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神媒師  作者: ふみ
第二章 信者獲得
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107 お散歩

 富永家訪問の約束した日までは瑞貴も平穏な時間を過ごすことが出来た。平穏とは言ってもテストも控えており、それなりに忙しくはある。

 学校も休みがちになってしまうので落ち着いて学校に通える時間は大切にしておきたいと瑞貴は考えていた。


 秋月も瑞貴が話してくれるまで待っていてくれているのか、あの神社での話以降は何も聞いてくることはなかった。

 節分が近くなって采姫のマンションに寄ってみると、あずさも一緒だった。


「……楽観視は出来ないけど、家族の体調も落ち着いてるの」


 あずさも大学の定期試験で忙しいらしいが、時間が許す限り実家で家族と一緒にいるらしい。


「滝川君に言われた通り、皆で過ごす時間を大切にしてる」


 采姫も車で送迎を手伝ったりしているのだが体力的には余全く問題なさそうだった。基本的には睡眠も必要としていないので、こんな時に神様が協力してくれるのは瑞貴も心強い。


「あずささんの家に来た霊能者の素性も分かりました」

「えっ?霊能者の素性って……。調べる材料なんてなかったと思うんだけど?」

「そうですね。『霊能者』って情報しかなかったんですけど、調べられちゃったんです」


 あずさは驚いて何も言えなくなっていた。この反応は当然であり、僅かな情報だけで素性を調べられることなんてあり得ないことだった。普通の高校生が短期間で調査できるものでもない。


「フフッ、瑞貴さんは優秀なんです」


 驚いて唖然としているあずさに采姫が話し掛けた。


「……優秀って、それだけで片付けちゃっていいのかな?」

「ちゃんと教えたでしょ。瑞貴さんは神事に携わる家に生れてるんだから特別な力があるの」


 あずさは采姫がからかい半分で言っていることを信じてしまっている様子だった。原因不明だった体調不良を突き止めただけではなく、霊能者の正体を探ってしまったことで完全に瑞貴を見る目が変わっていた。


 瑞貴としても『特別な力』を否定してしまえば、あずさを納得させるだけの説明は出来なくなるので黙っていることにした。


「ところで、あずささんは『人頭杖の会』って聞いたことはありますか?」

「ううん。私は聞いたことないけど」

「お祖父さんが参加してるなんてことは考えられませんか?」

「うーん、ないと思う。最近は妹も注意しているけど、そんな話は全く出てこなかったし」

「そうですよね。……でなければ俺を呼んだりはしないはず」


 身内に信者がいれば部外者である瑞貴を頼ったりはしなかったはずであるが、念のために確認しておきたかった。

 もし、あずさの祖父が信者であれば話が拗れてしまう可能性がある。


「……宗教団体、とか?」

「まぁ、そうなります。それほど規模は大きくないと思いますが、あまり関わらない方がいい」

「そんな人を相手にして滝川君は大丈夫?」

「大丈夫ですよ。所詮は偽物ですから」


 向井という男の後ろにどんな人物がいるのかは分からないが、瑞貴の後ろには本物の閻魔大王がいる。その近くには本物の『人頭杖』も置かれているのだろう。

 心配があるとすれば人間としての怖さだけだが、そのことを瑞貴が恐れることはなかった。


「……固徹君との時間を大切に過ごしてあげてください」

「うん。ありがとう」


 見送りのために玄関まで来てくれた采姫に、瑞貴はお願いをしておくことにした。


「当日は姫和さんも来てくれるんですよね?」

「瑞貴さんが望むのであれば」

「ええ。是非お願いしたいです。……どうして姫和さんや采姫さんが今回のことを俺に頼んできたのか分かったんです」

「ふふ、流石です」

「最初にヒントをもらってたからですよ。あれがなかったら分からないままだったかもしれない」


 あずさの家で疫病神と話した直後は天照大御神と疫病神が結びつく要素は見当たらなかった。それでも瑞貴は一つの可能性に至ることになり、今は確信を持っている。


「神様たちは本当に意地が悪いですね」

「そんなことはありませんよ。出来れば優しい世界であってほしいと願ってはいるのです。……それでも望まないことが起こってしまう偶然は許してくださいね」


 采姫の表情が少しだけ寂しそうに見えた。神様が望まないことが起こってしまうのであれば人間ではどうすることも出来ない。


※※※※※※※※※※


 それから数日後の2月3日、着物姿の瑞貴は再びあずさの実家を訪れていた。車から降りた瑞貴の手には『閻魔刀』が握られている。

 早い時間に到着して向井を待つつもりでいたが、この場に大黒様はいない。


「おはよう。学校休んだんだね?」

「……お、おはよう、ございます。えっと、滝川さんも学校休んでくれたんですよね?」


 茜は少しだけ恥ずかしそうに瑞貴に挨拶を返した。

 体調が落ち着いているという話は事実らしく、この日はパジャマ姿ではなかった。車から降りてくる瑞貴と采姫を出迎えてくれている。


――疫病神が自分の力を抑えこんでくれたのか?


 疫病神が病を抑えこんでいるとは変な話であるが、疫病神も今回のことは予想外だったのだろう。それだけ固徹の想いが強かったことの証明なのかもしれない。


「……あずささんはいないの?」

「もうすぐ帰ってくると思うけど、散歩に付き添ってます。……おじいちゃん、まだ体調は不安があったけど、どうしても行きたいって言うから」

「そっか」


 今日で本当のお別れになることが分かっているのだろう。そして、そのことは瑞貴の言葉を信じてくれていることの証しになっていた。

 瑞貴は黙ったまま外で待つことにしたが、茜も采姫も何も言わずにいてくれる。


 しばらくすると、散歩を済ませたあずさたちが戻って来た。あずさの祖父は何にも繋がっていないリードを持っているが、その横を歩く固徹の姿が瑞貴には見えている。


 あずさは瑞貴と采姫を見て少し離れた場所から手を振ってくれた。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 瑞貴に頭を軽く下げてあずさの祖父は丁寧な挨拶をした。あずさも茜も祖父に倣うようにして頭を下げてくるので瑞貴は恐縮してしまった。


「お、おはようございます。こちらこそ、よろしくお願いします」


 瑞貴も慌てて挨拶するが、キョトンとした顔の固徹に目が行ってしまう。


「良かったね。散歩、楽しめた?」


 あずさたちは瑞貴が見ている方に視線を落としたが、何もない空間でしかない。


「……いるのですか?」

「はい。不思議そうな顔をして俺たちを見ています」


 それを聞いた祖父はしゃがんで固徹と並び、あずさと茜は微笑みながら眺めている。固徹が最期の時間を幸せに過ごせていることが瑞貴には嬉しかった。


 だが、固徹を送ってあげる前に瑞貴にはやるべきことがある。

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