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「おかしいと思っていたんです! 優秀なカタリナさんはともかく、リリカさんが33位って日頃のリリカさんの様子を見ていれば誰だっておかしいと思いますわ」
ミシェルが得意げにあごをツンと上げ、数名の生徒が彼女に賛同するように頷いている。
その通りだとわたしも思うわ! と言いたいところではある。
残りの1週間、図書室で勉強したことでシナリオ強制力が発動したのか、リリカの理解度の伸びはすさまじかった。
あれはバグ利用を疑うレベルだ。
だからといって、ミシェルに賛同したりはしないけれど。
「ドリスちゃんがいい課題集を持っていてね、それをカ親切に教えてくれたのよ。わたし頑張ったんだから」
リリカがふんすと胸を張ると、ミシェルはしてやったりというような悪い笑みを浮かべる。
そしてつり上がり気味の小さな目をカッ見開いてわたしを指さした。
「ということは、黒幕はあなたね、ドリスさん!」
あら、突然探偵ごっこ!?
このシナリオは知らないわ。
「その課題とやらを、あなたはどうやって入手したのかしら? まさか裏で手を回して事前にどんな問題が出題されるのか知っていた、とか?」
なぜかミシェルは勝ち誇ったような顔をしている。
それハルアカであなたのボスである悪役令嬢ドリスがやっていたやつよ? と言いたい衝動をどうにか抑える。
「わたしの家庭教師だったマイヤ夫人から渡された課題だったの。その課題と似たような問題が出題されたことに関しては、ラッキーだったとしか言えないわ」
正直に答えたけれど、ミエシェルたちはそれでは納得していない様子だ。
「苦しい言い訳ですわね」
と、言い返されてしまった。
ハルアカのイベントでは、ヒロインがリリカの場合、常日頃から彼女のかわいらしさに魅了されている大勢のギャラリーがミシェルを一斉に攻撃する展開になる。
「苦手な勉強を頑張ったリリカに対して失礼なことを言うな! かわいそうじゃないか」
「リリカちゃんより順位が低かったからって難癖つけやがって!」
となるわけだ。
カタリナの場合は、
「不正? そんな何のひねりもない小細工をこの学校が許すとでも? それは貴族学校に対する侮辱ということでよろしいかしら」
とひとりで言い負かし、周囲もその通りだと納得する。
カタリナのその発言とは裏腹に、ハルアカでの教師たちが簡単に買収されるようなチョロい設定であることは、この際スルーしておくことにする。
アデルの場合、騎士を目指す彼女の曇りなきまっすぐな性格を誰もが知っているため、不正をしたはずだという糾弾だけでは弱いと踏んだドリスたちが小細工を仕掛ける。
つまり目撃者がいるという仕掛けだ。
朝早く登校してきて机に何か書いているのを見た! という証言が飛び出すのだが、アデルにはその時間帯に寮の庭で朝稽古をしていたアリバイがあった。
それを証明する寮生が大勢いて、事なきを得るという展開になる。
じゃあ、わたしは……?
どういうわけかマイヤ夫人からもらった課題がテストに出題された内容と酷似していたのは間違いない。
その偶然がシナリオ強制力によるものなのか、誰かに陥れられたものなのか自分でもよくわからない。
ドリスが糾弾されている時点ですでにハルアカのシナリオからズレているのだから。
ここを上手く切り抜けて破滅フラグを回避するにはどう振る舞えばベストなのか……掲示板に集まった生徒たちが一斉にこちらに興味津々な視線を向けている。
この中に、わたしのことをかばってくれる人がいるかしら……?




