ポーション作りを頼まれる
「次はどこに行くの?」
ミーアがきゅうを撫でながら聞いてくる。
「次は北部のナイツ領に行きたい。宿屋の質が結構いいぞ。ただ、ミーアが見つかって正体がバレる可能性はある」
リスクはあるがミーアは1回倒れている。
たまにはきちんとした宿で休ませたい。
ナイツ領の領主ならうまくいけばミーアの正体がばれても匿ってもらえる。
「そうだね。行ってみよう」
「今から歩けば今日中に着くぞ。今日はここでキャンプしてもいいし、すぐに向かってもいい」
「すぐに向かおうよ」
こうして出てくる魔物を倒しつつ、ナイツ領への向かう。
◇
【ナイツ領】
俺達は何のトラブルもなく街に入ることが出来た。
「きれいな街だけど、鎧を着ている人が多いよ」
「ここは北の未開地から来る魔物から国を守っている防衛都市なんだ」
「だから冒険者や兵士が多いんだね」
ミーアはきょろきょろと辺りを見回すが、ミーアも逆に見られていた。
美人だからな。
「剣術や槍術が盛んだぞ。と言ってもこの領だけでなく国全体で剣術と槍術が盛んだ」
「このグリーンサマル王国は騎士の国なんだよね?」
「そうだな。魔術師の騎士も居るけど、騎士って言えば近接戦闘のイメージがあるよな」
「剣術と魔術剣を使う勇者が居るもんね」
「それもあるが、勇者パーティーには剣士ミントも居て、他にもBランクの剣術と槍術を使える人間が居る。見えてきたぞ。あそこが宿屋だ」
「大きいね!お城みたい」
そこには3階建ての立派な建物。
「お、お金持って無いよ」
ミーアが委縮する。
「大丈夫だ。俺が持ってる」
俺は颯爽と宿屋に向かった。
「申し訳ありませんが、使い魔の宿泊はご遠慮ください」
うっかりしていた。
前来た時はきゅうが居なかった。
きゅうが俺の目を見る。
「きゅ?」
きゅうだけ外に出したくない。
きゅうを一緒に部屋に入れたい。
「使い魔を入れるのは厳しいか?」
「申し訳ありません」
「それなら、使い魔を部屋に泊められる宿屋を紹介してくれ」
「それでしたら、『ケモミミ亭』ですね。ただ、宿屋の質は落ちますが宜しいですか?」
「ミーア、宿屋をそこに変えるぞ」
「うん、きゅうだけ外に出したくないよ」」
「ノーマさん。お気をつけて」
俺の名前を知っている。
領主に俺の居場所がバレるかもな。
さすがナイツ領。
目立たない俺もきっちりマークしているのか。
ノーマは自身が目立っている事に気づいていなかった。
俺達がケモミミ亭に向かって歩くと、ビックピヨに騎乗した兵士5人が俺達を取り囲んだ。
「え?なになに?」
俺はため息をついた。
「後ろに居るのがナイツ家の領主、ゲットだ。この男は信頼できるぞ」
だが、動きが早すぎる。
「久しぶりだな。ノーマ。ほお、珍しい者がいる」
ゲットはミーアの顔を見つめた。
ミーアが聖女だとバレたか。
「屋敷で人払いをして話をしようではないか」
「ミーア、あきらめて屋敷に向かうぞ」
これは、逃げても面倒になる。
ならおとなしくしていた方がマシだ。
「そ、そうだね」
ミーアは俺の服を強く握った。
◇
領主の館にはきゅうも入ることが出来た。
そして食事も用意され、領主のゲットと俺たち以外人払いされる。
「ノーマ、なぜレッドムーンの聖女と一緒に居る?勇者たちはどうした?」
「まず、ミーアときゅうに食事と取らせたい」
「失礼した。遠慮せず食べてくれ。で?何があった?」
「・・・・・と言う事があった」
「なるほど、王命と追われる聖女、か」
「それより気になったのは、俺達を見つけるのが早すぎないか?」
「それは、門兵から報告があったからだ」
「街に入る時には情報が漏れていたのか。地味な俺までマークしているとは、ナイツ家の兵は質が高い」
「ノーマ、お前も目立つぞ。それにお前たち勇者パーティーが前来た時はパレードのようになっていたではないか」
『勇者パーティー』という言葉に反応してミーアが俺の方を向いた。
「俺は後ろに居たはずなんだけどな。それに今俺は勇者パーティーじゃない。話は変わるけど、勇者たちにお願いしたい仕事はあるか?今王命で勇者パーティーが出来る仕事を探している」
勇者パーティーにたくさん仕事を押し付けてここに足止めするのだ。
出来れば時間がかかる依頼がベスト。
「私が手伝ってもらいたいのは、勇者パーティーではなく、ノーマ、お前だぞ。お前に頼みたいことがいくつかある」
「俺はただの『ノービス』で大したことは出来ない。勇者パーティーにやってもらいたい事を考えておいてくれ」
「それは考えておくが、ノーマにポーションの作成をお願いしたいのだ。もちろん対価は払う」
ゲットは食い下がる。
まずい、長くここに居たら勇者たちに捕まる。
「俺は王命があるから長くは居られないぞ」
「それは残念だが、短い期間で構わん。それと、聖女にも回復魔術ををお願いしたい。教会の懺悔室を使い、しかも顔を隠すよう配慮させる。護衛をつけ給金も弾むぞ」
「やるよ!」
ミーアが笑顔になった。
「勇者パーティーであるノーマと聖女に手伝ってもらえて頼もしい限りだ」
俺はやるって言ってないけどな、まあいいか。
ナイツ領は錬金術師も回復魔術を使える者も不足している。
というよりナイツ領は剣術と槍術使い以外のすべてが足りない。
ポーションを買うにしても限度がある。
多少強引にでも安くポーションを手に入れておきたい気持ちは分かる。
「俺達はケモミミ亭に帰るぞ」
「ここに泊まってくれ。サウナも食事もベッドも充実している。たまには客室を使いたいのでな」
ここは辺境で魔物との戦いの最前線に最も近い。
その為客があまり来ないのだ。
「分かった」
「部屋は一緒になるが問題無いな?」
「問題無い」
「ベッドは大きいものを1つだけ用意させよう」
ゲットがにやにやと笑う。
「そのままで大丈夫だ」
「大きいベッドに寝てみたいよ」
俺は意味が分かっていないミーアに耳打ちをした。
「ミーア、俺とミーアが一緒のベッドでぴーーーーーーーーーーするって話だ」
※ピーは自主規制
ミーアが赤くなる。
「別々のベッドで大丈夫です」
「ノーマ、据え膳食わねばなんとやらだぞ。それでも英雄か?」
ゲットはまだからかってくる。
「俺は英雄じゃない!」
「うむ、そろそろ食事の時間は終わりだな」
「俺はまだ食べてないぞ!」
食事が終わるとすぐ部屋に案内された。
「部屋が広いね。ベッドが4つもあるよ」
「ふふふ、どのベッドを使っても大丈夫ですよ。お二人で一緒に寝ても大丈夫です。ゆっくりお休みください」
メイドさんが笑顔で部屋を退出した。
「私ここにする」
ミーアがベッドにダイブした。
うーん、ミーアのパンツが見えそうで見えない。
ミーアは自分用のベッドにきゅうを運ぶ。
もうすっかりきゅうはミーアの物になっている。
きゅうを膝に置いて撫でながらミーアははしゃぐ。
「この国に来て良かったよ。ノーマに会えたし、山を登ったり領主様の屋敷に泊めてもらったり、今まで出来なかったことが出来てるよ」
結構ハードな旅だったと思うが?賢者なら3回は倒れてるぞ。
「聖女の頃は大変だったのか?」
「人を癒すのは好きだけど、窮屈だったよ。誘拐されそうになったり命を狙われたりするし、毎日修行と回復魔術とお勉強の繰り返しで自由は無かったし、あくびをするだけですごく怒られたよ」
レッドムーン王国では特にそうだが、聖女は神聖な存在で、皆の見本になるような立場にある。
その上で命を狙われたら自由に街を歩く事すら出来ないだろう。
「なあ、もしかしたらだけど、この国の王に話をすれば、レッドムーンより自由に生活できるかもしれない。ここの領主に王都まで送ってもらおうか?」
「うーん。もう少し一緒に旅をしたいよ。ダメかな?」
「俺は一緒に旅が出来てうれしいけど、王命があるんだ。危険な旅になる」
「それは大丈夫だよ。王都に行ってもきっと命は狙われるからね」
どこに居ても危険って事か。
分かったけど良い状況じゃないよな。
「それならいいんだが」
ミーアが俺をじっと見つめる。
「な、何だよ?」
「ノーマってやっぱりすごい人だったんだね」
「ん?俺は普通の人間だけど?」
「え~?勇者パーティーは絶対普通じゃないよ。それに普通の人はAランクのアサシンを倒せないよ」
「相手が弱っていたからな」
「ドラゴンも簡単に倒してたよね?」
「あのドラゴンの立ち回りが悪かったからな」
「Bランクの剣術スキルを持っててノービスなら、『スーパーノービス』にランクアップしてるよね?もう普通じゃないよ。十分強いよ」
Bランクのジョブスキルを持つ者は貴重だ。
更にBランクのスキルを複数持つノーマは貴重な存在なのである。
「・・・・・俺は普通だぞ」
「うーん、答えたくなかったら無理には聞かないけど、普通の人は王命を受けることも出来ないと思うよ」
「俺は普通だ」
「ふ、ふふふふふ。ノーマはすごいって言われると『俺は普通だ』しか言わなくなるよね。ちょっと面白いかも」
「そろそろ休もうか。ミーア、今までキャンプ生活をさせて倒れさせてしまったけど、ここなら疲れも取れるだろう」
「私が無理について行ったのに、気を使わせちゃったね。明日からたくさん働いて、私もお金を出すよ」
「それは気にしなくて大丈夫だ」
俺はたくさん金を持っている。
質素に暮らせばミーアときゅうが居ても一生困らないだけ蓄えているのだ。
・・・・・俺は、ミーアとずっと一緒に居たいと思っている、のか。
俺はミーアの事を意識している。
そういえばミーアと初めて会った時、1度は聖女の事をしつこく聞かないつもりでいた。
でもすぐミーアが聖女か確認したくなった。
自分の矛盾した行動を思い返す。
理性では深く聞かないようにしていたが、俺の感情はミーアの事を知りたがっていた?
俺はミーアが好きでミーアの事を知りたいと思っているのか?
俺は、ミーアとどうなりたいんだ?
「トイレに行ってくるね」
「あ、ああ、分かった」
ミーアは部屋を出てすぐに戻ってくる。
「お化け屋敷みたいだよ」
「きゅうおいで」っときゅうを抱っこしてまた部屋を出ていった。
怖いのか?屋敷はがらんとしてるから分からないでもない。
俺はベッドに横になり、目をつぶって考える。
俺は多分ミーアが好きだ。
だが、勇者パーティーから逃げたい。
俺は、逃げる事と、ミーアと一緒に居る事。
どちらかを選ぶ時が来るかもしれない。
きっとミーアとずっと一緒に居たら勇者パーティーから逃げ続ける事は出来なくなる。
ミーアと別れたら、勇者パーティーを振り切る事は出来る気がする。
だが、ミーアが俺を選んでくれるのか?
俺は笑った。
ミーアに選ばれても居ないのに、俺は無意味なことを考えている。
ミーアには魅力がある。
ミーアが歩くと他の男は振り返る。
俺は考えるのを止めた。
◇
朝になり、目を覚ますと手に柔らかい感触。
目を開けるとミーアが俺のベッドで寝ていた。
ミーアの体!?
「うあ!?」
「ん~、どうしたの?」
「起きたらミーアが隣で寝てたからびっくりしたんだ」
「そっかー。この屋敷が怖くて、ノーマの近くで寝ちゃった。お休み」
ミーアはまたお休みタイムに戻る。
「・・・・・しばらく起きないな」
昨日ミーアの事を考えていた。
そして起きたらミーアの柔らかい体を触って目を覚ます。
本当にびっくりした。
俺は部屋を出た。
ミーアを意識してしまう。
俺は深呼吸した。
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