箒星が輝く日
続けられるか分かりませんが、頑張って長編を書きます。
ある場所で、朝雲雀が鳴いた。
なんでもない辺鄙な町外れにとある屋敷が存在した。近くに波打つ音が激しい岬が屋敷の存在感を放っており、如何にも大層年季の入った場所なのだと理解する。
そんな屋敷の前で、私は唖然としていた。
此処が噂の幽霊屋敷かと、実際に目にして驚いたのだ。
噂ではこの屋敷は約100年前に建てられた歴史ある屋敷で、当時住んでいた住人の奇怪な死体が屋敷から出たとのことである。
数年して屋敷の解体作業の目途が経ったある日、作業員が解体作業開始直後に、重機の事故に巻き込まれてしまったり、雨の中作業を続行しようと思ったら落雷を浴びてしまう者も出てきたりなど、その他非業の死を遂げた者が数名出てしまい、その内解体作業自体無くなってしまった。
その後、その屋敷を買い取ろうと申し出た女性が屋敷を買い取って以来、何十年も異変は起きなくなった。
しかし謎はまだ残ったままであり、近くにある町の住人曰く、屋敷の女性が町へ降りてくるのを見た事は勿論、気味悪がって近付くことすらない。
私は、意を決して屋敷の扉をノックした。
何秒待っただろうか、誰も居ないのだろうか、或いは無視されているんじゃないかと思うことだ。
どれだけ待っても、何の変哲もない。
仕方ないので、鍵が掛かっているを承知で自らドアを開ける事にした。
するとあっさり扉はぎぃと音を立てて、普通に開いたのだ。
中は予想とは違い確かに古めかしいが、目の前には清潔な空間が広がっており、少々暗めだが窓の光があるからか、電灯の明かりがなくとも視界は良好だ。
古びた木材の香りがし、それが何処か私を誘っている感覚に陥る。
その瞬間、後ろの扉がぎぃぃとゆっくり音を立てながら独りでに閉まったのである。
目を離した隙に音を立てずに幽霊のようにしまったのである。
ここで私の直感が働く、いや働いてしまう。此処から私の冒険は始まったのだと。
心臓の鼓動のみが響く、静寂。まさに無音に近い空間だった。
そんな虚空に私は「誰かいないか?」と、声を出すが、その声はだんだんと霞んでいき、ただ静寂の海に呑まれるのであった。
再度声を出そうかと迷って、考えた末に結果無駄だと理解してやめることにした。
代わりに再度くまなく屋敷を調べる事にした。
どうやら噂の通り、古風な内装であり、棚の上の花瓶に活けられた甘い香りのする薔薇、大きな階段の天井に位置する明かりが灯ってないシャンデリアがぶら下がっており、壁に飾られた趣のある絵画など、特徴を見るに外装とは裏腹に、幽霊屋敷と言うことを忘れてしまうほどに豪華で美しいものであった。
左右に扉、二階へと続く階段がある。何処から見ようか迷ったが、勘に頼り右の扉を開けてみよう。
そうして私は扉を開けた。
開けるとそこは広い廊下になっており、何部屋かと繋がっている。
廊下の特徴は埃一つもなく、古びた木材の香りが漂っている。壁に飾られた色褪せた風景画などが何処か懐かしさを感じさせる。
まずは手前の部屋を探ることにした。同じ静寂が私を包み込む。
部屋の内装はどうやら書斎の様で、埃がほのかに漂っている。古書の特有の香りが部屋に充満しており、扉を開けた瞬間にその香りが一気に外へ出ていく。
物書き机の上には時代錯誤の羽ペンとインク、分厚い何処かの洋書が何冊も置かれている。
本棚には歴史書から化学、薬学や天文学、果ては物理学までの学術書がぎっしり詰まっており、持ち主の知的好奇心が相当なものだと伺える。
本棚の中に背表紙に何も書かれてない本があったので、それに触れると私はありえない光景を目にした。
本が独りでに浮いたのである。落ちてきたのではなく、マリオネットのように空中で優雅に揺れ動いている。
その瞬間、驚愕が私を襲い、心臓がバクバクと鳴った。本の浮遊音が静寂をかき消したのでった。
本は物書き机の上へと向かい、なんと羽ペンまでもが意志があるかのように空白の本に、自らが書き手だと言わんばかりに執筆していく。
私は声も出なかった。ただありのまま目前で起きていることを見届けるしか出来なかった。
本には『ようこそ、魔女の屋敷へ。君は一体何しに此処へ来たんだい?』とその質問に私は息を飲んだのだ。
何と答えるべきか、そもそも本に言葉が、声が通じるのか理解が出来なかった。
目の前で起きた有り得ざる現象に、私の中の「科学」と言う二文字は真っ白に塗りつぶされてしまったのだ。
私は勇気を持って本へ声をかける。「私は此処の調査に来たんだ」と言葉を選び答える。
すると椅子が急に私の後ろへ移動する。心臓がまた跳ね上がる。これは所謂サイコキネシスというやつか。いや、単に魔法とくくるべきなのか、理解しがたい現象が起きており、一応、私をもてなしているというのは確かだ。椅子が私を誘うかのように待っている。
私はおとなしくその椅子に座り、本がまた何かを綴るのを待っていた。
すると本はこう書いてあった。『屋敷中を見てごらん。魔女が待っているよ』と。
そのメッセージが私の胸に響く。以上を私に見せると机の上に落ち、何の変哲もない本に戻る。
「屋敷中を見てごらん?か、勝手に入ったとは言え自由な魔女だな」なんて減らず口をつい漏らしてしまう。
無論、奇怪な現象と奇妙な冒険は此処で終わりではない。
後に私は奇跡と言う奴を何度も拝む羽目になることになった。