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破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます  作者: 時岡継美


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(3)

 ローレンの狡猾そうな顔を思い出して、途端に背中がぞくりとした。

 どうしてあの男が……?


 わたしの記憶にあるハルアカのデビュタントイベントはこうだ。


 悪役令嬢ドリスは、ヒロインのドレスに飲み物をかけるという古典的な嫌がらせをする。

 オスカーに見られないようにこっそりやったつもりが、その場面をバッチリ目撃されてしまうのだ。


 意地悪く笑いながらわざとグラスをひっくり返すドリス。

 その姿を見たオスカーは、これまでもこうしてドリスがヒロインに嫌がらせをしていたのではないかと気付く。

 そして、ドレスが台無しになって早々に会場を出るヒロインを追いかけていく。


「もしかしてきみは、いつもドリスにいじめられているのか?」

 問いただすオスカーに対し、ヒロインは――。

 

 ここではキャラによって選択肢がいろいろある。

 首を横に振り「これはただの事故です」と言うパターン。

 頷いてドリスからのこれまでの嫌がらせを告白するパターン。

 否定も肯定もせずに、ただ悲しげにうつむくパターン。


 いずれを選択した場合でも、ここまでのオスカーの好感度が高ければオスカーに抱きしめられる。

 そしてお互いに「好きになってはいけないのに」と葛藤で心が揺れまくるのだ。

 

 一方で、好感度がまだ低いとそういった甘さはない。

 オスカーがドリスの代わりに謝罪し「また何かあったら言ってくれ」と言うだけで終わる。


 つまり、このイベントにローレンは登場しなかったはずだ。

 

 ハルアカのシナリオを思い出していた時、不意に声をかけられた。


「これはこれはドリス嬢。うちのミシェルが普段世話になっております」

 薄笑いを浮かべて片手を差し出してきたのは、トレーシー侯爵。

 なにかとちょっかいをかけてくるミシェルの父親だ。

 今日はミシェルをエスコートしてきたのだろう。


「こちらこそ、いつもお世話になっております」

 にっこり笑って握手を交わす。


「ところで、ルーン岬リゾートの立て直しに名乗りをあげたそうですな」

 トレーシー侯爵がニヤニヤ笑っている。

 本題はどうやらこれらしい。


 ルーン岬リゾートは、たったの2年で倒産に追い込まれた。

 客足の減少だけが原因ではなく、経理担当者の金銭の持ち逃げもあったようだ。

 前々から業績不振の噂はあったものの、出資者には直前まで「あれはデマで業績は好調」と言い続けて増資を募っていた。

 

 その直後の突然の倒産。

 もしかすると増資の勧誘や持ち逃げの裏にローレンの暗躍があったのかもしれないと思っている。

 出資金は戻って来ないと聞いた出資者たちは怒り心頭で大騒ぎになった。

 

 それがどうにか収まったのは、エーレンベルク伯爵がルーン岬リゾートを買い取ると申し出たからだ。

 これで全額とはいかないまでも出資金の一部は返還されることとなった。

 あとは金銭を持ち逃げした経理担当者を探し出してどうにかしていただきたいと思っている。

 これがつい最近のことだ。


 ついでに言えば、フェイル山の金鉱脈も発見されたところだ。

 貴族社会では当然、この両方が噂になっている。


 ただの山だと思っていた場所から金鉱脈を掘り当てた先見の明を称賛する声、うらやむ声。

 そして、どうしてわざわざルーン岬リゾートを買い取ったのかと訝る声、失望する声。


 ルーン岬リゾートを買い取ろうと提案したのは、もちろんわたしだ。

 最初はミヒャエルもオスカーも猛反対していた。

 買ってどうするんだという話は当然だ。


 トレーシー侯爵の言う通り、ルーン岬リゾートの業務を立て直すと思われがちだが、そうではない。


「リゾート業を立て直すつもりはありませんわ」

 にっこり笑って言うと、トレーシー侯爵は小首を傾げた。

「と言いますと?」

「わたしたちの別荘とプライベートビーチにしようかと思いまして」

 オスカーと腕を組み、体をぴったりくっつけてさらに口角を上げる。


「金鉱脈も掘り当てて、お金の使い道に困っておりましたので」

「あ、あぁ……なるほど。そういうことでしたか。これは失礼した」

 トレーシー侯爵があいまいな半笑いを浮かべながら去っていく。


 今度は「娘の言いなり」「道楽が過ぎる」とでも噂されるだろうか。

 悪役令嬢っぽくて、ちょうどいいわ!

 そう思いながらトレーシー侯爵の背中を見つめていると、オスカーの感極まったような声がした。

「ドリィ……!」

 ぎゅうっと抱きしめられる。

「やっとその気になってくれたんだな。嬉しい」


 待って! 今のはただの演技だから!


「もうっ! オスカー、こんな場所でやめてちょうだい」

 両手でオスカーの胸を押して離れたが、周囲にいた人たちがみんな頬を赤らめてこちらを凝視しているではないか。

 勘弁してもらいたい。


 それなのに次は、近くにいたリリカが目をキラキラ輝かせながらこちらへやって来た。

「ドリスちゃん! ラブラブだね!」

「ありがとう、リリカさん。俺たち、たったいま婚約しました」

 

 オスカーがはにかみながら放った爆弾発言に驚きすぎて、口をはくはくさせることしかできない。

 待って! 待ってちょうだい!


 それなのに周囲はちっとも待ってくれない。

「わぁ! ドリスちゃん、おめでとう!」

「おめでとうございます!」

 周りから一斉に拍手喝采があがる。


 こんな形でオスカーと婚約するのは絶対にイヤよ!



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