ポーション作成と斥候
部屋を出るとメイドがスタンバイしていた。
「ノーマ様、おはようございます。食事の用意が出来ております」
「おはよう。ミーアはしばらく起きないと思う。起きるのは多分昼近くだ。きゅうと俺の食事だけ部屋に持ってきて欲しい」
「かしこまりました」
俺ときゅうは部屋で食事を取るが、ミーアは起きない。
「きゅうはミーアと一緒に居てくれ」
「きゅう♪」
きゅうは嬉しそうにミーアにまとわりつく。
俺は部屋を出るとメイドが立っていた。
「ポーションを作りたいけど、材料はあるかな?」
「専用の部屋を用意してあります。今から案内します」
「俺は普通の人間なんだ。そんなにきっちり対応しなくて大丈夫なんだぞ」
「そうはいきません。勇者パーティーのメンバーに失礼は出来ませんから」
「俺は今勇者パーティーじゃないぞ。案内して欲しい」
掃除とか洗濯は助かるけど、扉の前で待機されてるとやりにくい。
ずっと斥候スキルで気配を感知し続けてしまう。
食事も持ってきてもらうより自分で取りに行くビュッフェの方が好きなんだよなー。
「こちらになります」
部屋に入ると、大量の薬草と、山積みの木箱が置かれている。
木箱を開けると全部ポーションのビンと蓋だった。
俺は部屋を出た。
「これポーション何本分だ?」
「ポーション1万本分です」
これはしばらく終わらないぞ。
ゲットの奴め!やりやがったな!
ポーションを作る気はあるが、1万本は予想外だぞ!
「昼まで集中して作業する」
「かしこまりました」
メイドは出ていった。
その後しばらくミーアは遅く起き、午後だけ教会で回復魔術を使い、俺はポーションを作り続けた。
結局昼を過ぎるまでポーションを作り続けた。
◇
【数日後】
「ミーア様は素晴らしい貢献をされています」
メイドが領主ゲットに報告する。
「うむ、さすが聖女」
「お聞きしてもよろしいですか?」
「何だ?言ってみろ」
「以前勇者パーティーよりノーマ様に手伝って欲しいとおしゃられていましたが、あれは本当でしょうか?」
「本当だ」
「ポーションを作るなら錬金術がBランクのノーマ様より錬金術Aランクの賢者マギ様の方が優秀だと思ったので、そこが疑問でした」
「なるほどな。分かっていなかったのか」
「はい?」
「いや、私の連絡不足だったな。説明しよう。ノーマは確かに錬金術のランクでは賢者に劣る。だが、ノーマは『全回復力アップ』のスキルを持っており、賢者より使える魔力量が多くなる。ノーマは賢者の数倍のポーションを作れるというわけだ」
「なるほど、品質の差を上回るほどの生産能力があると言う事ですね」
「その通りだ。そしてノーマは他にも色々出来るオールラウンダーだ」
そこにノーマがやってくる。
「ゲット、ポーション1万本、全部作ったぞ」
「もう終わったのですか!?早すぎます!」
「これがノーマの能力だ」
なぜかゲットは得意げな顔をしていた。
「もうポーション作りは飽きた」
「悪かった。ポーションは卸値から材料費を引いた分で支払いたい」
領主としては売値ではなく卸値で購入する事と、材料を兵士に取ってこさせることでポーションの購入費用を安く出来る。
「卸値で売るのはいいが、その金額の分で食料と鉄が欲しい」
「それはこちらとしても助かる。早速用意させよう。すまないが、卸値ではなく売値で買って欲しい」
財政はどこも厳しい。
ここで欲張る気はない。
「わかった。俺はその間に斥候をしてこよう。勇者たちの力が必要な場面があるかもしれない」
ノーマは計算する。
出来れば近接攻撃が効きにくい魔物が居ればベストだ。
この領で対処しきれず勇者パーティーが必要とされる厄介な魔物を探さねば!
「なんで嬉しそうにしている?」
「久しぶりに1人外で走り回れるからな」
「1人は危険ですよ!」
「ノーマなら大丈夫だ」
「・・・・・分かりました」
ノーマは窓から外に出て走っていった。
「本当に大丈夫でしょうか?」
メイドが心配そうな顔をする。
「大丈夫だ。ノーマは勇者パーティーの中で1番生存能力が高い。数日もすれば元気に帰って来る」
◇
数日後、ノーマは走って帰ってきた。
ゲットが出迎える。
「ご苦労だった。斥候の結果を聞きたい」
「地図に直接魔物の居場所を書き込んだ。見て欲しい」
ノーマは地図を広げた。
「ずいぶん遠くまで斥候をしてきたものだな。しかも魔物の種類や数まで記入されている」
「町の近くに魔物があまりいなかったから範囲を広げたんだ」
「5か所だけ、厄介な魔物が居るな」
「そうだな。スライムとゴーレムは物理攻撃が効きにくい。それとドラゴンだ。この領の兵が戦えば、倒せたとしても兵を失うかもしれない」
「ノーマ、討伐を頼みたい」
「討伐は勇者パーティーにお願いする。王に連絡して対処してもらおう」
「そうではない。お前が倒せばいいではないか」
ノーマは納得しない。
ノーマは勇者パーティーに依頼を出して、勇者たちを足止めしたいのだ。
絶対にノーマ自身が倒すわけにはいかなかった。
「すまない。俺では力不足だ」
「そんなことは無い。倒す力を持っているだろう?」
「俺は普通の人間だ!それに俺は王命がある。俺は主に探索係になっている」
「そうなのか?」
「そうなんだ。そろそろここを出る」
「・・・・・分かった。だが、後3日だけ待ってほしい。聖女の回復魔術がまだ必要なのだ」
「分かった。それまでポーションを作っていればいいか?それとも探索をするか?」
「ポーション作りを頼む」
ノーマを見送った後、メイドが口を開く。
「なるほど、ノーマ様の事がなんとなく分かってきました。ノーマ様は普通の人間になりたいのですね」
「うむ、ノーマの『出来ない詐欺』は勇者パーティーとして来た時に何度も聞いて来た。流石に気づく」
ノーマは常に自身を普通の人間と言い張る。
そして出来る事でも出来ないと言い張るのだ。
「ノーマ様はお1人でドラゴンを倒せるのですね」
「倒せる」
領主ゲットは自信を持って言い切った。
ゲットは出来ることは出来る、出来ないことは出来ない、分からなければ分からないと答える。
そしてその的中率は高い。
ゲットの自信満々の回答にメイドはノーマに畏怖の念を抱いた。
ノーマの行動ではなく、実力者が見たノーマの評価で、ノーマの底の知れない能力を察した。
ノーマは極力魔物との戦闘を控え、目立たないように動く。
だが、能ある者から見ればノーマの力は底が知れず、畏怖の念を感じさせた。
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