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聖女と英雄

 冒険者ギルドに向かうと、たくさんの負傷兵が運び込まれる。


 ギルドは混乱する。 


「ポーションはもう無いのか!」


「もう在庫がありません!」


「昨日はあんなにあったじゃないか!」


「すぐに売り切れたんです!誰か!ポーションをお持ちの方は居ませんか!?回復魔術を使える方でもいいです!報酬は後で必ずお支払いします!みんなを助けてください!」


 ギルド員は必至で叫んだ。


 ミーアが前に出る。


 ミーアが部屋の中心で祈ると、ミーアの背中に光の翼が現れる。


「エリアハイヒール!」


 光の翼が部屋を覆うように広がると、ミーアの周りに居た負傷者全員の傷が癒えていく。


 エリアハイヒール、聖女のSランクの者しか使用できない回復魔術である。


 ミーアは自身の正体がバレるのを覚悟して回復魔術を使った。


 いや、その事すら考えていないんだろう。


 周りの目がミーアに向く。


「聖女、様?」


「聖女様だ!奇跡が起きたぞ!」


「聖女様!他にも負傷者が居ます!ご協力をお願いします!」


「分かったよ」


 そこに冒険者が走ってくる。

「大変だ!外の兵士が魔物に囲まれている!」


「助けに行くぞ!」

 冒険者が叫ぶ。


「援軍を頼む!このままじゃみんな死ぬ!」

 兵士が血を流しながら震える。


「ノーマ、ここは大丈夫だから、皆を助けて」


 ミーアが俺の手を握った。


 やるしかないか。


「きゅう!ついてこい」


「きゅう」


 俺ときゅうは走って街の防壁に向かう。






 防壁の内側では兵士が絶望した顔で座り込んでいた。


「大丈夫か!」


「お、俺が門の縄を斬って門を閉めた!仲間が外にいるって知ってて!俺が皆を見殺しにした!」


 兵士が頭を抱える。


 お前は悪くない。


 門を閉めなければ街の内部に被害が出ていた。


 防壁の上に行くと、魔術師が倒れている。


 魔力の使い過ぎだろう。


 俺は防壁の階段を上がり上から外を覗きこむ。


 7人の兵が生きている。


 ブラックウルフの群れが150体ほどで兵士を取り囲む。


「きゅう!ここから狐火で援護しろ!」


 俺は防壁の外側に飛び降り、ブラックウルフを踏みつける。


 ノーマは安全な防壁の上からの攻撃魔術を使う方法を取らなかった。


 その方法を取れば外に居る兵士を見殺しにする事になるからだ。


 くそ!『無詠唱』のスキルを覚えていれば飛び込む必要は無かったかもしれない。


 だが、今は出来る事だけでやって行くしかない!


 ノーマは後ろから攻撃されないよう防壁を背にして脇差を振る。


 ヒールの魔術を防壁の外に居る兵士にかけつつブラックウルフを斬り倒していく。


 きゅうが皆を守るように狐火でブラックウルフを焼く。


 きゅうは狐火が使えなくなるまで攻撃を続け、防壁の上で丸まって動かなくなった。


 きゅうの狐火は打ち止めか。


 俺はすべてのブラックウルフのターゲットを集めた事を確認すると、ジャンプして防壁の壁を蹴ってブラックウルフの包囲を突破し、逃げ出した。


 俺は兵士に叫ぶ。


「今の内に街に入れてもらえ!」


 ブラックウルフは一斉に俺を追いかける。


「こっちだ!遅いぞ!ファイア!ファイア!」


 町の周りを回るように逃走を続ける。


 俺の逃げ足の方が早い!


 こっちに来い!


 俺を見ろ!


 ノーマは自身のをおとりに、魔物のターゲットを取る事で防壁の外に居る兵士の命を救った。





 ◇




 領主ゲットとクロクズが防壁に向かうと、兵士が駆けてくる。


 兵士は泣いていた。

「ノーマ様がおらたちを助ける為にブラックウルフに追われてるだよ!ノーマ様を助けて下せえ」


 兵士はゲットにしがみつく。


「落ち着け!誰か状況を説明できる者は居るか?」


 一人の兵士が前に出た。


「ノーマ殿は防壁の外で包囲されていた我らを救う為、自ら外に飛び降りました。そして魔物全てのターゲットを取り、現在逃走中ですが、逃走先は不明です」


「うむ、分かった。すぐに調べて対処しよう。お前対達は休んでおけ」


「おらも戦えるだよ!」


「現状把握が終わるまで休み、その後ノーマを助ける為に戦ってもらう」


 別の兵が走ってくる。


「現在ノーマ様はブラックウルフに追われながら、町の周りを回るように逃走中です」


「100の兵と冒険者で迎え撃つ!先回りして一網打尽にする!」


 周りの兵士と冒険者が叫んだ。


「「うおおおおおお!」」


 ゲットとクロクズは兵士と冒険者を引き連れ、町の外に向かった。


  



 ◇





 ゲットは先回りすると、隊列を組んでブラックウルフの攻撃に備えた。


 兵が叫んだ。

「ノーマ様が走ってきます!すぐ援軍に向かいましょう!」


 ゲットがそれを制した。

「待て!よく見ていろ!クロクズも見ておけ!」


 ノーマは走ってゲットの元に走りつつ、余裕が出来ると攻撃魔術でブラックウルフを攻撃した。


 更にブラックウルフの群れがばらけたタイミングで逃げるのを止めてブラックウルフに特攻を仕掛ける。


「スピードブースト!」


 一気に斬りかかり、ブラックウルフを全滅させてた。


 見ていた兵士と冒険者が驚愕する。


「たった1人で全滅させたのか!?あの群れを?」


「ば、化け物!」


 ゲットがクロクズの方を向く。

「クロクズ、お前にあれと同じことが出来るか?」

 

 クロクズは黙った。


「クロクズ、お前は確かに17才という若さでかなり強い。剣術を努力してBランクまで上げ、周りの兵士や冒険者よりお前は強い。だが、ノーマはそれよりも高みに至っている」


 クロクズは黙って拳を強く握る。


「最低でも剣術をAランクまで上げねば、勝つことは不可能だ。そしてその道は険しい」


 ランクは上がれば上がるほど上げにくくなるのな。


 周りの兵士と冒険者が聞き耳を立て、戦闘とは違う緊張感が生まれた。


 ノーマがゲットの元に歩いてくる。


「なあ、倒した魔物って貰っていいか?」


「もちろんお前の物だが、魔物は我らが回収し、明日金を払おう。今日はゆっくり休んでくれ」


 ゲットは頭を下げた。


「分かった。今日は休ませてもらおう」


 ノーマは街の中へと入っていった。


 残された者は沈黙する。


「皆も分かっておいて欲しい。普通の人間に溶け込むように自身のオーラを消す化け物が存在する。ノーマを敵に回してはならんぞ!」


 全員に言うようにして、その言葉は主にプライドの高いクロクズに向けられている事をクロクズは悟った。


 クロクズは戦う事無く、敗北感を覚え拳を強く握りしめた。





 ◇





「何だこれ?」


 冒険者ギルドが騒がしいと思ったら、ミーアが皆に囲まれている。


 ノーマがミーアの元に戻ると、ミーアが皆と嬉しそうに握手していた。


「おらの息子は聖女様のおかげで助かっただよ」


「私の夫の命が助かりました。本当に!本当にありがとうございます!」

 女性が泣きながらお礼を言う。


 ミーア、滅茶苦茶目立ってるじゃないか。


 見た目も良くて優しくて聖女だから、無理もないか。


 聖女な事もバレたし、明日には出発だな。


 きゅうはテーブルの上で丸まって目をつぶっている。


「きゅう、お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」

 

「きゅう」










 こうして次の日の早朝俺達はすぐに街を出た。


「凄く感謝されてうれしかったな」


「ん?レッドムーンでは回復魔術を使っても感謝されてないのか?」


 回復魔術を使えば基本感謝されるものだと思うが?


「レッドムーンは回復魔術を使うと神様に感謝するんだよ。聖女だからみんなは優しく扱ってくれるけど、私が感謝されることは無いよ」


「なるほどな。あっちは神様に感謝して、こっちは人に感謝するのか」


「そう!そうなんだよ!」


「しかし、ミーアの正体がバレてしまった。街道を通るのは止めて、森を移動するぞ」


 俺自身も勇者パーティーから逃げている。


 人が通る道は避けて通りたい。


 そして、魔物よりレッドムーンの刺客の方が怖いのだ。


「そうだね。次はどこに行くの?」


「次はこの国の南部だ」


 北部で俺達は目立ちすぎた。


 勇者パーティーとレッドムーンの刺客から逃げるにはここから離れる必要がある。


「山道で疲れるかもしれないから、ペースを落として進もう」


「私キャンプも好きだよ」


 ミーアがはしゃぐ。


 きゅうは無駄に先行して走り回る。


「森に入るぞ」


「うん。楽しみだね」


「きゅう♪」


 俺達は隠れるように森を歩きながら南部を目指した。





 ◇





 ゲットはノーマが旅立った後街を見て回る。


 昨日は聖女の噂が目立ったが、今日は打って変わってノーマの噂でにぎわう。


 冒険者ギルドでは、ノーマの話で盛り上がる。


「ノーマはおとりになってブラックウルフのターゲットを集めて言ったんだ『今の内に街に入れてもらえ!』ってな。そしてノーマはブラックウルフに追われながら走っていった」


「その後がすげえんだ!あのブラックウルフの群れを1人で全滅させたんだぜ!俺は思ったね。あいつは化け物だぜ」


「でも見た目は普通に見えたけどな」


「バカ!お前、普通そうにしてるやつが1番こえーんだよ!」


「領主様も言ってただろ!『ノーマを敵に回すな!』ってな。あいつは普通じゃねーんだ」


「それは俺も思ったぜ。ブラックウルフを全滅させるのを見て、ノーマが恐ろしいと思ったよ。手が震えたんだ。なんかわからねーが、ノーマを怒らせちゃなんねえってのは良く分かるんだ」


 ゲットは冒険者ギルドを立ち去る。


 ノーマ、ここではもう『俺は普通』アピールは通じんぞ。


 ゲットは笑う。


 



 ゲットは町の外れのブラックウルフが攻めてきた門を見回る。


「もう門は完全に直っているな?」


 兵士が駆けよる。

「はい!元々壊れたのは切った縄だけだったのですぐに縄を交換しました!」


「うむ、ご苦労」


「あの、ノーマ様は行ってしまわれたのですか?」


「もうこの領を出たが、どうした?」


「私は、仲間が外に居るのを知っていて、この門の縄を斬って門を閉じました。ノーマ様が居なければ、皆死んでいたでしょう」


「その事は気にするな。街の中に魔物を入れることは出来ん。お前は間違ったことをしてはおらんし、ノーマへのお礼は私がしてある」


 その言葉に兵士がこらえるように泣き出す。

「う、あああ!うぐうううう!」






 ナイツ領でノーマの噂が広まり伝説となった。


 最初は150体の魔物を倒した噂に過ぎず、聖女のうわさが主だった。


 だが徐々にノーマの噂が話題の中心となった。


 聖女を救いナイツ領に導いた話。


 1万本のポーションを作り、皆の命を間接的に救った事実。


 周りの斥候をした事で魔物に先制攻撃を仕掛けることが出来た件。


 兵士が門の外に居る事を知り、自ら死地へ飛び込んだノーマ。


 門の縄を斬った兵士と、外で死を覚悟した7人の兵士は特に熱心にノーマを褒め称えた。


 そしてその後更にノーマが勇者パーティーを呼び、更に皆を救おうとしている話すべてが広まる。


 先手を打つようなノーマの動きに皆の畏怖の念が強まった。



最後までお読み頂きありがとうございます!少しでも面白いと思っていただけた方はブクマ、そして下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします!

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