いかに手間を掛けないかが腕の見せ所。
現金なもので、畑から帰って来たトクサさんに揺り起こされるまでわたしは眠っていたようで(きっと抱いているぬくもりのせい、きっと)、辺りは夕暮れの茜色に染まっていた。こちらの世界に来たのはどうも昼過ぎくらいだったみたい。向こうとは半日分くらいの時差?
一度寝て起きたためか、もう昨日のことのように感じる。
それにしても、腕の中で未だにぬくぬくと寝こけているこの生き物を一体どうしよう。
「へぇ、こっちに来たばかりなのに随分とせっかちなのに好かれているねぇ。あぁあんたはもう15なんだっけねぇ」
わたしが起きて、腕の中にいる犬っぽいのを見てトクサさんが独りごちた。
「え?トクサさんこれ何か知ってるんですか?」
「ん?何って、マモノだろう?」
「!!マッ、魔物!?」
わたしはその響きから某RPGに出て来たり、マンガによく描かれる人を襲うようなものを連想した。
・・・・・・・。
うん。どっから観てもただの(小さすぎる)仔犬?だ。もしこれが仮の姿だったらアウトだけど。
「知ってる・・・・・風じゃないねぇ?そうだった、カオリの居たとこは魔力無いんだったねぇ。なに、魔力を持ってる生き物のことをマモノって言うのさ。魔力を持ってる“人”も広い意味ではマモノさね」
「ただの仔犬?にしか見えない・・・・。あの、人を襲うとかは・・・・?」
「そういうことも、まあ、無いわけじゃないけど、大抵は言葉が通じるから話せばわかってくれるさ。そこいらにいる生き物が突然変異的に魔力を持っただけなんだから。だからって突然凶暴に為るなんてこともないさね。それだと魔力を持つあたしらみたいなのも凶暴に為ってる理屈になるしねぇ。魔力持ってないのも普通にいるからねぇ」
よ、よかった!
「小説みたいな世界じゃなくてよかった!戦ったりとか絶対にムリ・・・・・・・・!」
「あぁ、うん、まぁ、そんときはそんときさね」
「え?!」
「世界の全部が友好的な訳じゃない、だろう?やるときゃやんないと、ねぇ?」
ト、トクサさんがなんかただならぬ雰囲気を出したかと思った、ら、両目を瞑ってしまうウィンクをした。
うっ・・・・。トクサさんごめんね!それちょっと微妙・・・・!
「やだね、祭りの話だよ?カオリもいずれ参加するだろう、ねぇ?」
ねぇ?と言われましても、何か分かんないし・・・・・・。
妙な雰囲気になったけど、トクサさんの家に入り、夕御飯のお手伝いをすることになった。仔犬?はトクサさんが床にクッションを置いてくれたので、今はクッションの上で寝てる。眠りすぎな気もする。
腕が解放されたわけだけど、料理するのが好きでも器用でもないわたしは、ジャガイモ?(形はジャガイモなのにオレンジ色をしている)の皮を剥くだけで一苦労。あとナイフで剥くのはむつかしいです、トクサさん。え、皮むきは買ってない?えぇーーー。
料理しながら、トクサさんがマモノの話をしてくれる。
「時々有るんだよ、マモノに懐かれるの。あたしも蝶のマモノに懐かれてねぇ、たまーにやってきて魔力をあげるんだけど、それが済むとすぐにどっか行っちまうのさ。懐かれてもあれはまんま野生だよ。そこにいるは、・・・・・あたしにもよく分かんないねぇ」
物知りっぽかったのにトクサさんもよく知らなかった。
「マモノって本当にただの生き物なんですね・・・・・・・・・。こっちでも犬っていうのかな?わたしのいたところではこれ“柴犬”って言うのに近いと思うんです」
「へぇ、こっちにも犬はいるけど、あたしには小さすぎて種類なんてわかんないねぇ。まぁ起きるのを待つしかないよ」
話しながらもトクサさんの手は止まらない。わたしの剥いたジャガイモ?と他の野菜とか(緑色したニンジン?、クリーム色したもの、普通にソーセージなど)を切って鍋にいれている。
気付いたらポトフのような煮込み料理が完成していた。
あれ?いつ煮込んだんですかトクサさん。え?鍋が煮込み料理用?魔法の鍋??!何それ、入れるだけとか、最新家電じゃん!!ちなみにトクサさんは「気に入ったならよかった。ところで家電ってなんだい?」とちょっぴり引き気味でした・・・・。
料理ができあがって、そんな話で盛り上がっていたら、トクサさんの旦那さんが帰って来た。
次回、トクサさんの旦那登場。