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【全年齢版】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?  作者: 結月てでぃ
御曹司編

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7.父というものは

「さてと、一緒に風呂でも入るか!」

「はァ? なに言ってんだお前」

 ミシアはテーブルの上に手をつき、ぽかんと見上げるエディスの顎を掬い取った。

「パパと一緒にお風呂はーいろっ」

「断る。パパじゃねえし……」

「ままっ、そー言わずに!」

 寄ってきてエディスを立たせたミシアに背中を押され、前に足を進めたエディスは「おいおいおい!」と慌てた。

「片付けは!?」

「後でやればいいだろ」

「俺が今やっとくからお前ら先に入ってろよ!」

 遠慮するなと笑ったミシアはエディスを肩に担ぐ。

「ミ、ミシアッ。本当にやめろって」

 軍服の上着を脱がされ、中に着ている赤いランニングシャツもすぽんと頭から抜かれた。バンザーイとか、そんな甘くて優しいものはない。

「や、いや、ちょ……マジで勘弁だって!」

 背後から脇の下に腕を突っ込まれ、半ば抱き抱えられている状態でズボンのジッパーに手をかけられる。

「シトラス! お前見てねー……で」

 体を捩じり、ミシア越しに見ると、シトラスは恥じらうように顔を手で覆っていた。

「おい! なに恥ずかしがってんだよ!」

「だって、エディスやらしい」

「やらしいことしてんのはミシアだろーが!」

 結構な声量で怒鳴るエディスの、ミシアの体の隙間から見える足の細さや、腕の白さを見――

「エディスの体が色っぽいんです……」

 と体をくねらせるシトラスに、エディスはがくりと力を失った。

「いいから、お前らで先に入ってこいよ……」


 つるりと磨き上げられたグラスを棚に仕舞ったエディスはにっこりと笑う。フィンティア家を離れてから、こんなに高そうなグラスのお世話をさせてもらえることなんて一度もなかった。紅茶やケーキを楽しむためのカップや皿以外も拭きまわったエディスは、懐かしさに頬を緩めてしまう。

「あ、でも――」

 勝手に触りまくってまずかったかな、と唇に指の腹を当てて考え込んでいると、ミシアとシトラスが上がってきた。ほかほかと湯気を立てていて、血色が良い。十分温まったということが一目で分かる姿に、自然と笑みが浮かんでくる。

「あったまったか?」

 子どもを前にしたような言葉が口から出て、エディス自身驚いた。だが、ミシアは目を閉じて頷きながらも笑う。そして、広いキッチンを見渡して「綺麗になったもんだな」と瞬きをする。

「あ、ご、ごめん! その、つい」

 慌てて謝るエディスに、ミシアは小さく頭を振った。

「いいんだ、ありがとう。それより早くお前も入ってこい」

 ミシアの中に不快感がないことを確かめたエディスは安堵して「分かった」と頷くと、持参したバッグの中から着替えとタオルを取り出して、風呂場まで向かった。




 急いでシャワーを浴びたエディスは、風呂場を洗ってから浴室を出た。タオルで体を拭い、ある程度まで髪を乾かしてから、脱衣カゴを持ち上げる。

「ミシアー、洗濯場どこだ?」

 キッチンで水を飲んでいたミシアに声をかけると、ミシアは苦笑した。

「洗濯なんて放っといてもいいんだぞ」

「そういうわけにもいかないだろ。明日早めに出るんじゃないのか?」

 休みとはいえなにが起こるか分からないんだし時間のある内にしておきたいというエディスに、ミシアはガラスコップをシンクに置いて歩き出す。

 風呂場の二つ隣の戸を開けると、細まったスペースがあった。ミシアはその中に入って奥の木戸を親指で差す。

「ここ開けると外に出れる」

「分かった。干すのは明日の朝やっとく」

 そう言ってエディスはタライを持ってきて、中に水を溜めていく。洗い物の色を判別しながら、先に洗う薄い色のものを入れる。その様子を見守っているミシアに顔を向け、「足で踏み洗いしてもいいか?」と訊ねた。

「構わん、すまんな」

 エディスの頭を撫でたミシアにエディスは目を丸くする。

「ありがと」

 小分けにする袋の中に靴下やハンカチを集める。しゃがんで作業をしているエディスのつむじを見下ろしているミシアは眉を寄せ、悲し気に苦みを帯びた笑みを浮かべた。

「なあ、エディス」

 そして、自分もしゃがむとエディスの肩を丸く抱く。

「お前、俺の養子にならないか?」

 薄く開いた唇から空気が漏れ出た。振り向き見たミシアの顔は、自分を温かく包みこむような優しさに満ちていて。エディスはふと、父親の顔とはこういうものなのだろうかと考えようとして俯く。

「あ……俺。その、」

 これが父親としての顔なのかどうかは、己の想像でしかない。エディスにとっての”父親”の顔というのは、まだ真っ白なお面のままなのだから。

 言いよどんだエディスを、ミシアは抱きしめる。それを受けて手を背中に当てようとして腕を上げるも、それ以上力が入らない。震えてしまう腕を、結局そのまま下にだらりと垂らした。

 ミシアはエディスの躊躇いを感じ取ったのか、ふっと息を漏らすと、「冗談だ」と零した。

「冗談だ! ほら、続きやってしまうぞ!」

 ばんと強く肩を叩くと、ミシアは立ち上がる。エディスも立ち上がり、ネットを洗濯機の中に放り込んだ。

「……ごめん」

 ありがとう、とは言えないエディスに、ミシアは眉を寄せる。

「いいんだよ」

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