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エニード、ドレスをダメ出しされる



 一週間ぶりにルトガリア邸宅に戻る日が来た。

 エニードは、一度言った約束は、腕の一本、足の一本がもがれても果たすタイプの伯爵令嬢である。


 クラウスに宛てた手紙に週末には戻ると書いたので、早起きをして軽く王都外周一周を走り、腕立て伏せや腹筋などの鍛錬を行った後水を浴びて、準備を整えた。

 ラーナが起き出してきた頃には顔を洗い歯も磨き終えて、服も着替えていた。


「エニード様、なんですかその格好」

「ドレスだ」

「駄目です」


 ラーナに手間を取らせないために自分でドレスを着てみたのだが、ダメ出しを食らってしまった。

 ラーナは胸の前で手をばつ印にして、それを頭の上に掲げた。


「一体どこにあったのですか、そのやたらと露出度の高いドレスは」

「いいなと思って買ったのだ。今後、クラウス様と過ごすときには私はドレスを着るだろう?」

「ええ、そうですね」

「いつものドレスは、窮屈で動きにくい。私は窮屈で動きにくいドレスを着ていても閃光のように素早く強いのだが、できれば動きやすさを重視したい」

「駄目です」


 エニードが王都一周を走りながら、ついでに洋品店の店頭に並んでいたドレスを購入してきたのは、今朝早くのことだ。

 たまたま店の前で朝の健康体操をしていた店主に「あれをくれるか」と言って、買ってきた。

 金は走って届けた。エニードは素早いので、家に戻り金を届けるなどは一瞬のことである。


 きっとラーナが誉めてくれるだろうと思い、うきうきで着込んだドレスは、どうやらラーナ的にはいただけないものらしい。


 エニードはとても気にいっている。なんせ動きやすいのだ。

 両足の側面に、太腿の上の方までスリットが入っているし、袖はなく、肩がむき出しになっている。

 首を防御するタイプの作りになっているために、肩がむき出しになっていてもずり落ちる心配もない。

 色は、女らしく赤にした。

 どこからどうみても完璧なドレススタイルなのだが、何がいけないのだろうと首を傾げた。


「エニード様に似合うのは妖艶なドレスではなく、清楚なドレスなのです。肌を出せばいいというものではないのですよ。軍服のエニード様の魅力は、ほぼ肌を出していないストイックさにあるのです。ドレスも同じ。ドレスは女の軍服なのです」

「そうか」


 何かをラーナが力説している。

 例によってよくわからなかったが、エニードは頷いた。


 エニードの赤い動きやすいドレスは、ラーナによって脱がされて、水色の可愛らしい清楚なドレスへと着替えさせられた。

 髪を整えられて化粧をされる。馬に乗るのにこの姿はな──と思っていると、「クラウス様への礼儀ですよ」と窘められた。

 それはそうだ。多少スカートが邪魔だが、我慢も必要である。


「こちらのドレスは、せっかくですのでしまっておきますね」

「駄目だと言っていたが」

「何かの時に着るかもしれません。何かの時に」

「何の時だろう」

「そうですね……潜入捜査の時、などでしょうか。エニード様、これは女スパイのドレスです。女スパイのドレス。わかりましたか?」

「わかった」


 念を押すように何度か言われたので、エニードは頷いた。


「無意識のうちに女スパイのドレスを選んでいたのだな、私は。センスがある」

「エニード様は自己肯定感が高くていいですね、好きです」

「私が私を信じずに、誰が私を信じるというのだ」

「ふふ」


 エニードを着替えさせたからか、ラーナの機嫌はよくなった。

 二人でハムとスクランブルエッグを焼いて、パンと蒸し野菜と一緒に食べる。

 片付けが終わるとエニードは、アルムを撫でて、ラーナをよしよし撫でた。


「ラーナ。また週明けに戻るが、それまで一人で大丈夫なのか?」

「週明けに戻るのですか?」

「それはそうだろう。仕事があるし、ラーナを一人にはできない」

「私はもう大きいので、一人で大丈夫ですよ。アルムもいますし。ね、アルム」

「わおん」


 アルムが得意気に返事をした。ラーナは僕が守ると言いたげな様子である。

 けれどエニードは心配だった。本当はルトガリア邸に一緒に連れて行こうと思ったのだが、ラーナにはラーナの人生がある。学校があるし、エニードとしてはいつまでも侍女にしておくつもりはないのだ。

 今も、侍女というよりは妹や同居人という感覚でいる。

 世話は焼いてもらってはいるのだが。


「心配して、騎士団の方々も時折きてくださいますし。お友達も遊びに来ることがあります。好き放題してしまって申し訳ないのですが」

「かまわない。ここはラーナの家だ。だが、心配だな」

「エニード様、大丈夫です」


 きっぱりと、ラーナは言う。

 確かにラーナはしっかりしているし、エニードは遠征で家を空けることも多い。

 今までの生活とそう変わりないといえばそうなのだが。

 けれど、あまり心配しても、迷惑かもしれない。

 エニードもラーナの年齢の時は、一人で出かけては山籠りや、魔物討伐に勤しんでいた。

 つい過保護になってしまうなと、ひとしきり反省をして、エニードはラーナに「行ってきます」と言うと、動きにくいドレスで愛用の白馬に跨った。


 エニードは、そのままルトガリア邸には行かずに、衛兵の詰所へ向かった。

 エニードの予想では、昨日の量産型悪人とデルフェネックの処遇がまだ決まらずに、牢屋に入れられているはずである。


 色々あって、その後の処理ができていなかったのだ。

 エニードとしては、全ての仕事をつつがなく終えた上で、クラウスの元に行きたい。

 そうしないと、量産型悪人たちのことが気になって気になって、夜は眠れるが、クラウスとの夫婦生活に集中できない可能性があるからだ。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドレスでご出勤…ですって!? [一言] わくわく…!
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