最終話 「えみる×すぴりっと」
一年後。
「……また、フラれたんですね」
『そうなんだよぉ。脈アリと思ったんだけどなぁ……』
「それが夜遅くにわざわざ掛けてくるような内容ですか、まったく」
『やっぱり鈴香ちゃん紹介してくれよ~』
「……切っていいですか?」
悪霊に体を乗っ取られていた比賀先輩は、しばらく入院生活を送っていたが無事に退院し、今では社会人として働いている。
あの後、出会いを求めて合コンやサイトなどを利用しているが、ことごとくフラれまくっているらしい。彼には悪いが、そんな軽い男に妹はやらん!
しばらく他愛ない話をした後、電話を切る。
「お兄ちゃん!」
勢いよく俺の部屋の扉が開き、鈴香が顔を出す。その手にはカップラーメンの容器が握られている。
「またこんな時間にカップラーメン食べたでしょ!?どれだけ体に悪いか分かってるの!?」
それがノックもせず部屋に入ってきて開口一番に言うことかと思ったが、こうなると始末が悪い。
「悪い悪い、腹が減ってな。久々に食いたくなったんだ」
俺はあれから一人暮らしをやめ、家族四人で暮らしている。
鈴香の母親とはすぐに打ち解けられたし、父親とも腹を割って話すことができた。
こんなにすんなりと話が進んだのは、鈴香の存在が大きい。
俺の部屋だって、一人暮らしをしている間にも鈴香がいつも掃除をしてくれており、帰ってきてからも直ぐに使うことが出来た。
これに関してはとても感謝している。感謝しているのだが……。
「ダメだよ!私の目が黒いうちは、こんな猛毒を口にするのは許さないからね!」
「猛毒は流石にカップラーメンに失礼だろう……」
一人暮らしでなくなってから、健康的な食事の頻度が非常に増えた。
とても喜ばしいことなのだが、やはり一人暮らしの相棒であったカップラーメンを時々食べたくなるのは、無理もない話だ。
「エミルちゃんに、お兄ちゃんのこと任されたんだから、私がお兄ちゃんの健康を管理するよ」
「まったく、エミルも余計なことを……」
エミルの名前が飛び出して、思わず苦笑する。
「反省しないと、こんにゃく生野菜ごはんだからね」
「それだけはやめてくれ」
そんな聞いてるだけでノンカロリーとヘルシーを極限まで突き詰めたようなメニューにされたらたまったものではない。
平謝りして鈴香が部屋から出ていくのを確認すると、俺はおもむろに立ち上がり、机の引き出しを開ける。
エミルの封印された札。
夕凪に手渡された際、何度も口酸っぱく説明されたのを思い出す。
悪霊が復活してしまうから無闇に引き剥がしたり破ったりしてはいけないとか、しっかりと管理しておくことなど。
それならお前が保管してくれと言ったら、「それは約束を破ることになるから駄目」と返されるのだ。
「復活するなら、それはそれで面白いかもな」
まさに、そんな言葉を口にした瞬間だった。
びゅぅううっ!
いつの間にか空いていた部屋の窓から、勢いよく風が吹き出す。
「あっ……しまっ……!?」
引き出しに貼っていた札が音を立てて引き剥がされ、風に乗って窓から飛ばされて行った。
「やっちまった……! 」
あまりにいきなりの突風に、唖然として立ち尽くしていると、後ろから妙な気配がした。
すぐ振り返ると、くっきりと耳に残っており、懐かしく、どこか温かい声が耳に届いた。
「人間は本当に、愚かじゃのぅ」




