聖剣ムーンライト
この国2番目に高い山『ムーンライト』に登るが、さすがに魔物が多い。
何度も魔物と遭遇し、戦闘になるが、俺ときゅうは余裕で倒す。
「皆、強いね。私は、はあ、はあ、歩くだけでもう、疲れちゃってるよ」
「俺がおんぶしようか?」
「でも、戦闘になったら大変だよ」
きゅうが後ろの2本脚だけで高く立ち「僕が魔物を倒すよ」とアピールする。
「きゅうもやる気だし、俺も斥候の能力があるから、奇襲はされにくいと思うぞ」
「そ、そうだね。お願いするね」
ミーアをおんぶする。
「走るか。きゅう、肩に乗ってくれ!」
きゅうが小さくなって肩に乗る。
「え?走るって何?」
俺はダッシュで山を駆け上がる。
走る速さで風が発生し、前髪が上に上がる。
魔物が追いかけてくるが、無視して速度を上げて引き離す。
「ちょ!怖い怖い!」
「すぐ慣れる」
「慣れないいよ~~~~~~!」
◇
「あっという間に頂上に着いたな」
俺の逃走スキルのランクが上がった。
「きゅう!」
きゅうはご機嫌だったが、ミーアは四つん這いのまましばらくしゃべらなくなった。
ミーアは自身の胸にヒールをかけた後、俺をジト目で見る。
「ど、どうした?」
「胸が擦れて痛かったよ。それに少し吐きそう」
「悪い事をしたな」
胸が擦れた話を聞いて、恥ずかしくなってきた。
「で、でも見てくれ。この景色。きれいだろ」
「少し、休ませて。ここ、空気が薄くてまだ具合が悪いよ」
気温も低くなっている事に気が付き、ミーアに毛布を掛ける。
ミーアをおんぶして少し山を降り、キャンプを設置して休ませた。
「周りに魔物が居るな。狩っておきたいけど、ミーアの近くに誰かいないと心配だ」
きゅうが左右にステップを踏み、魔物狩りをしたいアピールをした。
「分かった。魔物狩りはきゅうにまかせる」
「きゅう!」
きゅうを見送ると、狐火の炎が見える。
順調に魔物を狩っている。
その日はその場で野営をする事にしたが、夕食を取った後、俺は不思議な光に気づいた。
「なあ、あそこが光ってないか?」
「うん、光ってるね。なんだろ?」
「俺が見てくるぞ」
「わ、私も行く」
ミーアは俺の腕にしがみつく。
怖いのか、がっしりと俺の腕に抱き着く。
柔らかい感触が伝わってくる。
怖がってどんどん抱き着いていいんだぞ。
俺が受け止めよう。
きゅうが小さくなってミーアの肩に乗る。
ミーアを落ち着かせたいんだろう。
なんの光だ?
進んでいくと、周りを木々に囲まれ、中央の膨らんだ岩に刀が突き刺さっていた。
刀の刀身は月のように光り、木々の間から降り注ぐ月の光を浴びる。
幻想的な雰囲気に目を奪われた。
『やあ、僕の声が聞こえるかい?』
きれいな女性の声が頭に響く。
「なんか女の声が聞こえるんだけど?」
ミーアの体がビクンと跳ねる。
「や、止めてよ。脅かさないで!」
「気のせいか?」
『聞こえるんだね?君は聖剣に選ばれたんだよ』
「ミーアは何も聞こえないんだよな?」
「聞こえないよ」
俺にだけ聞こえるのか?きゅうも聞こえていないようだ。
「今日は色々あって疲れている。帰ろうか」
『ちょっと待つんだ!僕は聖剣だよ!僕を抜くんだ!』
「あの剣は無視していいの?」
「無視しよう。あれは多分魔剣だ」
『ちっがうよ!僕は聖剣だよ!』
「ねえ、あれって聖剣じゃない?」
『その通りだよ。僕は聖剣ムーンライトさ』
「今日は俺の調子が悪いから明日にしようか。帰って寝て明日考えよう」
『あ、待って待って、ちょっと待ってよ!!!』
俺達が立ち去ろうとすると、周りが光の壁に包まれそこから出ることが出来なくなった。
「出られなくなっちゃった」
俺は攻撃魔術で躊躇なく光の壁を攻撃する。
「ファイア!ファイア!ファイア!」
『ま、待って!そういうのは良くないよ!強引すぎるよ!』
光の壁が壊れた瞬間走ってテントに戻る。
俺はミーアときゅうをテントに入れた。
「さ、眠ろう」
俺がテントから出ようとすると服を掴まれた。
「眠れなくなっちゃったからテントで話をしようよ」
「ミーアってお化けとかそういうのが苦手なのか?」
「あんまり得意じゃ、無いかも」
「分かった。話をしよう」
みんなテントで横になる。
ミーアが俺の手を握り、横になりながら向かい合う。
「きっとあの剣は聖剣で、ノーマが選ばれたんだよ」
「聖剣でも魔剣でも選ばれたくは無いな」
「英雄はいや?」
聖剣に選ばれれば英雄扱いになってしまう。
「俺は近くで勇者や賢者を見たことがあるけど、幸せそうには見えなかったな。いつも助けを求められて、助けられなければ罵倒される。そりゃ尊敬されることもあるけど、俺はのんびり生きたい」
「分かるよ」
ミーアも聖女になった為に、辛い目に会ってきたのかもしれない。
「聖剣は何って言ってたの?」
「魔剣かもしれないけどな。『僕を抜くんだ』とか言ってたな。必死な感じがした」
「明日また聖剣と話をしに行こうよ。それでノーマが抜きたくないなら抜かなくていいと思う」
「あれは魔剣かもしれないけど、明日話すだけだぞ。俺は抜かない」
ミーアはすやすやと眠りに落ちていた。
俺は寝ているミーアをしばらく見つめた。
俺は、ミーアの事が好きかもしれない。
【次の日の夜】
俺はムーンライトと話を始める。
「お前は聖剣ムーンライトと言ったな!目的はなんだ!?」
『遠いよ!遠すぎるよ!なんでそんなに距離を取るの!?』
俺達は聖剣から十分に距離を取って対話を始めた。
「それはお前が昨日俺達を閉じ込めようとしたからだ!」
『そんなに遠くから叫ぶことなくない!?』
「目的はなんだ!?」
『僕をテロリストみたいに扱うのは止めてよ!』
「答えないか。やましい事があると取っていいか!?」
『目的は、厄災の魔物の討伐の為に力を貸して欲しいんだ』
「断る!交渉は決裂だな。俺達は速やかにこの場を離れる!」
『ま、待ってよ!もう少し僕を信じてよ』
ミーアが俺を見つめる。
「どんな会話かは分からないけど、ノーマは失礼なことをしてるよね?もう少し歩み寄ろうよ」
ミーアは勘がいいな。
「わかった。お前の目的は厄災の魔物の討伐だな。ならば、勇者をここに連れてこよう。俺が責任を持って王に手紙を出し、事を進めてもらうようお願いする」
王と勇者に丸投げしよう。
俺は聖剣を見つけた。そしてそれを王に報告し、勇者が聖剣を抜く。
抜けなければ他の人間に抜いてもらう。
俺はお前に絶対触らないぞ!
計画通りいいいいい!
俺は口角を釣り上げた。
大体あの剣は嫌な予感しかしない。
昨日俺達を閉じ込めたのが良い例だ。
あれは魔剣に違いない。
あのきれいな声も月明かりに照らされた幻想的な光景もすべて罠!
偽物の方が本物に見える。
犯人っぽくないやつが犯人だったりする。
そう、すべて逆なのだ。
それにもしあれが聖剣だったとしても、それはそれで厄介だ。
聖剣を抜いたら英雄扱いをされてしまう。
英雄扱いされたら勇者パーティーに居るのが当然という流れになってしまう。
結局あれが魔剣だろうが聖剣だろうが抜いたら駄目なんだ。
魔剣だったら魔剣だったで「お力をお貸しください」とかいわれそうだ。
抜くのダメ!絶対!
『違うよ!勇者とかそういうのじゃなく相性があるんだよ!』
俺はミーアが奴の声を聞けない事を逆手にとって話を進めた。
「そうか、助かるか!手助けが出来て俺もうれしいぞ。それでは俺達はこれで失礼する!」
俺は颯爽と反転し、歩き出す。
振り向くのダメ!絶対!
『待って!お願いだから待ってよ!え?本当に僕を置いていくの!?抜いてよ!僕を抜いてよ!!』
聖剣の声が頭に響くが俺は別の事を考える。
ここは隠れて住むには向かないな。
天気が変わりやすいし、寒いし、風が強い。
後空気が薄いのと、何より魔剣か聖剣か分からないけど怖い存在が居る。
国内で2番目に高い山でも十分過酷だな。
ここは駄目だな。
あの剣も駄目だ。
「ノーマ、悪い顔してるよ」
「いや、俺天使すぎるだろ」
俺はミーアをおんぶし、きゅうをのせて颯爽と下山した。
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