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学校一の美少女がお母さんになりました。  作者: 九条蓮
第一部

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第26話 〝おかーさん〟のナポリタン

 学校一の美少女兼〝おかーさん〟の料理の腕前は、如何程か。口ぶりからして下手なわけではなさそうだが、どうなのだろうか。

 まず彼女は鍋のお湯を沸かして、早速麺を投入した。


「え、もう麺茹でるの?」

「うん。太麺だから、時間かかるの」


 弥織はパスタ麺のパッケージを見せて言った。

 茹で時間が十一分と記載されている。確かに普通のパスタよりは随分と長い。

 二ミリの麺なので、普通のパスタよりはかなり太麺だ。彼女曰く、ナポリタンには太麺が合うらしい。そういえば、店で出てくるナポリタンは太麺のイメージが強い。

 麺を茹で始めたら、次は野菜の下拵えだ。まずはにんにくやピーマン、しめじ、玉ねぎを切っていく。包丁捌き等は俺からすればもはやプロかと思う程の腕前だった。


「じゃあ、早速作っていくから、見ててね」

「はい、先生」


 俺が素直にそう言うと、弥織はくすっと笑っていた。

 もうこの下拵えを見た時点で彼女の料理技術が俺よりも勝っている事は明確なので、師として仰ぐ他ない。いや、まだ美味いかどうかはわからないけれど。

 彼女はまず刻みにんにくとオリーブオイルを入れてから火を点けて、玉ねぎとベーコンを入れた。ベーコンは厚切りのものが合うそうだ。


「あれ、ピーマンは?」

「ピーマンは食感を残したいから最後に入れるの」


 塩コショウを軽く入れながら、師匠が答える。

 食感まで考えている時点で、絶対に美味しいものができる気しかしない。

 その後にしめじを入れてから、フライパンをかき混ぜる。

 フライパンの扱いもかなり慣れている様子だった。


「料理はよくするのか?」

「うん。小学校の高学年くらいからかな? 自分でレシピとか調べて作るようになって」


 弥織曰く、お祖母ちゃんがそれほど料理が得意ではなく、これなら自分で作った方が美味しいのではないか、と小学生ながら思い至ったそうだ。それから週に何度か彼女が夕飯を担当する様になったらしい。

 おそらく、彼女にはもともと料理のセンスというものがあったのだろう。俺はほぼ毎日作っているのに全く上手くなる気配がないのだ。


「うん、そろそろいいかな……」


 少しの間野菜を炒めて、玉ねぎが半透明になったくらいのタイミングでピーマンを投入。その後にケチャップをばーっと入れた。


「ケチャップはこのタイミングで入れてね。酸味を飛ばさないといけないから」

「なるほど」

「それで、ケチャップと一緒にこれも入れるの」


 そう言って、弥織はビニール袋からある物を取り出した。


「中濃ソース?」

「うん。これがおかーさん流の隠し味」

「おかーさんのかくしあじ!」


 隠し味、という単語が気に入ったのか、珠理が隠し味を復唱する。

 それからケチャップの酸味を飛ばす為に、暫く炒めていた。


「で、最後にこれを入れます。じゃじゃーん」


 弥織がそう言って取り出したのが、蜂蜜だった。


「蜂蜜なんか入れるの!?」

「うん。この甘みが良い味を出してくれるの」


 弥織は自信ありげな顔をしているが、俺としてはそれに疑いを持ってしまう。

 めちゃくちゃ甘くなりそうな気しかしないのだが、大丈夫なのだろうか。個人的には、ケチャップだけでも甘いと思うのだけれど。

 訝しみつつ眺める俺を横目に、彼女はさーっと蜂蜜をフライパンに垂らしていく。


「ああ……なんて事を」

「そんな絶望した顔しないでよ。美味しいんだから」


 弥織は不服そうな顔をして、蜂蜜をかき混ぜていく。少しだけ味見をして、「うーん、おいしっ」と顔を綻ばせていた。

 だが、その顔を見なくてもこのナポリタンが美味しい事は匂いを嗅ぐだけでわかる。我が家にはナポリタンの良い匂いが充満していたのだ。


「え、俺も味見させてよ」

「おかーさん、あじみー!」


 おとーさんとムスメが揃ってぶーぶー文句を言うが、おかーさんは「まだだーめ」と食べさせてくれない。ちなみに『だーめ』の発音とそれを言った時の悪戯な笑みが可愛すぎて悶えそうになったのはここだけの話だ。

 弥織はそこから更にバターを入れて溶かし、更にフライパンをかき混ぜて行く。


 ──凄いな。俺が作ったのと全然違う。


 感心しかなかった。

 手間の掛け方に手順、どれをとっても『料理ができる人の料理の作り方』だった。テキトーに作ってしまう俺とは全く次元が異なる。それほど難しいものを作っているわけではないのだけれど、細かいところに彼女なりの拘りを感じた。

 それから十分茹でられた太麺のお湯を切って、そのままフライパンに入れて行く。


「これってレシピとか覚えたの?」

「ううん、私のオリジナルだよ。色々試してみて、一番美味しいのがこれかなーって」


 弥織はフライパンを煽りながら答えた。

 やっぱり。彼女は結構な料理研究家だったのだ。

 このナポリタンが美味しいのは、もう疑う余地がない。それはこの台所に充満する匂いで既にわかった。

 蜂蜜だけが不安ではあるのだけれど、この手際の良さを見ていると、きっと良い隠し味になりそうな気がする。


「はい、完成したよ!」


 フライパンのナポリタンを三つのお皿に盛り分けて、最後にパルメザンチーズを振りかけた。

 もはや定食屋さんに出てくるナポリタンに他ならない。絶対に美味しいやつだ。俺も珠理も涎を垂らさん勢いでナポリタンをガン見していた。

 早速ダイニングテーブルまで運んで、お茶を入れて、三人で手を合わせる。


「「「いただきます」」」


 三人の声が意図せず重なって、思わず笑みを交わした。

 なんだろう……凄く、家族っぽい。

 そして、遂に学校一の美少女兼〝おかーさん〟のナポリタンを三人で食べ始める。その味は如何に、とフォークをくるくる撒いて、口に運ぶと──


「なにこれ……」

「え⁉ 口に合わなかった?」

「いや……これ、美味過ぎない?」


 俺が溜めてそう言うと、弥織が「もう、驚かせないでよ」と表情を緩めて小さく息を吐いた。


「美味しくないって言われるのかと思った」

「悪い悪い、あまりに美味し過ぎてすぐに感想が出てこなかったんだよ」

「それならよかった。珠理ちゃんは?」


 弥織ははむはむと無言で食べ続けている珠理に訊いた。


「ん~! おかーさん、すごい! おかーさんのナポリタンおいしい!」


 ナポリタン好きの珠理にも大好評だ。

 こんなに料理を食べて感動していた妹を見たのは初めてかもしれない。


 ──俺の作ってる料理、きっと美味しくないって思いながら普段から無理して食べてくれてたんだろうなぁ。


 そう思うと泣けてくる。もうちょっと頑張らないといけないなぁと思わされるのだった。

 ばくばく食べる俺達を見て、弥織は目を細めて微笑むと、自らも口に含んで「作ったの久しぶりだけどおいしっ」と自画自賛する。

 だが、この弥織製ナポリタン、本当に冗談抜きで美味い。ひと口食べた瞬間にわかる美味さがある。

 太麺であるが故のモチモチさがナポリタン色を強めていて、ケチャップと蜂蜜の甘みが不思議とよく合っている。ご飯が欲しくなるナポリタンだ。

 俺達はそうして、弥織特製ナポリタンを楽しむのであった。

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