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神媒師  作者: ふみ
第二章 信者獲得
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85/114

085 納得

「あっ、あと、今回は瑞貴さんに衣装を用意してありますので、そちらを着てくださいね」

「えっ!?……衣装ですか?」

「そうじゃ、閻魔からの指示で子どもらの魂を送った時、イマイチ納得ができなかったポイントを考えてみたのじゃ」

「俺の服装が、納得できなかったってことですか?」

「うむ。自然体であることも悪くはなかったのじゃが、やはり見た目は重要じゃぞ」


 瑞貴にしてみれば、おかしな方向へ話が進み始めているが姫和も采姫も止まる気配はない。

 采姫は『用意してあります』と言っていたので、既に準備が整った状態で話をされていることになる。


「いや、何があるか分からないので、着慣れている服の方が安心なんです。……衣装は、必要ないと思います」

「着慣れればいい話です。普段の生活でも着てください」

「でも、衣装なんですよね?衣装を普段から着ていたら、変な奴に見られちゃいます」

「バカ者。そんなことを考えずに選ぶと思うのか?」


 姫和と采姫はニヤリと笑みを浮かべてお互いを見た。瑞貴には神様が選ぶ衣装の概念が分からず、恐怖しかない。

 衣装となればキラキラしている物やヒラヒラしている物を瑞貴は思い浮かべていた。さすがに、そこまでの物ではないとしても衣装という表現は気になってしまう。


「……お持ちしますので、少々お待ちくださいね」


 発案者は姫和だと思われるが、采姫も乗り気な様子だった。瑞貴は、とんでもない衣装が運ばれてこないことを祈るしかない。


 戻ってきた采姫が抱えていた量は瑞貴の想定を超えていた。

 見た目は普通の女性であっても、采姫は神。もしかすると瑞貴よりも力は強いかもしれない。


「……こんなに?」

「はい。瑞貴さんに似合いそうな色合いの物を選んであります」

「着物……、ですか?」


 たとう紙に包まれた着物だった。もっと突飛な選択がされていることを危惧していたので瑞貴も拍子抜けしてしまう。


――あれ?そもそも神様の前で普段着でいる方が失礼だったのかな?


 神媒師としての正装があるのかは分からないが、今の服装の方が相応しくなかったような錯覚に陥る。


「……俺、着物なんて着たことありませんけど」

「大丈夫です。瑞貴さんが一人で着れるように私が指導しますから」

「はぁ……。でも、まぁ、着物なら……」


 瑞貴の反応を見て、采姫が不敵な笑みを浮かべた。要は、瑞貴に『着物なら……』と思わせることが肝心だった。

 衣装と聞かされていた瑞貴が着物を見れば、ハードルが下がったような気分になることを予想して段取りを組んでいる。


「それにしても、着物って高いんじゃないですか?」

「瑞貴さんが気にされることではありませんよ。……姫和さんが誰なのかを考えれば、取るに足らないことです」

「ちゃんと合法的なことなんですか?」

「瑞貴さん、よく考えてみてください。私たちは、法など超越した存在なのです」

「余計なことは考えず、それを着て、あずさの助けになってくれ」


 あらゆる事象を超越した存在が、人間の女性に起こっている問題を瑞貴に解決させようとしている。何となくの流れで瑞貴は着物を受け入れてしまったことになるが、本当に衣装としてだけ用意されたものなのかは気になっていた。


「早速ですが、来週の土曜日にでも行ってみようと思います。……瑞貴さんは毎週のことで大変かもしれませんが、よろしいでしょうか?」

「構いません。次は、俺一人じゃないんですよね?」

「ええ、私がご一緒します。詳しくは後日で。……まずは、学校帰りに立ち寄ってもらい着物を着る練習からですね」


 その日も着付けの練習の約束までさせられてから瑞貴は帰ることになった。

 玄関を確認すると草履が置かれていた。来た時に気付かなかった迂闊さを痛感させられる。



「……神様が誰か一人を助けるために、神媒師を動かすことなんてあるんですか?」


 帰り道、瑞貴は歩きながら大黒様に話しかけた。当然、答えが返ってくることはない。

 秋月と語り合った中でも、瑞貴は『神様は人間を助けてくれることはない』と断言していた。


「あっ、だから人間である俺が、あずささんを助けるのか?」


 采姫は瑞貴が納得できる答えもあると言っていた。神媒師としての務めで、あずさを助けることに意味があるはずだった。


「とにかく、あずささんの家族に起こっていることを俺が何とか出来るなら、やるしかないか」


 姫和や采姫が関わっている以上、特殊なことが起こっていて、瑠々の時とは違い助ける時間は残されている。今は、それだけを考えて進むしかなかった。


※※※※※※※※※※


「昨日は、ありがとうございます。色々と助かりました」

「いいえ。私は私の用事を済ませただけです。こちらこそ、同行を許していただき感謝しております」


 瑞貴は真っ直ぐ家に戻らず鬼のところへ寄ることにした。


「『抹消』するかを確認しに行ったんですか?」

「ええ、八雲徹が私利私欲で力を行使しているのであれば『抹消』するように言われておりました」

「……誰に?」

「それは、ご察しください」


 『抹消』とは記載事項を消し去ることであり、生きている人間の名簿があるのかもしれない。そんな名簿を管理している存在で鬼に指示を与えられるとなれば限られる。


「まぁ、八雲徹の力は私利私欲を満たすために使うのは不都合が多い代物です。そんな目的だけでは精神が保てません」

「それじゃぁ、話を聞く前から分かってたんですね?」

「一応は。……ですが、確認は必要です」


 鬼の言葉から本音を探ることは難しかった。閻魔大王からの指示があったことは事実で、八雲徹と話をしたかたことも事実だ。

 だが、あのタイミングで瑞貴と行動を共にしたのであれば、本気で『抹消』することは考えていなかったのだろう。鬼も『抹消』する気はなかったことを認めている。


――きっと、閻魔大王も『抹消』することは望んでいなかったのかもしれない……。どんどんイメージが変わっていくな


 今のところ閻魔大王から神媒師への依頼はなかった。


「しばらく、鬼と会うこともなくなるんですね……」


 ポツリと漏らした瑞貴の言葉で、鬼が『フッ』と微かな笑い声を漏らす。そんな反応は珍しいことで驚かされたが、このことが示しているのは近いうちに再び鬼と会うことになる暗示だった。


「……また何か俺に指示が来るんです?」

「いいえ、しばらくは瑞貴殿も忙しくなると思いますので、閻魔大王からの依頼はありません」

「何か含みのある言い方ですね?」

「お気になさらないでください。……ただ、八雲が言っていたように一人で抱え込むことがないように、使えるモノは惜しまず使ってください」

「……ん?」


 どういう意味かを聞き出す前に、鬼は『それでは、また』と言い残して消え去ってしまった。


――鬼も利用しろってこと?……鬼を利用するような場面があるのか?


 神媒師になってからの瑞貴は人智を超える存在とのやり取りで悩まされることが多くなっている。

 これから起こることが分かっているかのように話をするので、会話の中に潜んでいるヒントを聞き逃さないように注意していなければならなかった。



 瑞貴には学校が気を抜いて過ごせる場所になっていた。

 深く考えずに聞いていても問題のない清水幸多の雑談が心地良く感じてしまう。授業で出題される問題は明確な答えが用意されているので、身構える必要はなかった。


――神様たちの話みたいに、分かり難いことにはならないから気楽だよな


 学校外での活動が忙しくなっているので、授業に集中することで効率的に勉強をするようになっていた。余計なことを考えないようにしていれば疲労感も違う。


「……滝川君、何かあった?」


 気を抜けるはずだった中で瑞貴は突然の質問に驚かされた。


「え?……秋月さん、急にどうしたの?」

「先週と雰囲気が違って見えたから……。私の気のせいならゴメンなさい」

「別に謝ることではないけど。何も変わってないはずだから気のせいじゃないかな?」


 こんな時に見せる秋月の勘の鋭さは健在だった。

 八雲徹と話をしたことで瑞貴は背負っていたものを下ろすことができていた。その違いを秋月が指摘しているのだとしたら鋭いどころの話ではない。


「……ちなみに、どんなところが違って見えたか聞いてもいい?」

「改めて聞かれると困るけど、ちょっと前は何かを堪えてるみたいな感じがしてたの。後悔なのかな?少し悲しい感じ」

「今は、それがなくなってる?」

「ううん。なくなってはいないけど、ちゃんと前を見ている感じ」

「難しい表現だね」


 秋月が見つけた違いに興味があったが、思った以上に難解だった。『なくなっていない』のは子どもたちとの記憶を消さないでいることであり、『前を見ている』と言われたことは素直に嬉しかった。


 瑞貴は秋月と気軽に会話することも避けていたが、深く考えずにクラスメイトとの会話をすることにした。


「……でも、どうして、そんな話をしてきたの?」

「ちょっと納得いかなかったので」

「納得いかない?……俺が変わったことが?」

「ええ。ずっと元気がないように見えてたのに、急に雰囲気が違っていたことが納得いかなかったんです」


 言われてみれば秋月の淡々とした話し方の中に少し棘があった。それでも瑞貴はクリスマスの記憶が書き換えられている秋月が、以前のように戻っただけだと思ってしまう。

 あまり気にしていなかったが怒っているのかもしれない。

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