019 緊張感
14時過ぎになって両親は帰宅した。
夕飯の買い物も済ませてきたらしく母は冷蔵庫に買ってきた物を入れている。そして、ゆっくりと後から家に入ってきた父に瑞貴は声をかけた。
「おかえり」
「おっ、ただいま。……珍しいな。お前が下で待っているなんて」
外出していなければ自室に居ることが多い。その瑞貴がリビングで待っていたことを意外に感じた父は何か察知することもあったかもしれない。
改まった雰囲気で父に相談をすることに多少の緊張があった。家族仲も良かったので他愛無い話は気軽にしてきたが今回は相談内容に問題がある。
「あのさ、『浄玻璃鏡の太刀』って家にあるの?」
父の表情が明らかに変化した。
一つの単語に対する反応としては異常と感じられるほどの変化で、恐怖を感じるほどに強い目で瑞貴を凝視している。
「それについて、何か聞かされたのか?」
父の言葉には厳しさが込められていた。いつもの柔らかさは感じられず誤魔化すことを許さない厳しさがある。
「うん、……また、メールがあったんだ。閻魔様からのメールで『浄玻璃鏡の太刀』に『触れろ』って書かれてたんだ」
「ただ、『触れろ』って書かれてあっただけか?」
「まぁ、明日の朝に熱田神宮へ来いって指示もあった。それで、行く前までに『浄玻璃鏡の太刀』は『触れて』おけって書かれてたんだ」
「……先ずは『触れる』だけ……、だな?」
瑞貴は頷いて返した。
今の父の様子で『浄玻璃鏡の太刀』が取り扱い注意の品であることは明らかになった。それも、かなり危険な物かもしれず緊張感が増す。
神様の装備品に名を連ねている物であれば危険な物であることも当然とは考えていた。大黒様との出会いが最初となっていたことで神媒師に対しての認識が『緩く』なっていたのかもしれない。
父は自分の腕時計を確認してから。
「30分後、私の部屋に来なさい」
瑞貴は、再び頷いただけで声を発することが出来なかった。
メールを読んだ時には、父のこんな姿を全く想像しておらず大黒様を迎えた時のように和やかな会話を思い描いていたのかもしれない。
約束の時間まで部屋で過ごすことにして大黒様を抱きかかえ自室に戻る。
――かなりヤバイ物なのか?
神媒師になることに不安を抱いて憂鬱になっていたのは、こんな得体の知れない怖さがあったからなのだ。大黒様の登場で少し忘れてしまっていたのかもしれない感覚が戻ってくる。
「今回は、ちょっと緊張感がありますね?」
部屋に戻ってアニメを見ている大黒様に話しかけてみた。この大黒様の状況に緊張感がなさ過ぎるのもいけなかった。
落差がありすぎて対応に戸惑いを生んでしまう。
父の反応を思い出しながら閻魔様について調べていると約束の時間になっていた。
同じ二階の奥に父の部屋はある。
瑞貴は大黒様も一緒に連れていくべきか迷っていると、大黒様はクッションから起き上がり準備を始めていた。
「一緒に行くってくれるんですか?」
瑞貴の方をチラっと見ただけでドアの前まで進んでいった。
――やっぱり行くんだ。……実は閻魔様と仲良しだった。とかあるのかな?
ヒンドゥー教が原型になっている神様だとしてもシヴァ神と関係があったのかは分からない。神様にも派閥もあるらしいので関係性は気になっていた。