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破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます  作者: 時岡継美


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最終話

 1週間ほど眠り続けていたことで、わたしの体力はすっかり落ちてしまった。

 立ち上がれなくなっていたし、食事も流動食から少しずつ。

 オスカーをはじめミヒャエルやハンナの献身的なお世話のおかげで、侍医からは順調な回復だと言われている。


 特にオスカーはわたしにベッタリで、キズは痛まないかとか食べたいものはないかと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

 それはありがたいのだけれど……。

「ドリィ、愛してる」

 甘い顔で一日に何度もそうささやかれるのには、なかなか慣れそうにない。

 

 わたしが眠っていた間にリリカは聖女として覚醒したらしい。

 神殿からも正式な聖女認定を受けて、立派な聖女となるべくこれから修行が始まるらしい。


 わたしの回復を優先して、結婚式は延期となった。

 その代わりとして、わたしの19歳の誕生日と快気祝いを兼ねたパーティーを開いた。

 といっても、こぢんまりと。


 招待したのは3人のヒロインとアルトだけ。

 そしてサプライズゲストとして、孤児院の子供たちが歌を披露してくれた。

 一生懸命歌ってお祝いしてくれる様子に思わず泣いてしまった。

 

「ねえ、ひとつだけ確認させて」

 リリカ、カタリナ、アデルの目を順番に見つめる。

「3人ともオスカーのことをどう思っていた? 会うたびにいつも顔を真っ赤にしていたけど……好きだった?」

 こんなことを尋ねるのは無粋かもしれないと思いつつ、確かめておきたい。

 わたしはヒロインの恋の邪魔をしていなかっただろうか。

 

 すると3人は口元をニヨニヨさせながら顔を見合わせた。

「うふふっ」

「そうですわね」

「ですよねえ」

 もったいぶった様子でなにやら答え合わせをしているようだ。


「だって、美男美女のお似合いのふたりだったんだもん!」

「ドリスさんとオスカー様がとてもいい雰囲気でしたから、おふたりは相思相愛ですのねって思っていただけですわ」

「わたしたち、とっくにふたりが両想いだって知っていたんですよ。わたしたちがそういう目で見守っているって気付いていなかったんですか?」


 そうだったの!?

 じゃあ、最初からシナリオが違っていたわけだ。

 なんだか脱力してしまう。

 

「楽しそうだね」

 オスカーがとろけるような甘い微笑みでこちらへやってくる。

「ドリィ、もう一度きちんと言わせてくれ」

 

 なにかを察した3人が、サッと後ろに下がった。

 自分の頬がかあっと熱くなるのを感じながら愛しい人を見つめる。


 跪いたオスカーがわたしの手を取ると、真摯な眼差しを向けてくる。

「結婚してください」

 ストレートで飾りのないプロポーズの言葉。これはハルアカのままだ。

 

 オスカーに求婚され、了承の選択肢を選ぶことでハッピーエンドとなる。

 じゃあこのストーリーはこれでおしまい?

 いいや、違う。わたしたちはこれからもずっとこの世界で生き続ける。

 シナリオのない自由な世界で。

 

 胸がいっぱいになって、どうにか声を振り絞った。

「末永くよろしくお願いします」

 

 するとオスカーは嬉しそうに破顔して立ち上がり、わたしを抱き寄せた。

 周囲からはやし声と拍手が聞こえる。


 まばゆいばかりにキラキラ光るオスカーの顔が近づいてきて、わたしはそっと瞼を閉じた。

 

 

 ◇◇◇


 空前のヒット作となった乙女ゲーム「遥かなる茜空」の開発スタッフが後にどこかでポロっと漏らした話らしい――真意はともかく、そんな噂話がまことしやかに語り継がれている。

 

 ゲーム「遥かなる茜空」(通称ハルアカ)は、ヒロインがオスカー・アッヘンバッハと結ばれるとハッピーエンドとなる。

 しかし、実はそれとはまったく異なる隠しシナリオがある。

 それは悪役令嬢ドリスがヒロインになるルートで、このシナリオの興味深い点はドリスと父親のミヒャエルが死なないことだ。

 この隠しシナリオの発生条件として、3人のヒロインたちをハッピーエンドに導いたセーブデータが必要であること以外の詳細はよくわかっていない。

 

 ドリスルートは間違いなく攻略が困難な「ヘルモード」になるはずだ。

 その苦難を乗り越えてオスカーとドリスのハッピーエンドを拝めたプレーヤーが実在するのか否かは定かではない。


 そしてその開発スタッフは最後にこう付け加えたという。

 ドリスルートでふたりが結ばれるエンディングこそが「トゥルーエンド」である――と。


 

 完


最後まで読んでくださったみなさま、ありがとうございました!

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