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学校一の美少女がお母さんになりました。  作者: 九条蓮
第一部

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第16話 バブみ趣味の疑い再び

「そ、それで……お母さん役はいつから始めればいいの?」


 クレープを食べ終わってから気まずい沈黙を破る様に、伊宮さんが言った。

 たったこの数分の間に、間接キス事件やら──伊宮さんは気付いていない様だが──ほっぺたクリーム指取り事件があったりで、大変だった。

 俺の寿命は間違いなく三年は縮んだ様に思う。クレープ恐るべし。


「えっと……明日土曜日だし、明日にしようか。予定大丈夫?」

「うん、平気だよ。私が真田くんの家に行けばいいかな?」


 いきなりの提案に、俺が思わずたじろいでしまう。

 伊宮さんがうちに来る……考えた事もなかった事態が起ころうとしていた。


「こっちは助かるけど……いいのか?」

「うん。珠理ちゃんもリラックスできるだろうし、その方がいいかなって」


 それもそうだ。

 別に彼女は俺が目的でうちに遊びに来るわけではない。一瞬伊宮さんがうちに来るという事で期待してしまったけれど、あくまでも珠理のお母さん役で来るだけなのである。


「まあ、私は緊張するけどね……」

「え、なんで?」

「なんでって……男の子の家とか行った事ないもん」


 緊張しない方がおかしいよ、と伊宮さんが少し頬を膨らませて言う。

 どうやら、彼女はこれまでの人生で男子と距離を置いていたというのは本当らしい。こうして男子と何処かに出掛けるというのも初めてなのだろう。だからさっきも、スモモと出掛けている感じで俺に接してしまっていたのだ。


 ──こんなに可愛いし、モテるのに……どうしてこれまで彼氏作らなかったのかな。


 恥ずかしそうにしている彼女の横顔を見て、ふとそう思う。

 スモモは、伊宮さんの両親の事が絡んでいるのではないか、と推測していたが、実際のところはわからない。ただ、こうして話しているところをみると、特別男子が苦手というわけでもなさそうだ。


「とりあえず、うちの地図のリンクを……」


 と思ってスマホを開くが、彼女の連絡先を知らなかった。

 こういう時って連絡先を聞いても良いものなのだろうか。


「えっと……LIME交換する?」


 俺の言いたい事を察したのだろう。おずおずと伊宮さんが申し出てくれた。

 LIMEとは、メッセージ機能と電話機能、その他電子マネー含め色々な機能がついているメッセージアプリだ。日本人の多くが利用しており、親しい間柄の人とはこのアプリを用いて連絡を取り合う。

 とは言え、俺は信也や親父、その他数人の男子としか連絡先を交換していない。女子などもってのほかだ。

 伊宮さんがアカウントのQRコードを出してくれたので、それを読み取って連絡先を登録すると、彼女もそこから登録してくれた。


「男の子とLIME交換したの、初めて」

「今まで聞かれなかったのか?」

「聞かれたけど、いつも曖昧にして誤魔化してたの。交換しても面倒な事にしかならなそうだったし」

「まあ……大体が下心あるよな」


 彼女ほどの人気者だったら尚更だ。

 一人と交換すれば他も殺到してくるだろうし、誰が誰やらわからなくなって、未読メッセージが山ほど溜まるのだろう。


「真田くんは……?」

「え?」

「真田くんも、下心あるの?」

「な、ないよ! 家! 家の住所送る為だから!」


 俺はそれを証明する様に、自分の住所とマップを貼り付けて、伊宮さんに送信した。

 彼女は慌てふためく俺を見て、くすくす笑っている。


「あ、真田くんこの辺に住んでるんだ」

「来た事ある?」


 マップアプリで開いてうちの場所を確認すると、伊宮さんがそう言葉を漏らした。


「ううん、でもそんなに遠くないなって。歩いて行ける距離かな」

「伊宮さんはどこ住み?」

「私は東町の三丁目だよ。ほんとにあのスーパーの近くなの」


 東町の三丁目というと、珠理の保育園とうちのちょうど真ん中くらいだ。中学では学区が異なるが、どうやら思ったよりご近所さんだったらしい。


「三丁目ならバスの方が早くない? バス代なら出すよ」

「いいよ、そんなの。歩いていくから」


 もうクレープ代出してくれてるでしょ、と伊宮さんはクレープの包紙を指差した。

 交通費くらいは出したいと思うのだが、彼女としてもそこは引き下がってくれなかった。クラスメイトにそこまでお金を出させたくないそうだ。


 ──こっちが一方的に頼んでるだけなのに……ほんとに優しい子なんだなぁ。


 何だか、こちらの方が申し訳なくなってくるくらいだ。

 ただ、そう言ってくれるならその厚意には甘えさせてもらおう。ご飯代とか、学校の事とか、他の面で彼女に少しずつ恩を返していけばいい。


「えっと……改めまして」


 伊宮さんが包紙を折り畳んでベンチ横のごみ箱に捨てたかと思うと、すくっと立ち上がった。


「ふつつかなおかーさんですが、宜しくお願いします」


 そして、俺の方にお辞儀をする。


「こ、こちらこそ! 気の利かない息子ですが……ってあれ?」


 俺も慌てて立ってお辞儀をしたが、そこで自分の発言の可笑しさに気付く。

 何で俺は息子になってるんだ。


「やっぱり……真田くんって、バブみ趣味あるの?」


 悪戯に笑って、面白そうに伊宮さんが訊いてくる。


「ち、ちがッ! だって、俺は珠理の兄で、珠理のお母さん役を伊宮さんがするんだったら、俺も子供になるだろ!?」

「でも、同い年だよ?」

「そうだけど! てか、この話はおしまい!」

「えー? 私はもうちょっと聞きたいのになぁ」


 相変わらずからかいモードの伊宮さんだが、これ以上この話題に深く突っ込むと、別の墓穴を掘りそうだ。

 同い年だからと言って、俺がお父さんで伊宮さんがお母さんだとか言い出したら、それはそれで別の意味で気まずくなる。

 結局俺のバブみ趣味の疑いは晴れなかったが、とりあえず明日の約束は取りつけた。大きな難関をクリアしたと言っても良いだろう。

 あとは、実際に明日伊宮さんがうちに来て、珠理とどうなるかだ。これはこれで全く読めない。

 まずは、家に帰ったら念入りに掃除しようと誓う俺であった。

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