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神媒師  作者: ふみ
第二章 信者獲得
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072 天岩屋戸

 大黒様は炬燵にご満悦な様子であり、采姫(さき)に対しては何も反応を示さない。神様同士の対面になるので多少は緊張していた瑞貴も肩透かし状態である。

 采姫も大黒様をチラッと見ただけで、特に発言はなかった。


「……でも、采姫ちゃんに高校生のお友達がいたなんてビックリしたよ。……今日、聞かされるまで全く知らなかったんだから」


 采姫がキッチンでお茶を用意している間に、あずさは瑞貴に話しかけてきた。

 人間の世界に馴染めているらしく『ちゃん』付けで采姫は呼ばれていた。しかも、瑞貴はお友達扱いになっている。


「はぁ、お友達と言うか、何と言うか……」

「えっ!?まさか彼氏ってことはないよね?」

「それだけは絶対にありません」


 瑞貴の全否定の言葉を聞いて、あずさは笑っていた。明るくて社交的、これが瑞貴があずさに抱いた印象である。

 だが何故か、その明るさに不自然さを感じてしまう部分がある。言い換えるのであれば『無理をしている』と瑞貴には思えていた。


「……随分とハッキリ否定をされるのですね?……この世界で、私がお付き合いするとしたら瑞貴さんしかいないと思っているのに、そんな風に言われてしまうと寂しいです」


 紅茶を運んできた采姫が笑顔でからかってくる。采姫が神様だと知らないあずさは、その言葉の真意が分からず赤面してしまう。


――この世界で、市寸島比売命(いちきしまひめ)と付き合える人間なんて存在しないのに……


 言葉の解釈次第では、采姫が瑞貴に告白をしていると受け取られてしまいそうな内容であった。

 実際には正体を知っている瑞貴しか采姫と付き合えないだけの話である。


「……えっと、この子、まだ子犬なのに大人しいね?……全然吠えたりもしないし」


 あずさが分かり易く話題を変えてきた。大学生の割に色恋沙汰には初心なところがあるらしい。

 もちろん、瑞貴もその手の話題は避けて通りたいと考えていたので有難い話題転換になった。


「大黒様は、ほとんど吠えたりしませんよ。……アニメを見ているとき以外は寝てることが多いです」

「えっ!?……アニメを見るの?」


 深く考えずに瑞貴が発した言葉にあずさが反応する。


――しまった。采姫さんが一緒だから会話の基準がズレてる


 采姫は大黒様の正体を知っていることで油断してしまっていた。それでも、まだ致命的なことまでは発信していないので気を引き締めることにした。


「……動くものに興味があるみたいで、テレビとかも眺めてるんです」

「へー、実家で飼ってる犬はテレビを見ることなんてなかったけど、犬も色々なんだね?……家の子は、ゴールデンレトリバーなんだけど」


 采姫が手で口元を隠しながらクスクスと笑っているように見えた。こんな調子で話を進めていていいものか判断に迷う。


「あっ!ゴメンなさい。采姫ちゃんに用事があって来たんだよね。……私、席を外した方がいいのかな?」


 だが、采姫はあずさの分の紅茶も用意しており、席を外してほしい意思は感じられない。瑞貴としては会話の内容に注意が必要になるので天照大御神の件が片付くまでは采姫だけと話をしたかった。


「いいえ、あずさが聞いていても楽しい話じゃないけど、居てもらっても大丈夫よ」

「……いいの?」


 あずさは采姫の顔を見た後、瑞貴の顔も見た。采姫が認めた以上、瑞貴が反対することはできないので頷いてみせる。


「ほら、姫和(ひより)さんが部屋に籠ったまま出てこないでしょ。姫和さんを部屋から出すために瑞貴さんがお力を貸してくれるの」

「そうなんだ。……ずっと部屋にいるけど大丈夫なのかな?……食事だって、おてあ……、とにかく部屋から出てこないもんね」


 言葉を濁したのは『お手洗い』だろう。姫和が神様という情報を知らなければ尋常ではない状況だった。


「私たちが外出している時にコッソリ出てきてはいる形跡はあるの。……でも、またスグに籠っちゃうみたい」


 焦らず自然に対応できている采姫は流石だった。


「……お電話では何か良いアイデアを授かったとおっしゃっていましたが、何なんですか?」


 唐突に質問された瑞貴は驚いてしまった。

 頭の中で天野姫和と市村采姫が神様であることを考えていながら人間として接していくことの違和感。神様であることを隠しながら会話する難しさ。采姫のように器用な対応は瑞貴には骨が折れる作業だった。


「あっ、はい。……ここで麻雀をして、楽しい雰囲気を感じ取れば部屋から出てくるかもしれないんです」

「麻雀……ですか?」


 采姫は麻雀がどんな遊びなのかを知らなかったらしい。目を閉じて何やら考え込むような様子だった。


――もしかして、頭の中で検索してるのか?


 数秒の後、采姫は目を開けて笑顔を見せた。


「そうですか。麻雀ですね。……確かに興味深い遊びではありますが、姫和さんを部屋から出すことができるのでしょうか?」

「父曰く、人を引き込む『魔力』を持った遊びだそうです。きっと、誘い出すことが出来ると言ってました」


 頭の中で『麻雀』についての検索が終わったのだろう、最初に見せた表情とは全く違い理解している様子だった。


――頭の中で検索できるなら、人間の世界でネットなんかしなくてもいいのに……


 すると、あずさが話に参加した。


「面白いお父さんですね。でも、本当に『魔力』がある遊びなのかも……。長時間やっていても飽きないみたいだし」

「あずさは、麻雀をできるの?」

「実家で、人数が足りない時に無理やり参加させられたことがある程度だけどね」


 この一言で全ての流れが決まってしまったように瑞貴は感じていた。だが、本当にそれで良いのかは悩んでしまう。


――神様vs鬼vs人間か……。究極の戦いだけど、麻雀なんかでいいのかな?


 それよりも鬼と一緒で問題ないのかも気になってしまう。采姫は外見的に問題ないが、鬼の見た目は怖い。

 瑞貴は慣れてしまっているが、かなり迫力のある外見であった。


「……では、あずさも参加をお願いしますね」


 迷っている瑞貴を他所に采姫が話を進めてしまう。


「えっ?……私も参加するの?」

「瑞貴さんが一人連れてきてくれるから、あと一人が足りなかったんだけど、あずさが出来るみたいで助かったわ」

「えっ!?俺が一人連れてくることって言いましたか?」

「ちゃんと電話で教えてくれましたよ」


 采姫が微笑みながら瑞貴に言った。


――嘘だ。今さっき麻雀のことを知ったばかりで四人必要なことも知らなかったはず。それに、鬼を連れてくることなんて教えてない


 瑞貴のプライベートは守って必要以上のことは調べないでいてくれると約束したが、厳密に守るつもりはなかったのかもしれない。説明を端折ることが出来て話は早いが、瑞貴としては完全には納得できるものではない。


「……そうでしたか?俺の記憶とは違ってるのかな?」


 少しだけ恨み節で神様に言い返してしまった。


「フフ、今回だけですから許してくださいね」


 余裕の笑みで采姫には流されてしまう。この約束が守られるかは怪しいが、これ以上追求することは瑞貴には不可能だった。

 あずさには何の会話なのか分からず、呆気に取られてしまっている。


「あっ、すいませんでした。嫌でなければ富永さんにも参加してもらえると助かります。あと一人が見つからなくて、相談するつもりだったんです」

「そうなんだ。……嫌ではないんだけど、全然上手くないよ。それでも大丈夫なのかな?」

「俺なんて、これから覚えようとしてるくらいですから平気です。とにかく、楽しい雰囲気だけ出せれば、姫和さんを部屋の外に誘い出せると思うんです。」

「楽しい雰囲気で部屋から誘い出すなんて、天岩屋戸の神話()()()で面白い作戦だね」


 あずさの言葉に瑞貴はドキッとしたが采姫は相変わらず余裕の表情を見せていた。『みたい』ではなく神話の再現をしようとしているのだから的確な表現ではある。


「あっ、あと、俺が連れてくる人は見た目がかなり怖いんですけど富永さんは大丈夫ですか?」

「たぶん大丈夫だと思うけど、そんなに怖そうな人なの?」

「ええ、あずさは驚くかもしれないわね。……まるで鬼みたいな顔をした男よ」


 瑞貴は失礼を重々承知の上で、采姫に少し黙っていてほしいと願ってしまっていた。

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