掲げよ銃を
「決行前にもう一つ問題がある。仲間に連絡する手段がねえ」
「スマホを持ってないのか?」
「あるけど、トゥルップから支給されたものだ」
それだと、連絡が筒抜けになってしまうかもしれない。最低でもあの兵器が使われるまではスクエアがこちらについたとバレるわけにはいかない。
「あなたはどれくらい信頼されているの……」
「スクエアも一枚岩ってわけじゃねえからな。一言で動くとは言えねえな」
「私達はスクエアに見つからないようにトゥルップを壊滅させないといけない」
「ティアをスクエアが保護した瞬間にラクタが一気に声をかけて、制圧すれば可能じゃないかな」
問題は武器の多くを失っていることだ。向こうはどうしてか、潤沢な資金を持っているみたいだからその辺の装備は最新のものだろうな。
「ふむ、ではスクエアに武器を借りて、そのまま全員で畳みかけよう」
そうして、作戦の概要が決まっていった。トゥルップからラクタへ連絡が来る可能性が高い以上、私たちが動けるのは兵器が使用されてからだ。最初の動きを悟られないために人数を制限して、生徒会メンバー、ラクタ、私、そして数名の治安維持組織の女学生数名を連れて、残りは待機となった。正午までの時間は残った武器の確認や拠点をどこから攻めるか。トゥルップの進行ルートを教えてもらい細かい所を詰めていった。
私はその間に学園管理局のももに連絡を取った。起きた出来事とこれからの事を話した。
「なるほど、あの閃光はそういうことですか。にいさんはこちらに戻ってもいいんですよ。女学生でもないあなたは死ぬかもしれませんから」
「ううん。私は残るよ。そうじゃなきゃここに来た意味がないからね」
「そうですか、、、では、頑張ってください」
「それと、もう一つお願い。私に何かあった時にスラング学園の生徒のこと助けてあげてほしい」
「はい、わかりました。何とかしましょう。でも、死なないでくださいね」
「もちろん」
私は胸ポケットに入った花音のお守りを握りしめて、再度覚悟を決めた。
翌朝、最終準備を整えながら正午を待った。ラクタには連絡が来なかった。残り一分だ。
「にいさん、感謝している。あなたを受け入れて本当に良かった」
「私もバクには感謝しているよ。君のおかげで、仲良くなる機会をもらえたから」
「にいさん、自分の命を最優先にしてくれ」
「約束はできないかな」
「会長任せろ。にいさんの命は私が守るからな」
真白は自信満々に言った。
「遠くから援護しかできないけど、私もにいさんを守るわ」
「二人ともありがとう」
「あんたがいねえと約束を反故にされるかもしれねえからな。死ぬなよ。ティアとかいう奴は私らが守ってやるから」
ラクタは小銃を肩に乗せて言った。この子はやっぱり優しい心を持っている。
全員救って、ハッピーエンドにしてみせるよ。
言葉には出さずに私は誓った。
「3,2,1,0……」
ピンク色の閃光が校舎を破壊することはなかった。静かな時間が数秒流れた。何も起きないまま困惑だけが漂う。
「どういうことだ」
「確認するつもりがないってことかな」
「最悪な状況じゃねえか。トゥルップは兵器を維持したままだぜ」
「私の考え不足だった。トゥルップからしたら戦わずに占領するのが一番いいに決まってた」
焦りが募る。このままだとラクタはスクエア全体のことを考えてトゥルップにつくことを選ぶだろう。
「ラクタ、仲間に状況を確認してもらえないかな?」
「しゃーねーな」
ラクタは電話をかけた。しかし、コールはなっても出る者がいなかった。
何かが起きているそれだけは確かだった。
「にいさん、私はトゥルップの拠点を目指そうと思う」
「お前、下手すりゃ死ぬぞ。やめとけ」
ラクタが止めた。
「わかっている。しかし、今ここで勝負にでなければもう二度とティアを救ってやることができない」
「私も行きたい」
「私も助けたい」
彼女たちの意志は固い。私もここにこのままいるつもりはない。最終手段ならある。
「わかった。行こう」
「お前ら馬鹿か」
バクは真剣な顔をしてラクタを見た。
「私は自分よりも年下でリーダーの素質を持った人を知っている。私は彼女に比べて才能もなく、偉大な人間でもない。それでも、私は生徒会長になった。私がスラング学園を潰すわけにはいかない」
「そうかよ。そんなら付き合ってやるよ。私も飼い殺されるのは癪だからよ」
「ありがとう、感謝する」
バクは大きく空気を吸った。
「これより、天使ティア救出作戦及びトゥルップの壊滅を実行する!私は命の強要をする気はない。だから集う、勇気のある者、ティアを助けたいと願う者、生活を守りたいと思う者、銃を掲げよ!私が先陣を切り開く、一番最初に死ぬのは私でいい!ただの一縷の望みをかけて、実行するのみだ」
バクが言い終わると、ガチャと音を立てて、銃が一斉に揚げられる。私は代わりに拳を突き上げた。
バクがありがとうと溢したのを私たちは聞こえていないふりをした。