俺様皇子とお昼ご飯
「コルティナ、お昼ご飯を食べに行きましょうよ。」
陽の光を受けて白金に輝く長く綺麗な髪はどこまでも艶やかで、女神のように美しい顔を綻ばせて彼女は私に笑いかけた。今日も今日とて彼女からは甘すぎず、けれどもとても良い香りがする。
「今日もフィオナが最高に可愛い!好き!」
ありのままの感想が口から溢れでる。だって可愛い。フィオナは最高に可愛い。だって見て。私ごときの褒め言葉で顔真っ赤に染めて照れるんだよ?可愛いの極みでしょ!変な意味じゃないけど好き!
「あ」
ふと昨日の最悪な出来事を思い出した。
そうだ。あの俺様皇子の友人(下僕)にされてしまった私は、フィオナとあいつをくっつけなきゃいけない。え、やだ。こんな可愛いフィオナはあいつにはもったいない。確かにフィオナは華族のお嬢様だし身分的には合ってるかもだけど、私はやだ。結婚とか許せない。あいつとフィオナの結婚の手伝いとかしたくないよー!
「ねえねえ、コルティナ。あれ皇子様かしら?」
「は?」
あの俺様皇子がわざわざ1つ年下の教室まで来ないでしょ。理由なくない?
……あるわ。理由めっちゃあるわ。フィオナしかないじゃない。
フィオナの綺麗なラインを描く横顔を見る。こんな綺麗で素敵な友達を狙うとか流石皇子、悔しいけどお目が高いわ。
打ちひしがれつつ、フィオナが見ている方向に目を向けると優雅に笑っている見た目からして皇子様なハヴィエル皇子がいた。
「こちらの方に手を振ってるけれど、殿下とお知り合いなの?」
フィオナの純粋な質問に上手く答えられず私は目線を斜め下に向け、苦笑する。皇子様の友人(下僕)ですー!とかフィオナを狙ってるんだよ!気をつけて!とか言えないしね。はあ。
「コルティ、良かったらお昼ご飯を食べないか?お弁当を作ってもらったのだけど。」
いつの間に移動したのか目の前で皇子様が私に優しく誘いを口にする。
昨日の俺様皇子と全然態度が違うので貴方はだあれ?と問いかけたくなるけれど、グッとこらえた。
「あ、あの」
フィオナとご飯食べたいし、皇子様と一緒にご飯とか喉通らないので断ろうと思って口を開いた瞬間、視界の半分が急に暗くなった。
「黙って頷け。昨日そう約束しただろう?」
息を吐くように耳元で囁かれる。少し甘さを含んだそれに身体中がぞわりと反応した。イケメンの囁き声ってすごい。腰砕けになるとこだった。
声を出せる気がしなくて必死に頭を動かして頷く。
「肩にゴミついていたので取らせて貰いました。突然すみません。」
口では丁寧に話しながらも、皇子の瞳は雄弁に物語る。わかりゃ良いんだよ、と。
「そ、それはありがとうございます!」
「いえいえ。では、行きましょうか。」
「えっ!?」
皇子は流れるような動作で自然に私の手を掴んだ。意味がわからない。私の手を掴む意味がわからない。皇子、周りの女子がきゃーって悲鳴あげてます。みんな皇子狙ってたもんね!私明日から絶対虐められるわ。
というか、そういう女の子を口説くような思わせぶりな態度は友人(下僕)じゃなくて皇子の麗しの想い人のフィオナにした方が良いんじゃないですかね?
「フィオナ、ごめん、今日は付き合えない!」
ズンズンと淀みなく歩く皇子に引っ張られながら、フィオナになんとか一緒に食べられない旨を伝える。わかったわというように微笑んで手を振るフィオナはやっぱり可愛い。でもお願い、見送るんじゃなくて引き止めて欲しい切実に。
こうして私は王子様にドナドナされてしまったのである。
さて、皇子に連れられてついた先は家庭科室。
昨日の現場ですねわかります。
扉を開け、ポイっと私を押し込んで皇子は無慈悲に鍵を閉めた。
そして手に持っていたバスケットを机に置く。中身は大きい2段のお弁当箱と水筒に小さな紙の箱。
ただ呼び出されてフィオナの話させられたりとか紹介する手筈でも打ち合わせするだけで昼ご飯は食べられないのかと思ったけれど、皇子様はありがたいことに昼ごはんを食べさせてくれるらしい。意外と優しいんですね。ちょっと見直した。ちょっとだけだけど。
「食え。」
大きなお弁当を開きながら俺様皇子が言った。
中身はサンドイッチ!真四角に切られた様々な種類のサンドイッチが綺麗に詰められている。たまご、分厚いチキン、ハムチーズ、スモークサーモン、それにフルーツサンド!!どれも美味しそうで頭からすっと遠慮の一文字が消える。
「頂きます!」
「ああ、味わって食えよ。」
「はい!」
まずは分厚いチキン!砂糖と醤油で上品に味付けされたチキンときゅうりやトマトの野菜をマヨネーズが上手く包み込んでいて、すごく美味しい!はー幸せ!もきゅもきゅと無心でサンドイッチを食べていると、目の前にコップが差し出される。御礼を言って1口飲むと、フルーツの爽やかで甘い香りと共に冷たくて程よい甘さの紅茶が口いっぱいに広がった。
「フルーツティー!」
皇子は少しだけ嬉しそうな眼をして、喉詰まらせるなよと言った。
がっついてサンドイッチを食べていたことが恥ずかしくなり、ゆっくりといつものペースでサンドイッチを食べていく。
どれ食べても美味しいすごい。皇子様ってこんな美味しいもの食べてるんですね!
ふと皇子を見ると全然食べてる様子がない。ただ私の方をじっと見ているだけ。変なの。
「食べないんですか?」
「あ?ああ、食べるに決まってるだろう。」
そう言って皇子はたまごのサンドイッチを手に取る。
大きな口をガバりと開けてサンドにかぶりつく彼は、皇子様ではなくてただのハヴィエルという1人の人間という感じがした。そうだよね、皇子様だって本当はただの人間なんだから。
「さっき私のとこまで来たんでしたら、隣にフィオナがいたので紹介すればよかったですね。」
お口休めとしてフルーツサンドを楽しんでいた私は皇子に話しかけた。このフルーツサンドはサワークリーム入りで爽やかな酸味が効いてる!美味しい!
「そう言えばそうだな。」
いやいやいや、皇子おかしいでしょ。好きな相手がいるんだからもっと積極的に行かないと。それともアレなの?実はすっごくお腹すいてて、ご飯のことしか考えられなかったの?
「まあ、私も気づかなかったんでどうしようもないですけど…。」
皇子はそうだなと頷いてフルーツティーを飲んだ。
このフルーツティー、桃とかイチゴとかが実際に大きく切られた果実が入っててすごく美味しい。贅沢な飲み物だ。このフルーツ食べて良いのかな。
ちらりと皇子を見ると大きなお弁当箱にいつのまにか置かれていたフォークで刺して食べていた。食べて良いのか!食べよう。
「彼女は何が好きなんだ?」
「そうですね。フィオナは甘いもの、特にケーキが大好きです」
「ケーキか…」
皇子は顎に手をくっつけなにかを考え始めたようだ。
そんな皇子を見やりつつ、フルーツを掬って口に入れる。紅茶の風味がしたフルーツはいつもと違う感じで美味しい。いちごの酸味もまろやかになって紅茶の風味と本来の甘さが際立っていた。
「明日の放課後、2人でここに来られるか?」
「明日ですか?うーん、聞いてみないとですけど、多分大丈夫だと思います。」
「無理ならここに連絡しろ。アレルギーや嫌いなものも送れ。」
そう言って端末で連絡先を登録するコードを空中に表示させる。
え、やばい。皇子と連絡先交換するとは思わなかった。内心ビビりまくってると、胸元のポケットに入れた私の端末がするりと抜かれ机に置かれる。
そして顎でその端末を示した。
はい、連絡先を交換させて頂きますとも!!
私も端末を操作して皇子様の貴重な連絡先を登録し、私の連絡先コードを表示する。
皇子はフッと少し笑って私の連絡先を登録した。
なんだったんだろう、このお昼の時間は。
予想外のことばかり起きた結果、私はそれを忘れるように残っているサンドイッチを無心に食べた。
明日の放課後も美味しいものが食べられたりするといいなー!
読んで頂きどうもありがとうございます!
誤字脱字などありましたら教えていただけますと幸いです。