表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/13

思い出の場所で再会

 静寂に包まれた図書室。

 ノアの記録本は、光を失ったまま机に置かれていた。


 ユウは目を閉じる。記録に残ったノアの最後の言葉が、胸の奥で何度も反響していた。


『――ユウが帰ってきてくれるって、信じてるから。待ってるね』


「帰ってくる……って、どこに?」


 呟いたとき、ふとある記憶がよみがえった。


 それは、まだノアが声しかなかった頃――最初にありがとうを言ってくれた場所。


 ――図書室の、南東の角。

 本棚の裏、かつてユウが魔力で押し開いた小さな未完成の扉。


「あそこ……まだ残ってるかもしれない」


====


「ユウ? どこ行くのよ!」


 リンが階段を駆け上がってくるのと、ユウが図書室の奥に走り込むのは同時だった。


「未完成の部屋……たしか、あのとき一度だけ反応した!」


 本棚を押しのけ、手をかざすと、淡く光がにじみ出る。


「残ってた……!」


「え、そこって確か……魔力が不安定すぎて封印したところじゃ……」


「ノアの記録が残ってるなら、ここしかない!」


 ユウは躊躇なくその扉を開ける。


 空間がねじれ、視界が白く弾けた。


====


 気づくと、そこは――見慣れたはずの家ではなかった。


 どこか懐かしい気配がする、しかし明らかに現実とは異なる空間。


 壁も天井も曖昧で、空気にノアの気配が満ちている。


「……ここは、記憶の間。ノアの……心の中?」


 白い靄が漂う中、ユウはゆっくりと歩を進める。


 と、その先に――小さな光の粒が、ぽつんと座っていた。


 それは、Lv3の姿――半透明の少女の幻影だった。


 透き通るような瞳が、こちらをまっすぐに見ていた。


「……ユウ?」


「ノア……!」


 ユウは思わず駆け寄ろうとするが、光の粒がぴたりと手前で止まった。


「……ダメ。今の私は、本物じゃないから」


「いい。幻影でも、ノアはノアだろ?」


 ユウは膝をつき、同じ目線にしゃがんだ。


「……心の中に閉じこもってたんだ。怖くて」


「……?」


「家が広がるの、嬉しかった。でも、どんどんユウの世界が広がっていくのを見て……置いていかれそうで苦しくて」


「――バカ」


 ユウは、小さな幻影の肩をそっと抱きしめるようにして言った。


「俺はどこへ行ったって、ここに帰ってくる。ノアがいるこの家が、俺の帰る場所なんだよ」


「……でも、私は……」


「怖いなら、手を取れ。俺が引っ張る」


 手を差し出す。幻影の少女は、そっとその手に触れた。


 その瞬間、まばゆい光が彼女を包む。


 半透明だった身体が、徐々に輪郭を強くしていく。


「……ノア?」


「……うん、ありがとう。ユウが……迎えにきてくれて」


 少女は微笑む。


 それは、今まで見たどの姿よりも、確かな感情に満ちていた。


====


 ユウが意識を取り戻したとき、図書室の空間に再び魔力の流れが生まれていた。


 そして――


「……ただいま、ユウ」


 小さな少女の幻影が、ユウの前に立っていた。


 透明だが、しっかりと存在する『かたち』。


「ノア……!」


 その声に、リンが思わず後ずさる。


「これが……精霊の進化?」


「うん。たぶん……今の私は、心と心がつながった記憶の形」


 ノアは、少しはにかんだように笑った。


「でも、もう一人じゃない。ユウが、私を見つけてくれたから」


 その言葉に、ユウはゆっくりと頷いた。


「おかえり、ノア……約束通り、迎えにきたよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ