初めての家改装、図書室を作ろう!
翌朝、目が覚めると――枕元に淡い光が浮かんでいた。
「……おはよう、ノア」
『うん、おはよう。ユウ』
昨日の出来事が夢じゃなかったことに、改めて驚かされる。まさか自分の家に精霊が宿っていて、その精霊が目覚め、名前までつけたなんて。
けれど、ノアの光は確かにそこにあって、静かに俺の目覚めを待っていた。
「なあ、ノア。昨日言ってた、家を育てるって、具体的にどうすればいいんだ?」
『部屋の構造を変えたり、魔力を通したり、家具や本を集めたり……うん。いろんなことができるよ』
「魔力って、そんな簡単に通せるもんじゃないだろ。俺、魔法適性ないし……」
『ユウの想いがあれば、十分。特に、本や知識は、この家にとってすごく大事なの』
「本……か」
俺は、立ち上がってボロ家の中を見回した。
埃まみれの棚、空っぽの壁。見るからに寂しい。
でも、少しずつなら――変えられる気がした。
「よし。まずは図書室だな。知識を得られる部屋があれば、俺も少しは強くなれるかもしれない」
『いいね、図書室!』
「……いや、テンション高くない?」
『うれしいんだもん。ユウがこの家を、育てたいって言ってくれたから』
そう言われると、なんだか背筋が伸びる。
というわけで、その日俺は、さっそくギルドへ向かった。
目的は、「古本回収クエスト」。街の倉庫や個人宅からいらなくなった本を引き取ってくるという、実に地味な内容だ。だが、報酬はそこそこ。そして、俺にとっては必要な資材でもある。
「よう、またお前か。……今度は何だ?」
いつも不機嫌そうなギルドマスターが眉をしかめる。が、俺の説明を聞くと、意外そうな顔をした。
「図書室だぁ? ……お前、家に魔導設備でも仕込んでるのか?」
「そういうの……に近いかもしれません」
言葉を濁したが、実際に家が、魔力を持っているのは事実だ。
マスターは小さく鼻を鳴らすと、いくつかの回収依頼をまとめて俺に渡してくれた。
「物好きな金持ちが捨てる魔導書が混じってる。燃やすよりゃマシだ。持ってけ」
「ありがとうございます!」
いざ、回収開始。俺は手押し車を借りて、街中を駆け回った。
古びた日記帳、使い込まれた魔術指南書、黄ばんだ絵本――内容は玉石混交だが、どれも「知識」という意味では立派な資材だ。
帰宅して、ノアに報告すると、彼女の光がわずかに明るくなった気がした。
『これだけ集まれば、図書室Lv1を起動できる』
「起動?」
『うん。私の魔力を使って、家の空間を変換する。ここに、本を収めて……こう!』
ノアが光を発すると、家の奥にあった物置部屋の扉が、ふっと音を立てて変化した。鈍い木材が、深い色合いの扉へと変わる。
おそるおそる開けると、そこには――
本棚が並び、魔導ランプの灯る静かな空間が広がっていた。
「これが……俺の、図書室……!」
椅子と机も備えつけられていて、まるで図書館の一角のようだ。
部屋の空気が変わった。魔力が流れている。家の一部が、本当に生きていると実感できる。
『これで、ユウは本から知識を得られるようになる。スキルや戦術、過去の冒険者たちの記録……いろんな情報が、君の中に入る』
「すげぇ……これが、家を育てるってことなのか」
『うん。そして、私も一緒に育っていく。もっと話せるようになって、もっと……形を持てるようになる』
ノアの声が、少しだけ嬉しそうに聞こえた。
そうだ。この家には、ただ住むだけじゃない、もっと大きな価値がある。
帰る場所ってだけじゃない。ここは、俺を強くしてくれる拠点になる。
「ノア、俺……やってみるよ。この家を、お前を……全力で育ててみせる」
『うん。私も、ユウを強くする。だから、また一緒に頑張ろう』
淡く揺れる光球が、俺の胸元に寄り添ってくる。
静かな図書室の空気の中――新しい日常が、確かに始まった。