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神媒師  作者: ふみ
第一章 初めての務め
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034 白髪鬼

 かくれんぼの決着は意外に早くついた。隠れていた子どもたちも見つかった後は鬼を手伝うシステムが採用されており、どんどんと隠れる側が厳しくなる仕組みになっていた。


 それでも瑞貴が気持ちを落ち着けるだけの時間は稼いでくれており、最後の子が見つかるまでには笑いながら一緒に遊ぶことも出来ていた。


 最後まで隠れていた子は、豊臣秀吉である。


「子ども相手に大人気ないとは思うけど、流石にずる賢いですよね」


 瑞貴のこんな評価も満足げに受け入れてくれている。早く終わったとはいえ、日は暮れかけて寒さが増していた。 

 そんなこともお構いなく追いかけっこを始める子や大黒様を撫で始める子、それぞれに遊びを見つけて行動を始めていた。


「それで、期末試験とやらは無事に終わったんじゃな?」

「ええ、無事かどうかは別にして終わりましたよ。」

「弱腰な発言をするではない。やるべき事をやってきたのなら、自信ある言葉を使わないと気運を味方につけることは出来んぞ」


 秀吉からの説教を受けていると時代を錯覚しそうになる。これで瑞貴が『閻魔刀』でも持っていれば、もっと雰囲気が出るかもしれない。


「……はい。自分なりに頑張ってきました。……明日から本格的に行動しようと思いますが、今日は報告に来たんです」


 背筋を伸ばして報告するのを、信長と秀吉が(うなず)きながら聞いてくれている。


――なんだか家臣になった気分だ


 周囲に人がいない場所を探すのは苦労したが、最初の頃に比べると慎重さはなくなってきている。瑞貴にはハッキリ見えてしまっているので見えていない人への配慮に気が回らなくなっていた。

 瑞貴の中には『本当は自分以外に見えてる人がいるかもしれない』という感情が生まれていた。そんな疑いすら抱いてしまう程に瑞貴には自分の見ている光景が自然に思えていた。


瑞貴の中では、『見えることが異常』ではなく『見えないことが異常』になりつつある。


「また詳しい段取りは報告に来ますから少しお待ちください」

勿論(もちろん)構わないが、年の瀬はこの場所も賑やかになってくるだろうから大丈夫か?」

「そうですね。このままでは難しいと思います」


秀吉は腕組みして悩むような態度を見せたが信長の表情は変わらない。


「其方に任せたのだ。其方が納得いくよう進めてくれればよい」


再び信長の印象が変わってしまう言葉が返ってきた。


「ありがとうございます。それでクリスマスでパーティーの日にちは決まっているので、その後は出来るだけ早く……」

「覚悟はしておる」


 この状態で400年以上を過ごしてきた二人であれば、覚悟をしてまで成仏する必要はなかったかもしれない。

 それでも、決断を下す要因が生まれていた。


――また、これから色々な話を聞けるかもしれない。今は余計な詮索(せんさく)をしないでいよう


 瑞貴が帰ろうとしていると子どもたちが集まってくれていた。

 それぞれに『また遊んでね』など声をかけて、手を振って見送ってくれた。


 その中には山咲瑠々の姿もある。明るい笑顔で手を振る姿に複雑な想いはあったが、瑞貴も皆に向けて小さく手を振り返した。


※※※※※※※※※※


 試験が終わっても学校へ通わなければならないことは同じ。だが、気は緩んでいて皆が浮かれているのは間違いない。


 聞こえてく話では清水幸多と数名の男子が中心になり企画が動いているらしい。クラスの垣根を越えた企画で、結構な人数が参加する様子だった。

活動原資は男として純粋な思惑なのだが瑞貴は感心させられる。


「まだ2週間以上も先のことなのに凄いな……」


 偶々(たまたま)近くで話をしていた幸多に向かって声をかけると、


「バカ、2週間なんて、あっという間に過ぎてくんだ!ここ正念場!」


 現在の瑞貴には耳の痛いセリフが返ってきた。確かに『まだ』時間はあると油断していると焦る結果になりかねない。

 そのことを体現してくれている幸多の姿は既になかった。


「おはよう。……凄いね、清水君たち」

「あっ、おはよう。……秋月さんも参加するの?」

「えっ?誘われては……、いるよ。友達も参加するみたいだし」

「かなりの人数が参加するって情報は本当なんだ」

「……そう、みたいだね。……小学生の時みたいなプレゼント交換まであるんだって」

「プレゼント交換か。……ん?……あれ?やっぱり小さい子たちはプレゼントが要るのかな?」


 瑞貴がやろうとしていることは子どもたちのクリスマス会と同じだ。高校生では恥ずかしいと感じることがあっても子どもたちには大切な思い出になる。

 クリスマスツリー、ケーキと来たら当然プレゼントになるのだが、成仏するのを待っている子どもたちにプレゼントを贈ることに意味があるのかは分からない。


「……滝川君、どうしたの?」

「えっ!?うん、何でもないよ。秋月さん、ありがとう」

「えっ?……う、うん。」


 何に対して感謝されたのかが全く分かっていない。秋月との会話が毎回()み合わない状態となっていることを反省すべきなのだが、瑞貴なりに一生懸命だった。



 学校終了後は歩道橋の『鬼』との面談。

 取扱説明書のない『浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)の太刀』の解説をしてもらわなければ、段取りが決められないでいた。


「一週間ぶりくらいですね。今日は、『浄玻璃鏡の太刀』の使い方とかを色々教えてほしいんです」

「今日は、穏やかなんですね。先日、お会いした時は随分怖かったのですが?」

「えっ、俺が怖いなんて冗談ですよね?……貴方の方が全然怖いですよ。『鬼』なんだし」


 長身、白髪、オールバックで、父は『白髪鬼』と呼んでいた。非常にしっくりくる呼び方だと瑞貴は考えている。


「いえいえ、私は『鬼』の中で、かなり優しい方なんです。それは、人間界の連絡役に私が任命されている事が証明しています」

「比較対象が『鬼』であれば優しいかもしれませんけど、人間から見れば十分すぎるくらいに見た目は怖いです」

「それは誉め言葉として受け取っておきましょう」


 この『鬼』と話していると不思議な気分になってくる。瑞貴が直感で抱いている印象として『嫌い』ではない。


「まぁ、その辺のことは置いておくとして。聞きたいことも多いから本題に移りますね」

「どうぞ、何なりとお尋ねください」

「……じゃあ……、まずは、成仏させるにはどうすればいいですか?」


 瑞貴はメモ帳を取り出して、書き込める準備を整えた。複雑な話になった場合に覚えておく自信がなかった。試験ではないのでカンニングも可能だ。


「それは簡単です。まず、(さや)に巻かれた白と黒の二本の紐全てを(ほど)きます」

「……グルグル巻きになってた紐を解くだけでいいんですか?」

「はい、解くだけです。解き終えたら『浄玻璃鏡の太刀』を鞘から抜くのですが、抜刀前に『閻魔代行』と唱えてください」

「おっ、なんだか、それっぽい詠唱があるんですね。……『えんまだいこう』っと」


 簡単な言葉ではあるが、間違えて覚えてはいけないのでメモを取る。


「厨二病ではありませんよ。その言葉を発しないと結界が発動しないので恥ずかしがらずに大きな声で言ってください」

「……厨二病っぽいですけどね。……でも、結界なんてあるんですか?」

「成仏させるには非常に重要な結界になります。最初に解いた二本の紐が結界を自動で作ってくれます」

「……紐って、鞘に付いていたはずですけど鞘は持っていないとダメなんですか?」

「そうですね。太刀は右手に持ちますから左手に鞘となるでしょうね。鞘が貴方の手から離れた時点で結界も解かれてしまうので、ご注意ください。……貴方の身体も結界の一部としてお考えください」

「俺の身体が結界の一部……。何だか少し怖いですね。……それぞれの手で刀と鞘を持っていればいいんですか?」

「両手が使える状態であれば。……もし、片手が動かなくなっている状態でしたら動かない手にでも鞘を巻きつけておけば大丈夫です」

「片手が動かないって、怖い事を言わないでください。ちゃんと両手は動きます」

「今後の可能性の話ですので、お気になさらず。鞘から抜いた刀身は、鏡にもなっているので、その鏡に亡者の姿を映します。……ここでは説明を分かり(やす)くするために『亡者』と呼ばせていただきます」

「お気遣い、ありがとうございます。……刀身の鏡が『浄玻璃鏡』ってことですか?」

「その通りです。その鏡には亡者の善行と悪行が偽りなく映し出されます。その映像を亡者に見せるように刀身を翳してください」

「……映像で流れるなら結構時間がかかりますか?」

「いえ、一瞬です。刹那の中で全てを理解させられるのです。……理解した亡者の身体からは『(えにし)の紐』が見えるようになります」

「……『縁の紐』。それって、何なんですか?」

「亡者の魂を、この世に縛りつける紐です。……その紐を断ち切れば、この世から仏の世界へ向かうことが出来ます」

「それが、成仏?」


 実際には身振り手振りも少し交えながら説明は為されていた。簡単なことなのか複雑な事なのか、微妙に分かりにくい。

 迂闊に鞘から抜いてみることも出来ず、予行練習をすることも難しいので、ぶっつけ本番となる。


――無駄かもしれないけど、イメージトレーニングだけしておくか……


 そのことよりも説明の途中に白髪鬼が『亡者』の言葉に断りを入れてくれた事が瑞貴には嬉しかった。些細(ささい)なことではあるが覚えていてくれたことが嬉しかった。

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