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【全年齢版】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?  作者: 結月てでぃ
王の騎士編

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2.空で言われる君のことを

 アイザックと違い、レウは心配性なところがあると思っていた。中央にいた頃から一人で街を歩けば怒られ、大部屋で部下たちと雑魚寝をしようとすれば小さいから潰れると言って壁もしくはアイザックかレウの間で寝かされていた。

 だから、これもその内の一つなのだろう。

 レイアーラとレイヴェンが罪人として捕まった日から新聞が隠されるようになった。巧妙に隠されていて、情勢を聞こうとしても取り合ってもらえない。困り果ててギジアに相談するも「レウに怒られるから……ごめんね」と断られる羽目だ。

「知らなきゃ対策も取れないだろ……馬鹿レウ」

 なにをそんなに気にしているのだとエディスはふくれっ面でソファーに丸まっていた。

 シルベリアたちを向かい入れた時に浮かべていた、滅多にないエディスの満面の笑顔が消え失せてしまったからなのだが、それを知る由もないエディスは自室として割り当てられた部屋に向かう。外套を頭からすっぽり羽織って、屋敷の外にこっそり出て行く。

 そうして街で入手した新聞を店の軒先にしゃがみこんで開く。ここで読んで誰かに譲るか捨ててしまおうと考えたのだ。幸い、寒さ避けの魔法を自分に掛けているので雪が降っていても凍ることがない。

「しっかしまあ、酷いことがあるもんだ」

 だが、エディスは新聞を読み終わってもそこを動くことができなかった。

「本当ねえ……姫様を修道院に送るだなんて」

「レイヴェン様も南の元反軍狩りに従事させられるんだろう」

 肩を寄せて歩く人々の噂は、新聞に書かれてあることと違わない。エンパイア公爵家の一人息子・エドワードが下した審判はこうだ。

 兼ねてより他国の者と通じて情報を渡していた、売国奴レイヴェン・バスティスグランは全ての勲章と身分を剥奪。南部にいる元反軍の討伐活動の責任者に任じられた。また、その師匠であるトリエランディア大将を含む派閥に余罪がないか調べる必要があるだろうとも。

 そして、先王の娘キシウ・ティーンスと王太子のハイデ・ティーンスの殺害未遂事件を引き起こした悪女。国民を騙したレイアーラ・ティーンスは自らの罪を認め、悔やみ、改心させるため、南にある修道院に送られる。

 ありったけの新聞を買って読み比べてみたが、悪し様に書いてあるのはその二人だけではなかった。

「噂の悪役令息、姫を荒くれの土地に幽閉」「ブラッド家との癒着は真か」――などと書いている新聞もある。トリエランディア少将を支持する側か、王立賛成派かのどちらかが書いたのだろう。

「王族をなんだと思っているんだ!」

「そうよ、あんなに心優しい姫様を……エンパイア公子は人の心がないの!?」

「まるで獣だ。考えなくても罠だと分かるだろうに、非道な」

 怒り狂う人の心に渦巻かれ、体が重苦しく感じられた。

「違う……」

 叫んで、道行く人を立ち止めて否定をしたかった。

(違う、エドは二人を助けてくれたんだ)

 エドワードが南に送らなければ二人は確実に殺されていた。南がエディスの支援が及ぶ土地だと分かっていて、二人揃って逃がしてくれた。

 優しいと思った。エドワードは今まで何度こんな風に自分を犠牲にして誰かを守ってきたのだろうか。考えるだに胸が痛む。

 理解者がいないことは悲しいことだ。彼への想いが膨らんで、涙となって流れ落ちていく。新聞に黒ずんだ跡を作ったそれは溢れて零れて、いくつもいくつも増える。

 作り慣れた笑顔、夜を越えて作られた薄い隈、大人びた表情――無理に子どもらしさを潰していた。感情を殺さなければ生きていけない程の環境に、彼は生まれ落ちた時から置かされているはずだ。

「……だから読むなって言っただろ」

 傘を持ってこちらを見下ろしてくるレウに、エディスは鼻を啜った。こんなに泣いてと言って、涙を乱雑に親指の付け根辺りで拭われる。

 抱き寄せてくるレウの温かな熱を感じ、首にしがみついて声を上げて泣く。フードを手で押さえ、自分の体でエディスを隠そうとしてくれるレウの優しさで体に降り積もった雪が溶けてなくなっていくようだった。

 生きたくて、逃げたくて軍人になった。軍人になって人を助けたいと願うようになった。なのに――今、自分はどうしているのか。逃げているだけ、生きているだけだ。

 戦いたいと、理不尽に人を屠ろうとする者と対峙する力を付けたいと怒りが腹の底から上がってくる。

「レウ、……中央に戻るぞ。アイツらを野放しにできねえ」

 拒絶を口にされる前に「王太子に名乗り出てやる」と宣言したエディスに、レウは視線を揺らした。気持ちを振り切るように目を閉じて頷いた旗下に、エディスは詰まっていた息を吐き出す。


 シルクが残したこの世界を守るために、自分になにができるだろうか。

 そう想い、青の目に怒りに燃やす。

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