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夜、私は外に出ていた。夜風を感じたいというちょっと青くさい理由だったりする。私も大人なので、一人で出歩きたい気分だった。誰もいない校庭の真ん中に立って空を見上げた。星々が燦燦と輝いていた。

花音もこの光景を見ていたのかな。どれくらい大きくなったのかな。元気だといいな。

星に願う。


「ふむ、深夜徘徊とは感心しないな。にいさん」

「私は大人だからね、バク」

「そうだな、本来はそうらしい。今日は冷えるだろう」


バクは2本持っていた缶の内の1つを私に投げ渡した。ブラックコーヒーを受け取ると熱いくらいの缶が冷えた指先を生き返られた。プルタブを開けて、ぐびっと一口飲んだ。ほろ苦い酸味が舌に触れて、食道を通っていく。


「バクは大人だね。ブラックコーヒーを飲めるなんて」

「チッチッ、私のはミルクティーだよ」

「微糖ですらないんだね」

「先生は飲めるんだな」

「いつの間にかね」


最初は徹夜するために我慢して飲んでいた物だった気がするな。今は好んで飲んでいる。彼女たちは甘い炭酸飲料を飲むんだろうか。


「そういえば、どうしてバクの制服はカラフルなの?」

「ふむ、その話をするなら一旦ベンチに座らないか?」


校庭を離れて、女子寮からも離れたベンチに腰かけた。バクは飲み終わったミルクティーの缶をデコピンで弾きながら話してくれた。


「私の前の生徒会長は花音だったんだ」

「花音が?」

「ああ、スラング学園の生徒会長は推薦制なんだ。満場一致だったよ。彼女は頭が良くて、人当たりが良くて、何でも1人でできる人だったからな」

「へー意外だなー」

「そうなのか?」

「私の知っている花音は泣き虫だったからね」


バクは顔を上げて心底驚いていた。私だって、バクの話を聞いて驚いた。資料に書かれていることだって本当はピンと来ていなかった。優しい子だったけど、人前に立つのは苦手だったと思う。


「兄妹仲は良かったのか?」

「うーん。悪くはなかったよ。でも、仲良しってこともなかったかな」

「そうだったのか。にいさんの纏う雰囲気は花音と似ていたからてっきりそう思ったんだがな」


バクは何か安心していた。


「私の制服がカラフルな理由だったな。それは私の花音へのコンプレックスだ」


バクは堂々と言った。


「花音が学園総管理局に行った後、当然生徒会長を決める必要があった。しかし、選挙は行われなかった。単にそんな雰囲気じゃなかった。花音が学園総管理局に入れたことのお祝いムードでな。私は当時副会長だったから押し上がる形で生徒会長になったんだ。スラング学園で唯一選挙なしで生徒会長になった」

「それが花音へのコンプレックス?」

「いいや、このことは想定内だったよ。想定外だったのは花音がしていた仕事量だよ。学園内での銃火器製造の品目作成から輸出学園との外交、トゥルップの監視、トゥルップの支配から解放されたことによって作らないといけなくなった治安維持組織の成立、人員の選考などなど、目が回ることを平気な顔をして、私たちに悟られずにやっていたんだ」


バクは参ったよとぼやいた。自分が行った後のことも先回りして色々やっていたというのだから花音は本当に凄かったんだろうな。


「大人だって、そんなに器用にできないよ」

「うむ、そうだな。でも、私は女学生の生徒会長だ」


そうだった。この子達にとって大人っていうのは私の抱いていた大人像とは違うんだ。

それにバクが背負った重圧は生徒会長の責任だけじゃなくて、誰もが認めたティアの後釜を担わないといけないことか。

私は隣に座るバクの頭をなでた。


「ん!なんだ」

「頑張ったね」

「なぜ、頭をなでる」

「こうすると温かい気持ちになるでしょ」

「確かに嫌な気はしないな。こんなことをしてくれるのはにいさんだけだ」


バクは私に体を預けた。


「花音がにいさんを選んだ理由がわかった気がするな、花音はにいさんの温かさを知っていたんだな」


バクは私の胸に手を置いた。


「不思議だな。落ち着いている」

「そう?」

「大人は女学生に触れられたらドキドキするものだ。緊張か恐怖かで」

「安心していつでも寄りかかっていいよ」


バクは首を振って離れた。


「私は生徒会長だからな。その場所は他の誰かに譲ってあげよう。それよりも話の続きだ。私は生徒会長になってから路線を変えたんだ。花音のような真っ当な生徒会長を目指しては劣化版にしかなれないからな。奇をてらって、あたかも天才かのように振舞うことにした。その第一歩が制服の加工とは少々、気を詰めすぎていたと思うが」

「他のみんなはどうしていたの?」

「みんな優しいからな。何も言わずに私の仕事を手伝ってくれたよ。それでようやく余裕ができたのだが、今更制服を元に戻すのは格好がつかなくてな」


バクは中身のない缶を口に運んで照れ隠しをした。

それからバクは勘違いしないでくれよと前置きをして前髪を上げて、隠れていた右目を見せた。瞳の色が青かった。バクはいわゆるオッドアイらしい。初めて見た。


「これはカラコンではないぞ。生まれつきでもないが、フレイヤ隕石の影響だ」

「綺麗な色だね」

「な、そういうことをしれっと言うな。もういい帰ろう」


私は立ち上がって、バクに部屋まで送ってもらった。


「今日のことは心の中にしまっておいてくれ。夜だったから話過ぎた」

「うん、私の心に忘れずにしまっておくよ」

「やっぱり、忘れてくれ」

「いやだな。私は話をしてくれて嬉しかったからね」

「……はあ、仕方ない。では、にいさん。おやすみ」

「おやすみ、また明日」

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