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二丁拳銃の少女

「これ、うめえな。何て言うんだ?」

「ハンバーガーだよ」


私は目の前の少女が手を汚しながら一心不乱にハンバーガーを食べる姿を眺めていた。

つい先ほど、拳銃を背中に突きつけてきた少女とご飯を共にしているのは少女のお腹が鳴ったからだ。

うん、説明不足だよね。

私はどうやらスラング学園での出来事を経て、相手に殺意があるかどうかわかるようになったみたいだ。少女は危害を加える気がなく、完全にカツアゲをするだけのつもりだったらしい。

拳銃を突き付けることがカツアゲで済むのかは置いておくとして、動機が空腹なので、こうしてハンバーガーを食べているわけだ。

それに少女の身なりはとても良いとは言えない。ボロボロの灰色の外套に穴の開いたズボンどちらもかなり汚れている。体の肉付きは栄養失調を想像させるほど悪く、頬はこけている。そんな黒髪の推定年齢10歳の少女を誰が放っておけるだろうか。

私には無理だ。


「ところで名前は何て言うの?私は雨宮志音だよ」

「なまえ?えっと……」


少女はハンバーガーに食らいつくのやめて、目線を斜めに向けて考え込む。


「忘れた」

「えっと、記憶喪失だったりする?」

「ちげえよ」


私のマシな方の考えは見当違いらしく、即答で否定された。こうなるとどうしても悪い方向に考えてしまう。

私は意識して柔和な笑みを浮かべて口を開く。


「お父さんとお母さんは何をしている人かな?」

「わかんねー突然いなくなりやがった」


少女の表情はそのことを気にしているようには見えなかった。そんなことよりもこの子は食べきってしまったハンバーガーが惜しいらしく、手についたソースを舐めている。


「私の食べる?」

「いいのか!」


目をぱあっと宝石のように輝かせて、大きく口を開けるとがぶりと一口頬張った。

そんな彼女の様子は見ていると微笑ましいのだが、状況を考えるとそうも言ってられない。どうするべきかな。この子は未成年だろうし、名前もわからない。勝手に学園都市クラフトに連れていくわけにもいかないだろう。


「君は普段、どこで生活しているの?」

「?決まってねえけど」

「生まれた場所は?」

「よくわかんねえ、結構歩いたし」


これは困った。ももに連絡しておこう。今はこの子のお腹を満足させることが優先だろう。幸か不幸か、私の存在は先日の一件で広く知れ渡ったらしい。お店にいても視線を感じるくらいには注目を浴びる。私の立場も知られているのでこうして少女と一緒にいても問題がないのは助かった。

私が今後について考えている間に彼女はハンバーガーを完食したらしく、飲み物のコーラーをストローで飲んでいた。ストローを見ると噛んだ跡がついている。

彼女の方はさっきまでの不健康さがだいぶマシになっていた。病院にも連れて行こうかと思ったけど、この分なら平気そうだ。これも彼女が少女であるからなのだろう。


「君はこれからどうするの?」

「どうもしねえぞ。師匠もいなくなっちまったし」


師匠?彼女には保護者のような存在がいたのか。でも、いなくなったって言っている。それに師匠というのは何の師匠なのだろうか。

少女の表情を察したのか自慢げに語り出した。


「私の師匠はな、すげえんだぜ。川で魚をとりゃ一番だし、段ボールで家も作れるし、食べられる雑草までわかる。それに銃で的を狙えば百発百中なんだぜ!ちょっとだけ老いてるけど」

「それはすごいね」


なるほど、彼女はその師匠に助けられて生きてきたのか。こんなにも誇らしく語るなんて師匠は相当尊敬されている。

唯一銃というのが気になるけど……フレイヤ隕石の影響を受けた少女がいることを考えれば護身術なのかもしれない。

スマホを見るとももからメッセージが来ていた。どうやら学園総管理局に連れて来ても問題ないらしい。


「もしよかったらだけど、私と一緒にこない?」

「いいぜ、おめえは恩人だからな。師匠も恩は返せ、貸は作れってよく言ってたし」


私は少し心配になってきた。この子警戒心がない。銃を持っているからなのかなあ。

言葉遣いからもその師匠の影響を多分に受けていそうだ。

私は少女を連れて今度こそ学園総管理局に向かった。

少女は電車に乗るのが初めてらしく、窓に張り付いて変わりゆく景色に子供らしくはしゃいでいた。その様子に乗客の皆がほっこりとしていたことは内緒だ。

学園都市最上階、学園総管理局代表室には学園管理局副代表である東雲奈央と京極ももそして、名前の知らない少女がいた。


「お待ちしてました。にいさん!」


ももは揶揄うような笑みを浮かべた。

少女は私とももを交互に見比べて不思議そうな顔をしている。


「似てねえな」

「そう、なんですよね」


ももはわざとらしく悲しげに言った。

わるい顔してるなあ。


「き、気にするな!お前らはかわいいし、かっこいい!」


少女は焦りながらフォローする。それを見てももは満足したのか笑っている。


「冗談ですよ。そこにいるお兄さんは女学生みんなのにいさんなんです。私達に血縁関係はありませんよ」

「?どういうことだ」


少女に説明したい気持ちもあるけど、私としてもあの時のことをいじられる事に恥ずかしさがある。


「それよりも、その子は誰?」


学園管理局の制服を着た。白髪ロングの少女。覗色の瞳にシミ1つない白い肌。どこか鋭さのある目は私を捉えて離さない。


「私は財務省の黒羽茜(くろばねあかね)。よろしく。志音はイケメンだね」


見た目の印象よりも柔らかい声。微笑み求められた握手に応える。


「よろしく、茜」

「では、そろそろ本題に入りましょう。その少女と雨宮志音さんの向かう学園について決めます」


それまで無言を貫いていた東雲奈央がそう言うと、茜とももは真剣な表情をして、背筋を伸ばした。

ももは持っていた書類を2枚私に渡した。


「1枚目はにいさんが次に向かうコード学園の基本情報です。もう一枚はその少女の仮の名前や情報です」

「仮の名前?」

「色々と調べてみたのですが、どうやら出生届が出されていないらしく戸籍がありませんでした。名前がないのは不便ですし、コード学園の学生には戸籍が必要なので作りました」


ももの補足を聞きながら書類に目を通す。小岩井真澄(こいわいますみ)15歳。住所は学園総管理局と同じだ。

絶対15歳じゃないよね。もっと幼いでしょ。


「いきなり高校生になるのは厳しくない?」

「コード学園にずっといろというわけではありません。気に入れば正式に入学してもらっても構わないですし、無理そうでしたら一緒に戻ってきても結構です。コード学園はスラング学園よりも安全ですし、部活動も盛んです。何かいい刺激になるかもしれません」


それまで話を聞いていた少女は手を挙げた。


「私はそれがいい。小岩井真澄も気に入った。にいさん?にも恩返ししてえ」

「では、今日は私が真澄の荷物など用意しますので明日の朝に出発しましょう」


真澄はももに連れられて、学園総管理局代表室を出て行った。

私も部屋を去ろうと後ろを向くと東雲奈央に声を掛けられた。


「スラング学園の件ありがとうございました」

「私は何もしてないよ。頑張ったのは生徒たち」

「そうですか」


私は振り返ることもできずに部屋を後にした。


***


黒羽茜は部屋を出た雨宮志音を見て、奈央に目を向けた。


「奈央は彼と何かあったの?」


人のよさそうな顔をした彼が終始、奈央の目を見ることはなかった。敏腕で知られ常に毅然とした態度を取っている奈央も彼の前だとより厳しい。

彼女は花音と同じく、外部から学園都市クトルフに来たが、さすがに恋仲だったということはないだろう。


「茜が気にする必要はない」


動揺1つ見せないのは少し、つまらない。まあ、いいや。きっといつか面白いものが見られる。

茜は確信めいたものを抱きながら部屋を出て行った。


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