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畑(旦那も)大好きトクサさん。

遭遇その1。(女神除く。)

 



 さわさわと気持ちのいい風が吹いて畑?の植物を揺らしているけど、呆然とただ驚くしかないわたしには何も認識できてなかった。気付いたときには目の前に大きな籠を浮かせたおばさんが立ってた。

 「おーい、聞こえてないのかねぇ?こっちに来れたってことは言葉は通じるはずなんだけどねぇ」

 「おーい」


 後で聞いた話では、「呼びかけてんのに気付いてくれたのは目の前に立って10分もしてからだったねぇ」とか言われて。・・・・。うん、しょうが無い。びっくりっていうか、ドッキリって言うか。思考停止。ついでに心臓も止まりそうだった。

 そういうわけで気付いたときには目の前に人がいたわけで、「うぇ!?このおばさんどっから湧いて出たの!?」と失礼なことを思った自分は悪くないと思う。びっくりしすぎて声が出なくてよかった。

 「あぁ、やっと目が合ったねぇ。びっくりしただろう?女神様は人の話なんて聞いちゃくれないしねぇ。あたしはここで旦那と一緒に綿花を育ててるトクサってもんだよ」

 「あ・・・え・・・・・?」

 もちろん話しかけられても会話なんかできなかったし、言われたことを理解するだけで精一杯だった。えーと、女神さま?トク、サ?さん?

 「うーん、そうなるよねぇ、先にこっちを片付けないと畑どころじゃないねぇ。おいで、ちょっとお茶でも飲んで落ち着きな。あたしのうちはすぐそこだから。落ち着いたら少し話しをさせておくれね」

 トクサと名乗ったこのおばさんが、とても気遣わしげにわたしを見ていて、何とかこっくりと頷きで返した。

 「うんうん。大丈夫。取って食いやしないよ、あたしのうちはすぐそこだからねぇ」

 そう言ってトクサさんは歩き出したんだけど、頭が働きだした途端、他の事が気になりはじめた。なんで、籠が浮いてるの?

 「あの・・・・・、聞いてもいいですか?」

 「おや、いいともさ!なんだい?」

 「籠が・・・・・、浮いてるんですが」

 「あぁ、あんたのいたとこではこう言う力を持ったのはいなかったのかねぇ?あたしたちは魔力って呼んでるけど、生まれつきこう言う事が出来たみたいだから、あんまり詳しくはないんだけどねぇ。魔力が高いと王都とかで勉強して、魔法使いってのになる連中もいるねぇ。そういうのは王宮勤めしたり、なんか研究?とかするらしいねぇ」

 「トクサさんは・・・・魔法使いじゃないんですか?」

 「あはは、そんな大層なもんじゃないよ。あたしはこの畑と旦那一筋さ。ちょっと物を浮かせられるくらいだし、頭を遣うのは得意なほうじゃないしねぇ」

 籠をふらふらと動かしてみせながら、なんだか誇らしげにトクサさんは笑った。話してるときに服の色が揺らめいたような、何だろ?見間違えかな?

 「ほら、ここがあたしのうちさ」

 畑の植物は背丈くらいあったからわからなかったけど、ホントにすぐ着いてしまった。トクサさんの家はレンガ造りで、テレビでみたヨーロッパの家に似ていた。

 籠を玄関の横に置いたトクサさんは入ってすぐのテーブルに案内してくれて「座っててねぇ」と言って、少し離れたとこでお茶を淹れはじめた。この部屋はキッチンと一緒になってるみたいでダイニングも兼ねてるらしい。イスに座りつつキョロキョロと視線がさまよう。


 ああぁ入学式は完全に遅刻・・・・、そもそもカバンが消えた。それより戻れるのかな・・・。んん?()()()??


 「ほい、熱いから気をつけてねぇ」

 そう言って、トクサさんはハーブティーっぽいお茶とクッキーをテーブルにおいて向かいのイスに座って、お茶を飲み出した。

 「あ、・・・ありがとうございます。いただ・・・きます」

 つっかえながらもお礼をいい、不穏な考えを頭の奥に押し込んで一口お茶を飲んでみる。緑茶みたいな色なのに、レモンみたいな香りがしてる。飲んでみるとほんのり甘かった。

 「これはレーモってハーブのお茶でねぇ、仕事上がりによく飲むのさ」

 「・・・・・・・・・おいしいです・・・」

 クッキーも同じ味がした。

 トクサさんはわたしがお茶を飲み終えるまで待っていてくれた。

 「だいぶ落ち着いたかねぇ?」

 「はい・・・ごちそうさまです・・・」

 「まずは名前と年かねぇ、あんたのことはなんて呼んだらいいかね?」

 「あ・・・。カオリです、渡辺カオリ、15歳です・・・。」

 「そうかい、カオリと言うんだねぇ。それにしても15か・・・。いやね、大体こっちに来るのは5歳前後が多いんだけどねぇ。あんたどっかに隠れ棲んでたりでもしてたかい?」

 ・・・・・・・・・。

 冤罪だ!ちょっと影が薄くてかくれんぼが得意な花の女子高生(予定)なのに!!・・・・。嘘です、いじめっ子から逃げ隠れしてるうちに普通に見つけてもらえないように・・・・。あだ名はくノ一。ぐす、うぅ。

 「な、なんだい?大丈夫かい、そんなに辛い生活をしてたのかい?よしよし、こっちで新しくやっていくんだから、そんなの忘れちまいな!大丈夫だよ、ほら」

 突然泣き出したわたしにびっくりしたトクサさんは、隣に来てやさしく背中をさすってくれた。けど、トクサさんの言葉に涙も引っ込み、確信する。

 「ここって、・・・・、わたしは違う世界に居るの?魔力なんて、そんなのゲームや小説の中にしかなかった・・・」

 「そうだね。カオリ、正しくは魂のあるべき世界へ還ってきたってところだろうね」

 「たましい・・・・?」

 「難しいことは省くけど、元々あんたはこっちの世界が本来の居場所だったのさ。まぁ時々他の世界へ迷い出る魂がいるから女神さまが探して下さってるらしいんだけどね。そうしないと、何だったかねぇ?忘れちまったけど、特にこの国では番を大事にしてるからねぇ。女神さまは離れ離れの番を想って、カオリを連れてきてくれたのかねぇ」

 「そんな・・・・・・・女神さま?もしかして・・・・さっきのお酒くさいおねーさん?それに、番って・・・・・何のことですか?」

 「夫婦や伴侶、恋人とかまぁそこら辺のことなんだけどねぇ。この国の場合は、付き合うのも愛するのも添い遂げるのも番が唯一で、換えのきかないモノなのさ。

 他の国では離婚やら一夫多妻制とか色々あるらしいけどねぇ、この国の場合は恐ろしく自制の利く奴らが多いってことだろうかね?まぁ、番以外興味ないってのが普通さね」

 なんか、昔みた図鑑か何かで読んだような。鳥とかのこと?え、でも人のことだよね?

 「はあ・・・・。とりあえず夫婦のことですよね?」

 「うんうん。この国で暮らすんならだんだん覚えて行けば大丈夫さぁ」

 「それで、えと。元の、地球に・・・日本に帰ることは・・・・・」

 「残念だけどねぇ、あんたはこっちに戻ってきちまったんだ。また向こうへ行ったっていうのは聞いたことがないねぇ」

 「そ、そんな・・・・!」

 眉を下げてトクサさんは気の毒そうにわたしをみている。

 「む、向こうに家族が・・・・!もう会えないの?!そんな!!!」

 混乱したわたしは叫んだあと黙り込んだ。戻れない、会えない、この地球ではない世界でこれから生きていく・・・・?異世界物の小説は読んだことはあったけど、まさか自分の身に起こるとは。想定外すぎる。貧血で倒れたことないし、気絶も出来ない。今更だがほっぺを引っ張ってみる。のびーん、・・・・・・。よくのびるほっぺだこと!

 

 そんな絶賛現実逃避中のわたしを見ていたトクサさんは「うーん、こりゃしばらく時間かかるねぇ」と呟いて、

 「ちょっと、カオリ、あんまり思い詰めるんじゃないよ。あとはうちの旦那が帰ってきてからにしよう。あたしゃ畑があるからねぇ、暗くなる前には戻ってくるからここに居ておくれねぇ」

 

 ・・・・・・・!!

 えぇッ?!放置?!放置なの??!

 

 思いっきり顔に出たけど、トクサさんは行ってしまいました・・・・・。

カオリはいじめっ子に追いかけられたとき、無意識に隠蔽と潜伏の効果を持つ魔法を発動しました。そんなことを繰り返すうちに、女神さまも見つけられないほどマジな魔法となりました。

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