表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

厄介な依頼

私と真澄はコード学園の生徒会室でお茶を飲んでいた。

真澄はももによってお風呂に入れられ、服を買い、制服を着て、昨日とは見違える清潔感を得た。

コード学園は学園総管理局が学園都市クトルフの自治権を獲得した後に建てられた学園であり、革新的が売りらしい。部活動が盛んなこともあるが、女学生のみのコード学園のすぐ隣には男子高であるスキャン高校があり、交流を図っている珍しい学園である。そのことからコード地区では比較的女学生と男性の溝は深くないそうだ。

コード学園が選ばれたのはこういった理由から真澄を連れて行くのには最適だったはずだ。しかし、今回生徒会長が私を迎え入れたのは依頼を任せたいかららしい。

その生徒会長である五十嵐(いがらし)トトには猫耳があった。それにしっぽも生えていた。フレイヤ隕石の影響を受けやすい少女はそういった特徴が出てくるらしい。20歳になればなくなるみたいだけど。

彼女の狐目が微かに笑う。


「どうだい、私の依頼を受けてくれるかにやん」

「おめえ、やっぱり猫なのか!」


真澄は興奮しているけど、トトは揶揄っているだけだと思うよ。

それよりも依頼の方が大変だ。コード学園の裏切り者を探し出してほしいというもの。

コード学園では現在部活動の成果を発表するエキスポの準備が行われているらしい。コード学園においてエキスポは一年に一回行われる最大の行事で、テレビが取材に来るほど有名な上に学園総管理局から予算を引っ張るための大事なものだという。


「トトはどうして裏切り者がいるってわかったの?」


彼女はニヒルに笑った。


「今回の結果によっては学園総管理局に推薦されるからにやん」


それだけでは言葉足らず過ぎるよ。真澄も聞いているからもう少しかみ砕いて説明してほしい。


「学園の生徒が学園総管理局に推薦されることは祝福されることだよね?」


スラング学園から花音が推薦された時は学園全体で祝福したと聞いたけど、少々事情が違うのかな。


「基本的に学園総管理局に推薦できるのは各学園3人までにやん。うちからは既に2人出てるから枠がなくなるにやん」

「だから裏切り者が出ることが予測されるってことだね?」

「そうにやん。私は別に誰が推薦されてもいいにやんけど、失敗だけは許されない……にやん」


彼女はおどけた口調ではあるものの目が本気だ。外部の私に依頼したのは多分、裏切り者の候補に検討がついていないから。


「本当に裏切り者は出るの?」

「出ないに越したことはないにやん」


彼女の言う裏切り者というのは推薦されそうな人の邪魔をする人ということだろうけど、あんまり子供に疑いの目を向けて接したくないな。

私がしばらく逡巡していると隣で聞いていた真澄が手を挙げて高らかに声をあげた。


「私達に任せろ!」

「真澄⁉」

「助かるにやん」

「ちょっと待って、私は受けるとは……」

「頼んだにやん」


トトは被せるように言って、生徒会室を後にしてしまった。

私達、学校の案内も受けていないのだけど……困ったな。


「そんなに心配すんな、どうにかしてやるよ。ハンバーガーのお礼にな」


不安だなあ。


***


私、柏木(かしわぎ)ナツは例の噂を聞いた。その噂というのがコード学園に最近話題のにいさんがやってくるらしい。

学園総管理局代表の雨宮花音の兄らしいけど、どんな人なんだろう。まあ、少し走るのが得意なくらいの私と関わることはないと思う。

そんなことを考えながら昼休みと友達と過ごしていると、窓の景色からその人の姿が見えた。ニュースで見た通り、優しそうなイケメンだ。隣を歩く少女は私と同じ制服を着ているが明らかに高校生ではない。もしかして、幼女趣味なのだろうか。ニュースでも私はみんなのにいさんだみたいなことを言っていたし。


「ナツ、最近コウキとはどう?」


私がぼうっと外を眺めていると同じ陸上部である古賀(こが)ナオミが話題を振ってきた。コウキとは、スキャン高校に通う私の幼馴染の伊藤(いとう)コウキのことだ。

私はコウキのことが小学校の頃からずっと好きだ。ナオミはそのことを知ってから私を揶揄う材料によく使う。いくら、スキャン高校と交流があっても恋愛に発展する人は少ないから彼女にとっても貴重な恋バナの種なのだろう。


「チャットはしてるけど、最近会えてないんだよね」

「ええ、どうして?」

「部活の朝練と午後練の時間が合わないから」

「寂しくないの?」

「寂しいよー会いたいし、でもちょっと自分から誘うのは恥ずかしい」

「ナツは可愛いなー私のものになっちゃえ」


ナオミが私を引き寄せて、頭をわしゃわしゃと掻く。ナオミは満足すると私を解放して、満点の笑顔を見せる。


「もー髪の毛ぐしゃぐしゃになったー」


私が頬をぷっくりとさせて言うとナオミはごめんごめんと言って、鏡と櫛をカバンから取り出して、すいてくれた。私は陸上部員で走るため短い髪型にしているからすぐに元通りになる。私としては気分転換にヘアスタイルを変えられないのが少し残念だったりする。コウキも短い髪よりも長い髪の方がきっと好きだ。陸上を引退したら密かに伸ばしてみたいと思っている。

今日も今日とて、部活動に精を出すのだが、ミーティングがあると連絡を受けて、ピロティに集まることになった。部長でもあるナオミの隣に例のにいさんがいる。その隣には走り回っていた少女もいた。


「私は雨宮志音。今日は陸上部を見学させてもらうことになったので、みんなよろしくね」

「私は小岩井真澄だ。体験入部させてもらうからよろしくな!」


私は突然現れた有名人と少女に拍手を送った。周りの女子達はイケメンなこの男に色めき立っている。確かに顔は良いけど、絶対コウキの方がかっこいいから!

私は何となく、敵対意識を持って男を睨むことにした。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ