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破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます  作者: 時岡継美


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(2)

 現在とても煩わしいことといえば、小さな嫌がらせが頻発していることだろうか。

 これも小規模なイベントだ。

 

 今日もカフェテラスでの昼食を終えて中庭を4人で歩いていた時のこと。

 突然木の上からヘビが落ちてきた。


「ひっ!」

「きゃあっ!」

 リリカとカタリナが悲鳴を上げる。

 

 リリカは大きく後ろへ飛び退き、カタリナは驚いて腰が抜けたようにその場にヘナヘナと尻もちをついた。

 突然頭上から振って来たヘビに対するうら若き乙女の正しい反応がこれだろう。

 

 それに対し田舎暮らしのアデルはヘビなど慣れっこだ。

 わたしはシナリオを知っているから嫌がらせポイントを心得ていて、来そうだなと思ったら身構えている。

 

 落下の衝撃のせいか動かないヘビの尻尾を掴んだアデルが、中庭の向こうの藪めがけて放り投げた。

「ヒバカリですねえ」

 アデルがのんびりした声で言う。

「昔は毒蛇だと思われていて、噛まれたら『その日ばかりの命』だと言われていたことが名前の由来らしいですよ」

「まあ、アデルは博識ね。勉強になるわ!」

 

 わたしとアデルが笑顔を交わしていると、カタリナが尻もちをついたまま叫んだ。

 

「ちょっとお待ちになって!」

 アデルとともにカタリナを助け起こす。

「あなたたち、どうなってますの! ヘビよ? 生きたヘビが目の前に落ちてきて、どうしてそんなに冷静なのかしら!」

 

「カタリナさん、大丈夫です。ヒバカリには毒はありませんし、おとなしいヘビですから」

 アデルが生真面目に答える。

 

「だから! そんなうんちくじゃないでしょ!」

 顔を紅潮させてわめくカタリナの後ろからリリカの楽しそうな声がした。

「ねえねえ」

 顔がわくわくしている。

 

「アデルちゃん! ヘビってどうやって投げるの?」

 ヘビの投げ方に興味を持ったらしい。

 

「尻尾を掴んで投げるだけですよ。腕に巻き付かれる前に素早くね。『掴んですぐ投げる!』ってイメトレが大事です」

「わあ、すごい。掴んで投げる! 掴んで投げる!」

 リリカがさっそくイメトレで腕を振り回しはじめた。

 それをアデルが「もっと肩を大きく動かして」と指導している。

 

「だからそれですわ! あなたたち、どうなってますの。……でも……助かりましたわ」

 リリカのヘビ投げイメトレの指導に熱くなっているアデルには、カタリナが最後に付け足したお礼の言葉は聞こえなかったかもしれない。

 

 わたしがにっこり微笑むと、目が合ったカタリナはプイっと顔をそらした。

 カタリナは相変わらずツンデレでかわいいわね。


 この手の虫や生き物を投げつけられたり、カバンの中に仕込まれたりといった嫌がらせが頻発している。

 これらは全て、ハルアカの悪役令嬢ドリスが取り巻き連中を使ってやらせていたことだった。

 

 犯人は誰か――その詮索は意味がないだろう。

 これだって強制イベントみたいなものだ。

 誰がやったかの問題ではなく、ヒロインはこういう目に遭う運命ということだ。

 もっと突っ込んでいえば、システムが自動的にやっているだけなのかもしれない。

 

 若い乙女が怖がりそうな生き物を使った嫌がらせは、2年前に前世の記憶を思い出した時に書き留めていたノートの中にも残っている。

 ヘビ、カエル、トカゲ、毛虫、ミミズを描いていたら、生き物の絵が上手だとミヒャエルに褒められた。

 

 生き物へのリスペクトが感じられない上に、一体どうやって用意してどこに忍ばせていたのかという疑問の残る下品な嫌がらせだが、そこは「ゲームの世界だから」で済ませるほかないのだろう。

 

 おまけに、こういった嫌がらせがある度にわたしたちの仲は深まってゆく。

 悪役令嬢とヒロインが友情で結ばれるシナリオなどなかったはずだが、破滅フラグを回避したいわたしにとってはこれはむしろ好都合だった。

 

 

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