7.忘れられない人がいるんだ
と、いうわけでとシュウが勿体つけるように言って「次はお前の番だな」と緩く握った手をエディスの口元まで持ってきた。
まあ待て待てと腰を上げたシルベリアはキッチンに引っ込み、水とお茶の入ったボトル、器用に指に挟んでグラスを三つ持ってくる。
「腹空いたんだけど、なにか食おうぜ」
「野菜炒めのっけたラーメン」
当然のようにリクエストするシュウの頭を小突いて、それでもシルベリアはキッチンに戻っていくので受けたのだろう。
「お前は? 食ったのか」
寮の食堂は任務から帰ってきた時点で閉まっていたので、仕方がないとエディスは最初から諦めていたのだ。
「そこまで厄介になるわけには……」
「いいよ、どうせシュウの実家から送られてくる金で買ってるし」
一気に作るから手間もそんなにないと言われ、エディスはじゃあ……と頷く。シュウはエディスのそんな様子をどう思ったのか「大丈夫だ、アイツの料理美味いから」と背中を叩いてきた。
しばらくしてシルベリアが湯気の立った丼を三つ運んでくると、シュウはいそいそと折りたたみ式のテーブルを出して設置する。
「お前にはおまけな」
そう言ってエディスの前に置かれた丼の中には、他のとは違って半熟卵まで入っていた。それを見たシュウが「あっ、ずりぃ!」と言うとシルベリアは「そう言うだろうと思ったよ」と笑ってシュウの前にも丼を置く。
野菜たっぷり、しかも卵付き。躊躇いなく箸を握って食べだしたシュウを見てからエディスはいただきますと手を合わせる。
シルベリアだけリゾットだったが「美容に悪い」という理由で違うメニューにしているらしい。
ずるずると麺をすすっている内に汗をかく程体が温まってきた。丼を持って息をふぅと吹きかける。横から視線を感じて目を向けると、シルベリアの眉間にほんの少しだけ皺が寄っていることに気が付く。
訊ねるとシルベリアは決まりが悪そうにクッションの上で位置を整えてから「なんでそんなチグハグな頭にしてるんだ?」と
「あー……なんか、願掛け? みたいな」
会いたい人がいるんだよなと言ってスープを飲む。丼を置くと視線を浴びていることに気がつき、首を傾げる。
麺をすくって口を開けたままのシュウも、こちらを見た笑顔のままのシルベリアも。どちらも目が合うと逸らされてしまう。「おい?」と声を掛けると、気まずそうに「生き別れの家族、とかか?」と訊いてきた。
「違うけど……なんでだ?」
「じゃあ、昔世話になった人とか」
まだ名乗ってもいないのに、やけに慎重な素振りの二人を怪しみながらも「いや?」と答える。
「なに。なんか知ってんのか」
この顔に見覚えでもあるのかという意味で指差すと、取り繕うように「意味深だったからさ」と笑われた。
エディスはふぅんと言うとテーブルに肘枕をついて「ちなみに、俺の名前"エディス"っていうんだけど」と笑いかけてみる。今度は完全に顔を強ばらせた二人に、エディスは「知ってんじゃねえか」と手を伸ばして腕を掴んだ。




