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破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます  作者: 時岡継美


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ミヒャエルの病気(1)

 デビュタントの舞踏会以降、ローレンからの接触はないまま日々が過ぎている。


 あの騒動後に、わたしは得意な絵の腕前をいかして人相書きをしてアルトに渡した。

 その顔の特徴が舞踏会で目撃された不審者と酷似しているとのことで、ローレン・ビギナーはお尋ね者となった。

 今の彼はもうエセ投資家として詐欺まがいのことをやっている場合ではないのだ。

 国王陛下主催の舞踏会で騒ぎを起こそうとした代償は大きかった。

 どこかにじっと潜んでいるか、あるいは遠くへ逃げているかのどちらかだろう。

 

 ルーン岬には私設警備兵を置いた。24時間体制で見張ってもらっている。その中には孤児院を卒業したメンバーもいる。

 警備兵によれば、海からこちらをうかがっているようなボートを時折見かけるが、弓を構えるとおとなしく去っていくという。

 フェイル山での金の採掘が順調だから、警備兵たちにも報酬をたっぷり支払うことができる。

 そのおかげで、彼らの働きぶりもとても真面目で頼もしい。

 

 楽しく平和に過ごす中で、わたしはようやく観念してオスカーと婚約することにした。

 どう抗おうともイベントは形を変えて発生する。

 オスカーのわたしへの愛情が、シナリオ強制力によるものなのか、それともバグなのか、あるいは純粋な感情なのかを判断する術はない。


 オスカーに正直に聞いてみたことがある。

「いつからわたしのことが好きなの?」と。

 するとオスカーは、少し考えるように小首を傾げてからふわりと笑った。

「自覚したのは、ドリィが友人たちと初めてお茶会を開いたあの日から」


 あのお茶会の時!?

 おかしい。アデルといい雰囲気だったように記憶しているんだけど……。

 

 あの時点からズレていたのなら、もう軌道修正は不可能だろう。だったら成り行きに任せるしかない。

 これまで破滅に向かいそうなフラグをどうにか回避してきたのだ。これからだって立ち向かっていくだけだ。

 逃げ道はいつだってたくさん用意してある。


 ふたりそろって婚約の許可を申し出た時、ミヒャエルは嬉しさと寂しさが入り混じったような複雑そうな顔をした。

「近いうちにそうなるだろうと思っていたよ」

「でも今までとなにも変わらないわ。わたしはずっとパパが大好きだから!」

 そう言うと、ミヒャエルは力なくハハッと笑った。

 

 結婚はわたしの卒業後。結婚したら家督をオスカーに譲る。

 そういったいくつかのことを申し合わせた。

 これが実現しますようにと心の中で祈りながら。

 

 いろいろなことが順風満帆に思えたエーレンベルク伯爵家だったが、困ったことがふたつある。


 ひとつは、オスカーの実家であるアッヘンバッハ家のことだ。

 ミヒャエルは相変わらずアッヘンバッハ家への援助を続けている。それがなければあの家はとっくに住む場所を失っていただろう。

 オスカーは見限ってくれていいと言っているが、曲がりなりにも親なのだからそういうわけにもいかない。

 わたしとの婚約も黙っておくわけにもいかずミヒャエルが報告すると、オスカーの父親から挨拶に行きたいとの申し出があった。


 当家に来てもらったのはいいが、アッヘンバッハ男爵ひとりでの訪問かと思っていたら妻のカサンドラも連れてきたのだ。

 かつてオスカーをいじめていたカサンドラは、ミヒャエルに媚びを売るような仕草まで見せた。

 さらにはずうずうしいことに、支度金を要求してきた。

 婚約や結婚の時に用意する支度金は、嫁または婿をもらいうける側が受け取るものだ。

 オスカーはわたしと結婚したら正式に婿養子となってエーレンベルク伯爵の爵位を継ぐことになっている。

 ということは、本来ならばアッヘンバッハ家が支度金をこちらに支払う立場だというのに。


 ここでたまりかねたオスカーが「いい加減にしてくれ!」と怒り出し、ミヒャエルがたしなめた。

 と同時にミヒャエルは、アッヘンバッハ男爵に対し、

「支度金はそちらが支払うべきでは?」

と言ってつっぱねて追い返した。


 彼らは不満げな顔をしながら帰っていったが、なんとも後味の悪い両家の顔合わせとなった。

 アッヘンバッハ家との関係を今後どうするのか。それが懸案事項のひとつだ。


 そして困ったことのもうひとつは、ミヒャエルが病気になったことだった。


 

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