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第9話 「決着」


「ぐぅ……うぅ……」


 荒い息を吐きながら、悪霊を睨みつける夕凪。


「なかなか頑張るねぇ、巫女さん」


 野球ボールのようにポンポンと石を上に投げながら、笑う悪霊。


「ゆ、夕凪さん!大丈夫ですか!?」

「大丈夫よ鈴香さん。封印さえ出来れば、こんな奴すぐに片付くわ」

「そう、その封印するための、札を貼られなければ僕を片付けることはできない。そんな隙は与えないけどね」


 石から手を離し、霊能力で鈴香に向けて飛ばす悪霊。


「鈴香さん!!」


 こちらに向けられていれば簡単に弾き飛ばすことが出来るのだが、彼女を狙われては自分の体で守るしかない。


「うぅ......」


 鈍器で殴られたような衝撃。

 ぼたりと赤い液体が頭からこぼれ落ちる。


「夕凪さん!」

「くっ、汚い手ばかり……」

「卑怯で汚いのが悪霊さ。そこは人間と何も変わらない」


 夕凪に向かって歩み寄る悪霊。

 だから悪霊は嫌いなのだ。

 体を乗っ取り、取り返しのつかない状態になって、ようやく本性を現す。

 だから芥田涼真に取り憑く悪霊も危険視していたが、同じ大学に通う男にも憑依していたなんて、完全な盲点だったと言える。


「これで分かったろう、勝てないってことが。さて、抵抗しないなら二人ともいただいてしまおうかな」


 悪霊は夕凪のぼろぼろになった巫女服を引き裂こうと、手を伸ばした。


「……ごぶぁっ!?」


 その瞬間、悪霊の顔に石が直撃し、吹き飛ばされる。


「ほ、本日、二度目だとぉ……!」


 白目を剥いて倒れる悪霊。

 石の飛んできた方角には、涼真の姿があった。


「お兄ちゃん……?」

「あー、惜しいのじゃ。すまんが今は、眠ってもらっておる」

「まさか……あなた!?」

「そう、その『まさか』じゃ」


 立ち姿は涼真そのものだが、雰囲気や口調は彼のものではなく、エミルのものだった。


「あなたが、エミルちゃん?」

「ん?妾と話すのは初めてじゃったな、ご主人の妹とやら。少し兄の体を借りるておるぞ」

「ぐぐぐ……そうか、ついに体を乗っ取ったのか」


 鼻血を拭いて、よろよろと立ち上がる悪霊。


「何を寝ぼけたことをしている?自らを悪霊だと自覚したなら、同じ仲間である僕と組んで、その僕達を封印しようとする女を始末するのが筋というものだろう!」

「寝ぼけておるのはそっちじゃ。お主も妾も封印され、この戦いを終わらせるのじゃ」

「血迷ったのか……そんなことをして、何の意味がある!?」


 悪霊は木の棒を拾い、霊能力で強度を上げるとこちらに殴り掛かる。


「そんなこと、ケダモノのお主に説明したところで分からぬよ」


 パンッと両手で鉄のように硬くなった木の棒を受け止める。


「……なっ!?」

「こんなところで、あの時の男に教わった白刃取りが役に立つとはのぅ」

「小癪な……!」

「危ないっ!」


 エミルの腹に力強く蹴りを入れようとした悪霊は、横から鈴香がぶつかった衝撃でその身体が揺らぎ、木の棒を落としてしまう。


「今だよ!エミルちゃん!」

「おのれ……!!」

「でかしたぞ!覚悟せい!」


 エミルはすぐさまその棒を拾い上げると悪霊を殴打し、そのまま押し倒す。


「二人とも助かったわ。これで私達の勝利ね」


 夕凪は悪霊の眼前までやってくると、懐から札を取り出す。


「ゆ、許してくれ!僕はただ、悪霊の本能に従って、悪さをしていただけなんだ!」


 それを見た夕凪はふっと微笑み、


「あなた達悪霊が本能のままに悪さをするように、私のような巫女はそれを封印するの。本能のままにね」


 ぺたりと悪霊の額に札を貼り付ける。


「あぁあ……ぁぁあああっ……!」


 悪霊は小さな断末魔を上げると、残った比賀の体は文字通り魂を失ったように力が抜け落ちる。


「お、終わりました……か?」

「えぇ、なんとかね。でも、まだよ」


 夕凪は額の汗を拭い、比賀の額から札を取り外すと、次の悪霊に目を向ける。


「エミル……だったかしら。あなたは悪霊退治に協力してくれた。でも、それとこれは別。あなたがその体に居座り続けると、芥田くんがどうなるかは、知っているわよね?」

「そうじゃのぅ、知っていたら見逃してくれるのか?」


 木の棒を握りしめ、肩を鳴らすエミル。


「悪霊退治が私の仕事よ。そんなことすると思う?」

「そんなぼろぼろの格好でよく言うのじゃ。じゃが安心せい。妾はここで大人しく封印されるのじゃ」


 エミルはズボンのポケットに入ったくしゃくしゃの札を取り出す。


「エミル……!」

「エミルちゃん!」

「鈴香殿、ご主人のことよろしく頼むぞ」

「うん。お兄ちゃんには嫌いな野菜も食べえもらえるように頑張る!」

「健康志向で何よりじゃ。それから夕凪殿、この妾の封印された札はご主人に渡して欲しいのじゃ」

「……分かったわ」


 その返事を聞いたエミルは安堵したように、札を自らの額に貼り付けた。

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