん! これ、おかーさんの?」


 珠理が感動の声を上げる。


「うん、そうだよ? たくさんあるでしょ。私、昔からぬいぐるみ集めるの好きだったの」


 どうやら弥織のぬいぐるみコレクションを珠理に見せているらしい。

 なにそれ、見たい。というか、弥織ってぬいぐるみ集めるのが好きだったのか。女の子らしくて可愛らしいな、と思わず頬が緩んだ。


「この中で、欲しいのあったらどれでも好きなのあげちゃう」

「えー、どれもかわいい」


 二人が肩を寄せ合いスマートフォンを覗き込んでいる姿は、もう親子にしか見えなくて。それをこうして眺めているだけで、何だか人生の成功者という気になれてくるから、不思議なものだった。


「どれどれ、俺にも見せてくれよ」


 洗い物を終えてから後ろから覗き込もうとすると、弥織がさっと画面を隠す。

 めちゃくちゃこちらが傷付く反応だ。


「やだ、だめ」

「ええ……なんでだよ」

「だって、これ私の部屋だもん。恥ずかしいよ……」

「何で珠理は良くて俺はダメなんだよ」


 何だか納得がいかない。

 というか、弥織の部屋とか見た過ぎる。


「そ、それを言うなら私だって依紗樹くんの部屋、見た事ないしッ」

「じゃあ、見る?」


 俺の返答に対して、弥織が「えッ⁉」と困惑の声を上げる。


「恥ずかしく、ないの?」

「まあ、別に。あんまり使ってないし」


 特に見られて困るものもないし、殆ど使ってすらいないのだから、見られても困るものはない。

 本棚には漫画と参考書くらいしかないし、自分の部屋のベッドなど長らく使用していない。たまに仮眠を取る時に使うが、最近ではその機会もなくなっていた。

 見られて困るものは、大体スマートフォンの中で完結している(そして大体シークレットページで見る様にしてる)ので安心だ。


「そ、そこはもうちょっと恥じらって欲しいんだけど……」


 もし俺が普通の高校生として生活している部屋だったならば、少しは恥ずかしかったかもしれない。

 ただ、基本的に自習以外で使用目的がない部屋など、見せたところで何も恥ずかしいものはない。これは、俺がこんな状況を強いられているからこその賜物であると言えよう。

 弥織は小さく溜め息を吐くと、俺にも見える様にスマートフォンの画面を向けてくれた。

 そこにはシンプルな薄ピンクのベッドと、その枕元を群雄割拠する状態のぬいぐるみ達が映っていた。珠理が「たくさんー!」と言ったのがよくわかる。本当にたくさんのぬいぐるみがそこの写真の中にはあった。


「……これ、寝返り打てなくないか?」

「寝返りなんて打たないもん。私、寝相いいから」


 何故か少し拗ねた様子の弥織であるが、どうやら恥ずかしいのだろう。それがどこか幼くて可愛らしかった。


「珠理、どれか欲しいのあるか? おかーさんがくれるらしいぞ」

「うーん……」


 珠理が画面をタップして拡大させつつ(この世代の子供達は自然とスマホやタブレットの扱い方を身に着けているから凄い)、一匹一匹吟味していく。

 ちなみに、うちにも子供用のタブレットが一台あって、それをそのまま与えている。支払いは無論、親父持ちである。


「これ!」


 暫く悩んだ末に珠理が選んだのは、白と黒でペアになっているクマのぬいぐるみだった。


「うん、いいよー。じゃあ、今度二匹とも持ってくるね」


 弥織がそう言うと、ふるふると珠理が首を横に振って黒いクマを指差した。


「こっちだけ」

「黒い方だけでいいの?」

「うん。おかーさんと、おそろいがいい」


 弥織の疑問に、珠理は満面笑顔でそう言った。

 その言葉に、一瞬弥織の方が固まっていた。彼女とて予期していなかった提案だったのだろう。

 珠理の言った言葉を咀嚼して理解できたのか、弥織の顔がみるみるうちに綻んでいく。柔らかくて嬉しそうで、まるで零れ落ちてしまいそうな笑顔だ。


「うん……おかーさんとお揃いにしようね。これからも、たくさんお揃いにしよ?」

「うん! おかーさんとおそろい!」


 珠理の返事が嬉しくて堪らなかったのか、弥織はぎゅーっと珠理を抱き締めていた。

 その時に見せていた彼女の笑みは、まさしく母のそれである様に思える。珠理も嬉しそうに弥織に抱き付いていた。


 ──俺はお揃いがいいなんて言われた事ないんだけどなぁ。


 そんな二人を眺めつつ、俺は小さく嘆息する。

〝おかーさん〟への嫉妬なんて、この光景を見ていれば全て消し飛んでしまう。弥織には勝てなくていいや、とさえ思ってしまうのだから不思議だった。

 きっとこんな感覚が味わえる高校生も、俺達くらいだ。

 ここでも弥織の言う『私達だけの想い出』が積み重ねられている気がして、何だか嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ