領主の息子クロクズ
「今まで世話になったな」
俺達はミーアの回復魔法が終わり、屋敷を出ていく事にした。
「こちらこそ助かった」
ゲットが頭を下げた。
そこに領主の息子【クロクズ】が入ってくる。
「ノーマ!無能の貴様は勇者パーティーにふさわしくない!」
領主の息子クロクズは部屋に入ってすぐに俺を罵倒した。
「何故入ってくた!ここは今立ち入り禁止のはずだ」
「ノーマがここに居ると聞きました。勝負したいのです」
ゲットはため息をついた。
「まったく、どこで情報が漏れたのか」
「勇者パーティーにふさわしいのは私です」
「どうぞどうぞ」
すぐに変わってくれ。
勇者パーティーに入りたいなら入ればいい。
「バカにするな!」
「してない」
せっかく譲ろうと思ったのに、こいつ前会った時から面倒な人間だったな。
そのプライドの高さは何なんだ?
「ん?その女はなんだ?ノーマの仲間か?」
ミーア俺の後ろに隠れる
「そうだ」
「貴様ああ!勇者パーティーの癖に美人をはべらせていい気になるなよ!勇者パーティーの使命を果たせよ!女とイチャイチャしやがって!」
「俺勇者パーティーじゃな」
俺の話を遮ってクロクズは怒鳴る。
「俺こそが勇者パーティーにふさわしい!村人職の貴様はすっこんでいろ!」
「だから俺は勇者パー」
「黙って聞け!俺の方が勇者パーティーにふさわしいんだ!分かるだろーが!」
「・・・・・どうぞ」
「バカにするなよ!」
なんなんだよ!
話を聞かないし勇者パーティーを譲ったら怒る。
「もう一回言うぞ、俺が勇者パーティーにふさわしい」
これはこっちのパターンを変えないとだめだな。
同じことの繰り返しだ。
俺はクロクズにぺこりと礼をすると、ゲットに別れの挨拶をする。
「今まで世話になった。買い物をしたらこの街を出る」
「ご苦労だったな」
ゲットはノーマをねぎらう。
だがクロクズは激高した。
「決闘だああああ!貴様ああああ!馬鹿にするなよおおおおぉ!」
俺はゲットに王への手紙渡す。
ゲットは俺の真意を悟り、納得した顔をした。
「無視するな!決闘だと言っている」
「クロクズ、ノーマは疲れている。弱った相手と闘うほど腐っては居まい」
父に指摘され一瞬たじろぐが、それでもやめない。
「ぐ、では昼この屋敷の前で決闘だ。精々休んでから来るんだな」
「うーん、めんどくさいぞ」
「ふ、負けた時の言い訳か」
「ミーア、買い物に行くぞ」
「そ、そうだね」
屋敷から離れるとミーアがしゃべり出す。
「びっくりしたよ。すごく怒鳴ってたね」
「前ここに来た時も村人職の俺にはあんな感じで接してたぞ」
他の皆には普通に接するけど俺にだけは態度が悪い。
ゲットに前聞いたら俺と張り合っているらしい。
「なんであんなに怒ってるんだろ?」
「俺が勇者パーティーに居るのと、可愛いミーアと一緒に居るのが頭に来たんだろう」
「わ、私、可愛ぃ・・・・・」
ミーアが照れて髪をいじる。
その顔は真っ赤だ。
そう言う所が可愛いぞ。
「買い物って何を買うの?」
「ミーアの服だ。いつも教会のローブだとさすがに目立つからな」
教会のローブ姿はそこまで珍しくないが、ミーアの見た目が良すぎて、ミーアは周りから注目を集めがちだ。
ミーアは目立つのだ。
見る人が見たら1発で聖女だとばれるから服だけでも変えておきたい。
「そうだね。いつもと違う服にしたいな」
ミーアはにこにこしながら歩く。
きゅうもハイテンションでミーアについて行く。
「デートみたいだね」
「確かに!手を繋ごうか」
「ノーマ、真っ赤だよ」
「ミーアもな」
俺はミーアに可愛いと言ったことが時間差で恥ずかしくなった所に、更に『手を繋ごうか』と言ってしまい自爆した。
俺はミーアと一緒に居るとたまに調子を崩してしまう。
2人は手を繋いで歩いた。
「ここが服屋だぞ」
「ノーマって色々知ってるよね」
「今回は、メイドさんに聞いて来たんだ」
「いらっしゃいませ」
女性の店員が出迎える
「女性用の服を見たい」
「はい。たくさんありますよ」
店員はそう言いながらなぜかきゅうに目を向ける。
「この狐は使い魔ですか?」
「そうだ」
「触ってみてもいいですか?」
「大丈夫だよ。きゅうはいい子だよね?」
「きゅう♪」
店員はきゅうを撫でまわす。
「いい肌触りです。尻尾が太くて触り心地がありますね」
「ブラッシングされるのも好きなんだよ~」
店員はミーアを見てはっとした顔をした。
「ブラシを持ってきます!!」
店員が裏に走っていく。
「のんびりしてるよな」
だが、これこそが俺が求めていた生活なのでは?
今日はゆっくりしよう。
結局俺達はきゅうの話で盛り上がり、服を買わぬまま昼の鐘が鳴った。
「もうお昼だよ。ノーマは決闘に行かなくていいの?」
「行かないぞ」
「え?」
「行かないぞ」
「でも決闘があるよね?」
「俺は行くって言ってないし、王命の手紙も渡してある。問題無い」
「あの人は行かなかったらすごく怒るんじゃない?」
「もう会わなければ問題無い。さ、ご飯を食べてこよう」
「行ってらしゃーい」
店員さんは笑顔で手を振る。
◇
【領主の屋敷前】
クロクズは立ったまま精神を研ぎ澄ませていた。
「クロクズ、ノーマは恐らく来ない」
「な!なぜですか」
ゲットはこらえられなくなり笑い出す。
「はっはっは!一杯食わされたな。ノーマは1度も決闘を受けると言っていないぞ」
近くに居たメイドも笑う。
「普通すっぽかします?ふふふ、ふふふふふふ」
クロクズがメイドを睨むと、メイドは目を逸らして口に手を当てた。
「ノーマの奴!ふざけやがって!必ず見つけてやる!」
ノーマはクロクズを相手にしたがらないが、その行いがクロクズの神経を逆なでした。
クロクズは街に走っていった。
クロクズが居なくなると、そこに居た全員が爆笑した。
「くくく、ははははは!ノーマとクロクズのやり取りはいつ見ても飽きない。くくくく」
「もう少し絡ませてみたくなりますね。楽しいです」
◇
「シチュー美味しかったね」
メイドさんにきゅうも一緒に食べられるお店を紹介してもらっていた。
「きゅう」
「そうだな。あそこの店のは初めて食べた」
勇者パーティーに居た頃は店でのんびりすることも出来なかった。
だが今の生活は最高だ。
「服を買おうか・・・・・隠れろ!」
店の前にはクロクズが怒りの形相で辺りを見回す。
俺を探しているんだろう。
そこに店員さんがやってくる。
「ノーマさん。ダメじゃないですか。クロクズ様が怒ってますよ。裏口から入って服を買ってください」
店員さんは優しいな。
こうしてミーアと店員さんが楽しそうに話をする。
ミーアと店員さんは似ているのかもしれない。
「ノーマはどれがいいと思う?」
「ミーアが好きなのを選んでくれ。俺はファッションが良く分からないんだ」
「ノーマさんの好みで選べばいいだけなんです」
店員さんが俺に選ばせたがる。
「と言っても、ミーアは何を着ても良く見えると思うぞ」
「いい返しですが、それでもノーマさんの意見が聞きたいんですよ」
「うーん。外套は、これかな」
俺はシンプルなデザインの外套を選んだ。
「これにするよ・・・・・!高いから止めておこうかな」
「デザインが嫌じゃなければ俺が金を出すからそれにしてくれ。防御の魔術が組み込まれていて良い物だぞ。それと服と下着を3着以上選んでくれ」
「う~ん、いつも買ってもらうのは悪いよ」
「ミーナ、男のプレゼントは受け取っておくものですよ」
「そうだぞ」
「分かったよ。大事にするね。またもらっちゃった」
「他にも貰ってるんですか?」
「ブーツももらったよ」
店員さんはミーアのブーツを見た。
「これは良い物ですね。外套と同じで装備しておくだけで、防御力がアップしますよ。この外套と同じです」
「良い物だったんだね。分からなかったよ。他の服は私が自分で買うよ」
こうして外に居るクロクズの事を忘れてミーアの衣服を揃えた。
「店員さん、チップだ。受け取ってくれ」
「え?こんなに!?」
「親切な対応と、クロクズから匿ってもらったお礼だ」
「ありがたく受け取りますね。クロクズ様に見つからないようしっかりサポートします」
俺達は裏から店を出るが、辺りが騒がしい。
血の匂いがする。
町の外から傷ついた兵や冒険者が街の中に運ばれてくる。
兵が叫ぶ。
「防壁の外に魔物が居る!戦闘が出来ない者は家に入り待機しろ!」
町の外からは魔物の叫び声がわずかに聞こえる。
俺はクロクズに駆け寄る。
「クロクズ!何があった?」
「貴様!どこに隠れていた!」
こいつバカなのか!
仕事しろよ!
「クロクズ!!!今は非常時だ!領主の息子の役目を果たせ!」
「く!分かっている!ノーマ、お前は回復魔術要因として冒険者ギルドに待機しろ!」
「分かった。ミーア、きゅう、冒険者ギルドに向かうぞ」
最後までお読み頂きありがとうございます!少しでも面白いと思っていただけた方はブクマ、そして下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします!