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学校一の美少女がお母さんになりました。  作者: 九条蓮
第一部

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第32話 マイナスイオンが出ている二人

 約束通り、昼休みは四人──弥織、スモモ、信也、そして俺──で過ごす事になった。

 俺は昼食を持ってきていなかったので、三人に先に屋上の場所取りをお願いし、パンを買いに購買へと向かう。

 購買では、月曜日という事もあって熾烈なパン争奪戦が繰り広げられていた。月曜日には週替わりの新作パンが投入されるので、それ目当てに生徒が殺到するのだ。

 購買組にとっては迷惑な話である。購買組は親に弁当を作ってもらえない何らかの事情があるわけで、昼食のパンの入手は謂わば死活問題だ。他に選択肢があるならそっちを取ってもらいたい、というのが俺達の本音だった。

 ちなみに、ここでミスをすれば、ウニバナナパンという原材料が一切不明のゲロマズなパンを食べる羽目になってしまう。午後の授業を乗り切る為にも、絶対に争奪戦に負けるわけにはいかないのだ。

 とはいえ、ほぼ毎日購買でパンを入手している俺にとっては、それほど難しいものでもない。初手の場所取りさえ間違えなければ、問題なく目当てのパンを買えるというのを既に熟知しているのだ。

 俺は熾烈な争奪戦に打ち勝ち、意気揚々と屋上へと向かった。


 ──あれ、俺なんでこんなに気分が良いんだろうな。


 ふと、屋上に向かう自分の足取りが軽い事に気付いた。普段、目当てのパンを入手してもこれほどご機嫌になる事はない。

 まあいいか、と屋上までの階段を上り切って、鉄扉を開く。

 屋上にはたくさんの人がいた。春のシーズンは、一番ここが昼食場所として利用される事が多い。これがあと一か月と少しすれば、暑くなってがらっと人が減る。

 一年から三年まで色んな人達が屋上で昼食を取っているさ中、その隅っこでは三人分のお弁当を挟んで、弥織とスモモが向かい合って座っていた。信也は二人の間に位置する場所に座っており、三角形を象っている。

 弥織は恥ずかしそうに俯いているのに対して、スモモは嬉しそうにしている。そして、信也は愕然としていた。


「そっかー! みーちゃん、真田の妹の〝おかーさん〟役、引き受けたのねー!」

「う、うん……」

「いやー、めでたいわー! うんうん!」


 どうやら、弥織が俺との仲について先に説明してくれていた様だ。俺から説明すべきだったのに、面倒を掛けさせてしまった。

 というか、三人になったから空気的に言わざるを得なくなったのだろうけども。


「おかーさん役って事は……伊宮、依紗樹の家に行ったのか⁉」

「え? うん。昨日と一昨日、行ったけど」

「しかも土日連続で⁉ だ、大事件じゃねーか……」


 何故か信也が落ち込んでいる。


「なに? あんた如きがみーちゃんの事狙ってたの?」

「ね、狙──⁉」

「ちげーよ、バカ!」


 スモモの意味不明なツッコミに戸惑う弥織と、きっぱり否定する信也。


「俺だって依紗樹の家には行った事ないのに、羨ましかったんだよ! 珠理ちゃんがいるからって、あいつ家に入れてくれないんだ!」

「あ、そっち……」


 信也の答えに、スモモがつまらなそうにしている。

 彼女としては信也が弥織を狙っていた方が面白かったのだろうか。


「あのね、桃ちゃん? 依紗樹くんは、狙ってるとかそういうのじゃないから」


 弥織も弥織できっぱりと彼女の言葉を否定する。

 そこまで否定されると、少し悲しいものがあった。いや、まあ狙ってなどないけども。狙って届くとも思っていないし。


「あ、なるほど。真田が狙ってるんじゃなくて、みーちゃんが狙ってるってわけね?」

「──⁉ もうッ、桃ちゃんのバカ! 知らない!」


 スモモが悪戯な笑みを浮かべて言うと、弥織が顔を真っ赤にして怒っていた。信也は信也で「それはそれで大事件じゃねーか……」と何故か落ち込んでいる。

 これは、タイミング的にもかなりまずいところで到着してしまった様だ。入り難い。


「あー……俺はもうちょっと他で時間潰してきた方がよかったか?」

「いんや、全然。丁度面白くなってきたところだぜ。な、伊宮?」


 信也も調子に乗ってからかおうとするが、弥織からじぃっと責める様な視線を送られると、「ひぇっ」と小さな悲鳴を上げていた。


「まーまー、おとーさんはおかーさんの横ね、ほれほれ」

「お前はおとーさん言うな」


 相変わらず遊ぶ気満々なスモモが、俺の背中を押して弥織の横に座らせる。


「遅かったね」


 弥織と目を合わせると、彼女は小さく安堵の息を吐いてから目尻を下げた。

 来てくれて助かった、という様な顔だ。この二人からずっと質問攻めを受けていたのだろう。


「購買混んでてさ。いつも命懸けの戦いなんだ」


 俺は戦利品の総菜パンを見せて言った。

 カツサンドと焼きそばパンに、コロッケパン。これだけあれば、夕飯までは持つだろう。


「依紗樹くん、いつもお昼は購買のパンなの?」

「ああ、うん。朝は珠理を送っていったりで時間あんまりないからな」

「そうなんだ……」


 弥織は何かもの言いたげだったが、結局それ以上は何も言わなかった。


「おいおい、これはほんとにイイ感じなんじゃないか?」

「うん、あたしも結構ビックリしてる」


 視界の隅では信也とスモモがこそこそ話をしている。

 今の会話から何をどう見るとそういう感想に辿り着くのか、是非詳しく聞いてみたいところであった。


「もう。二人とも、わけわかんない事言ってないで、お昼食べよ? 私、お腹ぺこぺこ」


 弥織がこちらを向いて、「ね?」と困った様な笑みを浮かべた。

 その困り眉が可愛くて、思わず顔がにやけてしまう。


「なんだろう……この見守りたいオーラ。マイナスイオン?」

「わかる、あたしも同じ気持ちになった」


 スモモと信也は相変わらず意味のわからない事を言っているが、とりあえず初めて四人で過ごす昼休みが始まった。

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