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衝撃

私は今日も生徒会室まで足を運んで、みんなの様子を見ていた。バクはどこからか持ってきた書類を読み漁り、レイカはそれを手伝っていた。真白は相も変わらず、スナイパーライフルの手入れを恍惚とした顔で行っていた。


「にいさん今日はやけに元気そうだな」

「実は今日ティアがお弁当を作ってくれるんだ」

「それはいいな。ティアの作る料理は絶品だぞ」

「真白は食べたことがあるんだ」

「ああ、昔生徒会でお泊り会をしたことがあってな」

「あの時は真白がティアにしつこくお願いしてた」


レイカは懐かしむように言った。真白はバツの悪そうな顔をしてごにょごにょと何か言っていた。

彼女達は花音のとの思い出話に花を咲かせていた。トゥルップとの状況が芳しくない時に現れて、問題を解決したらすぐにいなくなってしまった花音に寂しさを覚えているみたいだ。

腕時計を確認するともうすぐ昼休みの時間だ。席を立ってそろそろ向かおうとした時だった。


「ん?何か空の方から音がしないか」

「しないよ?」


レイカかそう答えた刹那、バクが真白と叫んで、真白は動いた。私は真白によって床に伏せさせられた。それと同時にピンク色の閃光が視界を覆いとっさに目を閉じた。真白の体重が圧し掛かったのを感じた。すぐに目を開くと太陽が見えた。あったはずの天井がなくなり、建物は大きく崩れていた。真白は脱力して私の上に倒れていた。


「真白!」


ようやく追いつき始めた思考で真白に声をかけた。反応がなく、意識を失っていた。他のみんなの様子を確認すると例外なくその場に倒れこんでいた。何が起こったんだ。彼女たちに外傷はない。命に別状はないはずだ。

ティアは無事だろうか。そんな心配をした時、地面をかける足音が聞こえてきた。


「ティア……」


私の予想は裏切られた。小銃を構えたスクエアの恰好をした少女たちが私たちの周りを囲んだ。


「お前が雨宮志音だな」


その中のリーダーらしき人物が言った。銃口が向けられる。私を見下すその目はいつでも引き金を引けると語っていた。


「これはどういうことかな」


私は毅然とした態度で向き合った。たとえその引き金を引かれたとしても私は聞かなければいけない。弾丸が顔の横を通った。あえて外したのだろう。


「余計なことを言うな。ついてこい」

「彼女たちの身の安全を保証してほしい」

「余計なことを言うなと言ったよな」


彼女は私の胸倉を掴んで、銃口を顎につけた。


「余計なことじゃない。一番大切なことだ」

「チッ、あんたがついてくれば保証してやる」

「ありがとう」


真白を床に寝かせて、私は彼女に従った。


「信じるのかよ」

「うん、私は信じたいから」

「死ぬかもよ……って冗談だからそんな目すんな。私が言われてんのはあんたを連れてくることだけだからよ」

「そっか。安心したよ」

「あんたはどうなるかわからないんだぜ」

「私の命なんて彼女たちと比べたらとるに足らないよ」

「そうかよ」


彼女は雑に頭を掻いた。彼女の髪はかなり伸び切っていて、前髪も自分で切っているのががたがただ。鋭い目の下には隈をつくっている。

彼女に従って歩いている途中に廊下から教室を覗いた。みんな意識を失って倒れている。教師たちは大丈夫だろうか。女学生でも意識を失ってしまう何かを受けて、平気だろうか。


「はあ、誰の命も奪っちゃいねーよ」

「君たちは何をしたの?」

「それは答えられねーな」

「じゃあ、君の名前を教えてくれるかな」


彼女は一瞬足を止めて、眉をひそめた。


「目的はなんだ」

「単純に知りたいと思っただけだよ」

「意味がわかんねえー名前は忘れた。仲間にはラクタと名乗ってる」

「よろしくね」

「よろしくしねーよ、馬鹿が。あんたは私を恨むことになる」


彼女は黙って、校庭まで出て行った。そこには多くのスクエアの人達が円になって何かを取り囲んでいた。ラクタが歩くとスクエアの人達は道を開けた。そうしてようやく、スクエアが取り囲んでいた人物の姿が見えた。


「ティア!」

「にいさん……」


ティアの体からは血が流れていた。左腕を折ったのかぶらんと垂らしている。私はとっさに駆け寄ろうとした。


「動くな」


ラクタに腕を掴まれた。スクエアの面々からは銃口が向けられる。私は諦めて動きを止めた。ラクタは誰の命も奪うつもりはないと言っていた。


「膝を地面につけて、座れ」


私はラクタの言う通りにした。すると、前方からコツコツと靴を鳴らして歩くステンの姿が見えた。


「やあやあ、お久しぶりだね。雨宮志音さん。それと、初めまして天使ティアさん」


バク達の考えた通り、スクエアとトゥルップは繋がっていたのか。


「どうですティアさん。お父さんの元へ来る決心はつきましたか?」

「こんなことをする人の所なんて誰が!」

「いいのですか?私達は先んじて、スラング学園の要所である生徒会と銃火器の製造場を潰しました。戦って勝ち目はありませんよ」

「そんな……」


ティアは絶句した。


「そうだ。先にそんなことを可能にした功労者を紹介しなければ」


ステンが手を叩くとある人物がこちらへと歩いてやってきた。


「どうして……」

「ご存じの通り歴史科教諭の長谷川正弘先生です」

「長谷川先生、どうしてですか?」

「雨宮さん、私はねこの学園が大っ嫌いなんだ!もううんざりなんです。ステンさんにつけば私は一生お金に困らず、もう怯えなくてすむ」

「賢い長谷川さんは私が声をかけたら、すぐにスパイをしてくれたよ。黒鉄ノーブの遺産大変素晴らしいものだ」


ステンは指先を上空に向けてそう言った。それにつられて空を見上げると衛星のような何かが校舎の真上に浮かんでいた。これが黒鉄ノーブの遺産なのか。


「ねえ、雨宮さん。ステンさんにつきましょうよ。幸せになれますよ。あなたがトゥルップにつけば富も名誉も女もなんだって手に入ります。そっちの方が賢いです」


長谷川先生はさも当然のように言い切った。


「賢いだって……ふざけるな!子供を犠牲にすることの何が賢いんだ‼」


私は立ち上がって、怒鳴った。拳に力が入る。でも、私には何もできなかった。この状況をひっくり返せる何かなんてなかった。

バンと銃声が鳴った。長谷川先生が撃った弾丸が私の太ももを貫通した。出したことのない声が漏れた。ティアの絶叫が耳をつんざいた。味わったことのない強烈な痛みに膝をついてうずくまった。両手で傷口を抑えた。何とか顔を上げて、長谷川先生とステンを見た。長谷川先生の手は震えていた。ステンは表情を変えずに長谷川先生の肩を掴んだ。


「長谷川さん、雨宮志音だけは撃ってはいけないとあれほど」


怒りを含んだ低音に長谷川さんは怯えていた。


「すまないが、ティアさんには早いところ決めていただかなくては志音さんが手遅れになりますよ」

「ダメだ……ティア……行ってはいけない」


痛みを我慢して、声を出した。脂汗が頬を伝うのを感じた。私の表情を見たティアは首を振った。

ダメだ。ティア、私なんかを気にする必要はない。ティアを犠牲になんてしたくない。

向こうの方からまた一人やってきた。


「お父さん……」

「会いたかったよ、ティア」


ティアにお父さんと呼ばれた巨漢の男の目は少なくとも私には娘に向ける目だとは思えなかった。男はもう逃がさないという執着を感じる手つきでティアの肩に腕を回した。

このままじゃティアが不幸になる。みんなが悲しむ。そんなの絶対だめだ。

私は不格好なまま男へと突進しようと試みた。激しい痛みのせいで上手く勢いもつけられずに私は男に殴られそうになった。


「お父さんもうやめて、私ついていくから……ごめんね。にいさん、私こっちについてく方が幸せだから……」

「ティア、やっとわかってくれたか‼」


男はとても喜んでいた。ティアの表情は私からは見えなかった。それでもわかる。私はティアに嘘をつかせてしまった。


「じゃあね、にいさん……ありがとう」


微かな声を私は聞き逃さなかった。去っていくティアを私はただ、見ていることしかできなかった。


「ごめん……ティア……」


私の言葉も涙も無意味に消えた。そして、私は意識を失った。





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