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神媒師  作者: ふみ
第二章 信者獲得
98/114

098 情報

「……武器ですか?」

「はい。今回の武器は『情報』だと俺は思ってます。……自称霊能者の向井義昭って情報だけじゃなくて、他に分かっていることがあれば教えてほしい」

「『浄玻璃鏡の太刀』だけでは不十分なのですか?」

「もちろん、疫病神を解放するためには閻魔刀も使うことになります。……でも、その向井って人に閻魔刀を使う必要はないと考えてます」

「まぁ、貴方が危険を冒して太刀を振るうことはありませんから、その判断は正しいと思います」


 瑞貴と鬼は再びゆっくりと歩き始めた。

 鬼が言うように閻魔刀の力を使って向井を裁くことにはリスクが伴う。だが、瑞貴が閻魔刀を使わないと判断した理由は別にあった。


「……その向井って人は罪の意識を持ちながら、あずささんの家のお祓いの話をしていると思うんです。だから、その人に罪を自覚させる閻魔刀は不要なんです」

「どうして、そう断言できるのですか?」

「……お祓いの為に要求した金額。……120万円」

「ええ、随分と高額です。とても罪を自覚しながら要求している人間とは思えませんが?それも、追い払うべき鬼もいないのに」

「俺も金額を聞いた時は驚きました。明らかな詐欺行為ですからね。……でも、120って中途半端じゃないかな?……その中途半端な金額に罪の意識を感じたんです」

「どうせ騙し取るなら200万円でも構わない。と言う理屈ですか?……ですが、その半端な金額に狙いがあるのかもしれない。あの家の経済状況を鑑みての結果かもしれない」

「その可能性も否定できないですけど、120万円という響きに罪悪感の残滓はあると思うんです」

「……あの母親とは違う、とお考えになった?」

「はい」


 鬼は瑞貴の話を聞いていて、『フフッ』と満足気な表情で笑いが漏れていた。


「瑠々ちゃんの母親の笑顔には罪の意識を全く感じなかった。……自分の娘をあんな目に遭わせておいて笑顔で過ごせている事が怖いと感じました」

「それでも、貴方が問い詰めた時に狼狽えていたではありませんか?……あれは罪の意識からではないのですか?」

「あれは、違うと思います。あれは今の生活を守りたいと思っていただけで、罪の意識とか後悔とは違うものだと感じました。……ゴメンなさい、俺も上手く説明出来ないですけど何かが違うと感じています」

「自称霊能者には、まだ罪の意識があるとお考えなんですね?」

「はい……。でも、それに見合う『地獄』は見せてあげるつもりでいます」


 まだ人生経験の浅い瑞貴が、そこまでのことを考えながら決断していることに鬼は喜びを感じている。そして、ただ従うだけで神媒師の役目を果たそうとするのではなく、自らの意思で行動していることに敬意を払うことにした。


「いいでしょう。……自称霊能者、向井義昭。今年で34歳になる男です。10年ほど前に『人頭杖の会』という宗教団体に入会するまでは普通の会社員をしておりました」

「……『じんとうじょう』って、閻魔大王が使ってる?」

「はい。『浄玻璃鏡』と同じように人間を裁くための道具です」


 瑞貴は閻魔大王についての知識も必要になると考えて、多少のことは学んでいる。


「あっ、だから『小野篁』が出てくるのか。『小野篁』の血族の弟子だった……、本当なんですか?」

「さぁ、1000年以上前の人間です。子孫となる者は大勢存在するでしょう。……その中の一人を名乗ったところで価値などあるのか、私には分かりません」

「『小野篁』って人は、どんな力があったのか知っていますか?」

「あの男に貴方のような力はありませんでした。……ただ、冥界への出入口を知っていただけに過ぎませんよ」

「俺だって力なんてありませんよ。……それに、冥界の出入口も知らないです」

「時代が違い過ぎます。『小野篁』が生きていた時代は、もっと簡単に冥界への行き来が簡単だったのです。……もし、瑞貴殿が知りたいということであれば、お教えしますが?」

「いや、遠慮しておきます」


 瑞貴も『人頭杖』を詳しく知っていたわけではなかった。閻魔大王から『浄玻璃鏡の太刀』を借り受けてから、関係する物を調べていて知っただけに過ぎない。

 名前の通り二つの人の頭が付いている杖で、一つは優しい女性の頭であり、もう一つは怒った男性の頭が付いている。女性の頭は鼻で匂いを嗅ぎ分けて、男性の頭は第三の目を使って善悪や嘘を見抜く道具であるらしい。


「……でも、『人頭杖の会』なんて胡散臭い名前初めて聞いた。それだと、ご本尊が『人頭杖』になるんですか?」

「そのようですね。まだ若い団体ですので、万人が知っているようなものではありません」

「教主は?」

『小野篁』を名乗っておりますが、本名は分かりません」


 鬼が『分かりません』と言ったことに、瑞貴は違和感を覚えた。果たして、鬼が知らないことなどあるのだろうか疑問に感じてしまう。

 それも、閻魔大王と関りのある『小野篁』を語っている男についての情報であれば、詳細に調べているものだと考えていた。


「直接名乗ってるんだ、強気ですね。……まさか、実は『小野篁』は生きていたなんてことにはなりませんか?」

「なりませんね。亡くなった後、閻魔大王の裁きも受けております。先ほども申し上げた通り『小野篁』は何の力もない只の人間でしかありません」


 瑞貴は急に立ち止り、頭に浮かんだ考えをまとめ始める。 


「……ん?……あれ?そう言えば、『小野篁』って、あの時代に。……だったら、疫病神も」

「どうかされましたか?」

「いえ、ちょっと思い浮かんだことがあったんです。……自称霊能者も、かなり惜しいところまで行ってたのかもしれないなって」

「……惜しいところ、ですか?」

「はい、霊能者が『鬼が棲んでる』なんて言ってなかったら、俺は勝てなかったかもしれません。……まぁ、でも、そんなことまで考えてるわけないんです。たぶん、全部を鬼のせいにしてるんだから」

「何かヒントがあったのなら幸いです。続きをお話してもよろしいでしょうか?」

「すいません、お願いします」


 それから瑞貴は、向井が『人頭杖の会』の幹部候補であることや向井の家族についてなど、鬼が知っている情報を細かく聞くことが出来た。


「……どうですか?……瑞貴殿の武器は揃いましたか?」

「うーん、相手は俺より大人なわけだし、まだ難しいかもしれません。俺のハッタリが通じるのか、ちゃんと考えないとダメですね」

「そうですか」

「まぁ、でも、昨日からずっと頭を使ってるから、ちょっと休憩したい気分なんです」

「せっかくですから、熱田神宮でお参りでもしていかれたらどうでしょう。気分転換になるのでは?」

「……熱田神宮でお参り……ですか?天照大御神からの頼みごとの悩みでを天照大御神にお参りするのは変な気分だけど、鬼も一緒に来ます?」

「いえ、私が神域へ近付くなど畏れ多いこと」

「よく言いますね。一緒に麻雀してたくせに」


 鬼は不敵な笑みを浮かべて『では、また』と言い残して立ち去った。

 瑞貴は、鬼の言葉に従って気分転換のために熱田神宮へお参りをしてから帰ることにした。ただ、不敬であることは分かっていながらも瑞貴はお賽銭を納めることには納得いかないでいる。

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