サウナ休憩
俺達は北に向かって歩き出すが、きゅうがミーアに懐いている。
まるでミーアが真の主かのようにきゅうがミーアにまとわりつく。
おかしい。
俺が使い魔の主のはずだ。
「ねえ、ノーマ、足が痛いよ」
ミーアの足を見ると、街歩き用の靴を履き、しかもボロボロになっていた。
靴は見えていたが、ミーアに見とれて気が回らなかったなんて言えないな。
「すまない。今すぐ靴を作ろう」
俺はミーアを座らせ足を触る。
「ちょっと、くすぐったいよ」
「す、すまない。だが、触ってサイズを確認したい」
俺はストレージから材料を出してブーツを作る。
「ノーマって錬金術も出来るんだね」
「錬金術も含めて魔術は全部使えるぞ。器用貧乏だけどな」
「実際に履いて感触を確かめて欲しい」
ミーアが靴の感触を確かめるように大地を踏みしめる。
「うん、ありがとう。丁度いいよ」
「そういえば、5人の刺客からどうやって今まで逃げてこられたんだ?」
普通逃げ切ることは出来ない。
「うーん。最初はビックピヨに乗って逃げてたから余裕があったんだよ。でも、ビックピヨが動けなくなって、それからは走って逃げたんだけど、ノーマと会った所で追いつかれちゃったよ」
ビックピヨ、ひよこをそのまま大きくした使い魔で馬より安価で取引されている乗り物だ。
ビックピヨのおかげで逃げ延びてこられたか。
「置いてきちゃったけど、無事だといいな」
「ビックピヨは、家に帰る習性があるから事故さえなければ大丈夫だと思うぞ」
「そうだよね。大丈夫だよ」
◇
「ねえ、どこに向かってるの?どんどん森の奥に入っていっちゃうよ」
「今向かってるのは、グリーンサマル王国で2番目に高い山、『ムーンライト』だ。今調査中なんだ」
という体で、のんびり暮らせる隠れ家を探している。
理想は人が来なくて住みやすい場所だ。
国で1番高い山にはたまに修行する為人が入ってくる。
だがここは2番目に高い山。
2番目は目立たないし人も入ってこない秘境。
隠れて住むには最適なのだ。
魔物が出てきたらすべて狩りつくす!
「ノーマって偉い人なの?」
「違うぞ」
「でも、普通はアサシンを倒せないよ。もしかして勇者パーティーの人かな?」
「違う!俺はノービスだ」
俺は勇者パーティーじゃない。
もう離脱した。
「うーん。聞かれたくないなら聞かないよ。私も聞かれたくない事はあるからね」
ミーアがぱっと笑顔になった。
「早く村に行ってサウナに入りたいよ」
「いい感じの洞窟があれば入れるぞ」
「入りたい!」
こうして俺は洞窟を探す事になった。
きゅうとミーアを休ませて洞窟を探すと、すぐに洞窟を見つけた。
「魔物は住んでないようだけど、川の近くにあるせいか川が増水した時に入り込んだ木の枝や石が多い」
だが、悪くない。
俺はすぐにきゅうとミーアを連れてくる。
「すぐサウナに入れるかな?」
「すぐには無理だ。掃除して用意してからだな」
俺は水魔術で洞窟内の汚れを落として外に吐き出させた。
そして洞窟の途中の岩の形を錬金術で変えて、そこに木の扉を設置した。
「凄いよ!あっという間に部屋が出来たね」
「後は石を加工して、熱で割れないようにして部屋の中央に置く。そこを魔術で熱を加える。そして桶の水を熱した石にかける」
石から水蒸気が噴き出し、部屋が暖かくなっていく。
「川も近いから水浴びも出来るし、サウナ気分を味わえると思う」
「すぐ出来たね」
「ただ、サウナが蒸気で暖かくなるまで1時間以上はかかる。早くサウナに入りたければ魔術でさらに部屋を暖かくするぞ」
「このまま待つよ。その間に料理を作りたい」
ミーアは野菜と肉のスープを作った。
俺が口をつけるのをミーアはじっと見つめる。
「見られてると食べづらいぞ」
「気にしなくていいよ」
俺はミーアの視線を気にしながらスープを口に入れる。
「旨いな」
いつもの水と塩のスープとは違い、ハーブとか色々使っていた。
さすが聖女。
「良かったよ。!今日から私が料理当番をしていいかな?」
「ミーアはまだ疲れが抜けてないんじゃないか?」
「私だけ助けてもらってるから、このくらいはさせてよ」
「そっか、分かった。これからよろしくな」
「新婚さんみたいだね」
俺は自分の顔が赤くなるのが分かった。
何故か自分で言ったミーアも赤くなっていた。
「そ、そろそろサウナが温かくなったかな?」
「そろそろだと思う」
ミーアはきゅうを抱っこしてサウナに向かう。
「ちょ、ちょっと待て!きゅうはサウナが苦手だ。基本暑がりだぞ」
「きゅうは置いていくよ」
ミーアは残念そうにきゅうを手放す。
ミーアがサウナに向かうが、俺は洞窟が気になり、ちらちらと見てしまう。
俺は理性を保つため焚火を眺めて深呼吸した。
ミーアが体にタオルを巻いた無防備な状態のまま洞窟から出てくる。
「ど、どうした?」
「これから川で水浴びをするんだよ」
「体が見えそうだぞ」
「大丈夫だよ。川は暗いし、タオルを巻いてるからね」
川を見ないようにするが、水浴びの音が気になる。
俺は斥候のスキルを持っているから。暗くても体が見えるんだ。
ミーアが水浴びを終え、川から上がると、ミーアが倒れた。
「ミーア!」
倒れたまま顔をこちらに向ける。
「あれ?立ち眩みしちゃったよ」
俺はすぐにミーアを抱えてテントに入れる。
ミーアのタオルを取って体を拭き、毛布を掛ける
「すまなかった。逃亡生活を続けた後に森を歩かせて体力を奪ってしまった」
「気にしないで、私が無理についてきちゃったから」
「今日はゆっくり休んでくれ」
俺は毛布を多めに掛けてテントを出る。
俺は『全回復力アップ』のスキルを持っている。
このスキルのおかげで魔力を使いすぎても、傷を負っても、歩き疲れてもすべての回復力が早くなる。
前勇者パーティーに居た時も賢者が倒れ、みんな疲弊する中、俺だけ疲れていない事があった。
これから気を付けないとな。
俺は冷静になると、ミーアを助ける為に体を触っていた事を思い出してしまう。
ミーアの体、柔らかかったなあ。
鼓動が高鳴る。
◇
その後3日間その場にとどまり、ゆっくり生活をした。
「ミーアときゅうに囲まれて、居心地がいいな」
ミーアのサウナ中だけはドキドキして落ち着かないけどな。
ミーアの柔らかい体の感触を思い出す。
「そうだね。私も落ち着いて生活出来たよ」
俺はドキドキしていたぞ。ミーアのサウナ中はな。
ここでの生活も楽しいが、ここは永住には向かない。
人が来る可能性があるし、斥候なら簡単に見つけられる場所だ。
「明日から山に登って探索したい。体調は大丈夫か?」
「大丈夫。すぐにでも出発出来るよ」
「きゅう~」
「山に登ろう」
◇
登山は順調だった。
「ドラゴンが居るよ」
「そうだな。このまま戦うとミーアが危険だ。隠れていてくれ」
「そうじゃなくて!逃げようよ」
ドラゴンと遭遇したら隠れたり逃げるのが常識だ。
だがノーマは無視する。
「ミーアはここに隠れていてくれ。俺がターゲットを取ったらきゅうは後ろから攻撃してくれ。行くぞ!」
「ま、待って!危ないよ!」
ノーマがドラゴンに向かって走る。
「スピードブースト!ガードブースト!アタックブースト!」
ドラゴンが俺に気づき、炎のブレスを吐く。
ブレスを躱しつつ、ドラゴンの脇に迫った。
ドラゴンの前に立てばブレス攻撃が飛んでくる。
後ろに立てば強力な尻尾攻撃、つまり、ドラゴンの側面が1番安全なのだ。
俺は何度もドラゴンと闘いその事を熟知していた。
魔術も剣術もBランク止まりの俺は立ち回りを研究した。
魔術師には距離を詰めて剣で圧力を与えつつ戦う。
剣士には近づかず攻撃魔術で追い詰める。
とにかく相手が嫌がる事を徹底的に実践し、上がらないランクの差を埋めようと努力した。
その結果、少ない動きで敵を倒せるようになった。
ドラゴンの脇腹と翼を脇差で斬りつけていくと、ドラゴンが身をよじって俺に目を向けた。
その瞬間逆サイドからきゅうの狐火がドラゴンの翼に直撃し、炎が大きく燃え広がる。
きゅう、ナイスタイミングだ!
「ぎゃおおおおおおお!」
ドラゴンがきゅうの方を向いた瞬間ノーマが叫んだ。
「俺から目を離したな!」
脇差で首を連続で斬りつけた。
ドラゴンが倒れ、最後に顔に脇差を突き刺すと、ドラゴンは完全に動かなくなった。
「ドラゴン相手にはもっと長い刀の方が良かったか?」
何年も前から脇差だったけど、昔は小さかったから脇差が俺の体格に合っていた。
だが今は背が伸びたからもっと長い打ち刀に変えてもいいかもしれないな。
この脇差は結構良い物だ。
脇差が悪くなってきたら打ち刀に変えよう。
ドラゴンをストレージに収納すると、ミーアがこっちに向かって歩いてきた。
「ノーマって何者なの?」
「俺は普通の人間だ。山を登るぞ」
「絶対普通じゃないよ」
「あのドラゴンは動きが悪かったから簡単に倒したように見えたんだ」
「ドラゴンはドラゴンだよ。普通倒せないよ」
「きゅうも居たからな。きゅう、いい狐火だったぞ」
きゅうがもっと褒めてアピールをする。
「よーしよしよし」
俺はきゅうを撫でる。
「うーん、ノーマはすごい人だよ」
そう言いつつきゅうを一緒に撫でる。
「先に進もう」
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