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第96話 神様達の憂い

ハッピーハロウィン! 気候的には怪しいですが、カレンダー的には秋と言い張れるうちに始めることができました、秋の大陸編です。

と言いつつ今回はいわゆる幕間の話なので、ちょっぴり短めです。

 夢心達がフィルゼイトに降り立った時、最初に訪れた名も無き神殿。人がほとんど訪れず気候が穏やかなこの場所は、たびたび四神が集まり語らう場となっていた。

 桜並木が一望できる場所に設置された真っ白なテーブルには椅子が4脚。しかし、埋まっているのは3つだけで、今まさにもう1つ椅子が空こうとしていた。


「あらディヴォン、ゆっくりしていけばいいのに」

「必要な情報は交換し合った。俺は戻る」

「連れないな~、もちょっとティータイムを楽しんでいこうぜ?」


 トゥーリーンとディザンマの引き止めも虚しく、立ち上がったディヴォンは椅子を戻して飛び去っていった。


「ごめんなー、何千年も変わらずあの調子で」

「貴方のせいではないわディザンマ、わざわざ出向いてもらって有難いくらいよ。あんな言い方をしていても、きちんと片づけはしていますし」


 ぶっきらぼうだが最低限の礼儀は弁える、不器用な弟分が去っていった方向を見て「それはそうなんだけどなあ」と苦笑するディザンマ。

 同じ方向を向いて微笑んだ後、トゥーリーンは「それにしても」と表情を硬くした。


「ヘラビスはどうしたのでしょう。連絡も無しに欠席するなんて」

「珍しいよな~。言葉数は少ないけど、あいつこそ連絡とかしっかりするタイプなのに」

「忙しいだけなら良いのだけれど……」

「助けが欲しかったらそれこそ何か言ってくるだろ。こっちから行こうとすると嫌がるからな、もうちょい様子見とこうぜ」


 人や魔物とも積極的に関わるトゥーリーンとディザンマ。それとは対照的に、ヘラビスとディヴォンは自分の大陸の神殿にすらあまり姿を現さず、基本的に静観の立場を取っていた。

 人に危機が迫ったときに手を差し伸べる基準も厳しい。しびれを切らしたトゥーリーンが介入しようとして逆鱗に触れる、などということも昔はあった。

 そのため今は定期的に情報を交換し、それ以外は要請が無い限り互いの大陸の事情には関わらない、という決まりを作っていた。


 そのような経緯から気にする必要は無いと判断したディザンマは大きな欠伸をした。神官に見張られていない場所では、思い切り気を抜いていた。

 トゥーリーンも頷いて茶を一口含んだが、憂いが晴れず小さなため息を一つついた。


 初めから空いていた椅子に桜の花びらが一枚落ちる。それはすぐに、強い風に吹かれて飛び去った。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 同じ頃、同じように小さなため息をつく概念の化身コンゼツォンが別の場所にもうひとり。

 『この世』の概念の化身コンゼツォン、ヴェルテはトゥーリーンよりも深刻な顔つきで頬杖をついていた。


「しっかりしてください。貴方が不安を見せれば概念の化身コンゼツォン達の士気に関わります」

「誰も居ないのだから良いじゃない。私もため息くらいつきたくなるわよ」


 ヴェルテの傍にいたのは、黒縁メガネをかけた緑色のドラゴン。分厚い本を、折れてしまいそうなくらい細い前足で抱えている。

 体に対してこれまた小さい翼と尻尾を、物言いたげにゆらゆら揺らした。


「僕がいるのはカウントされないんですね」

「『記憶』ちゃんに隠し事って、これほど無意味なことも無いわ」

「見境なく覗いたりしませんよ」

「分かっているわ」


 緑のドラゴンの少し怒った素振りを見て、ヴェルテは優しく言葉を紡いだ。


「ブラックホールの行方は掴めず、対策も立てられず。『虚無』ちゃんの所に現れないのは幸いだけれど、静かすぎて不気味だわ」


 ハイルンとの交信をした頃を最後に、ブラックホールは姿を見せなくなった。

 ヴェルテが出現地点を含めて様々な世界を訪問してみたものの、収穫はゼロ。

 吸い込まれてしまった概念の化身コンゼツォンも戻ってこないため、あれに触れたら終わりと考えるべきだ。対応としては「近づかない」ことしかないのだが、そうなるとまともに戦闘も封印も出来ない。

 結果として足踏み状態が続いていた。


「あんまり早く見つかっても、封印の手立てが無いから困るのだけれどね」

「封印隊は『看護シエ』が診てくれています、すぐに良くなりますよ」


 封印隊は別の概念の化身コンゼツォンと交戦し、大きな打撃を受けていた。

 敵にもしばらくは動けない程のダメージを負わせてはいるが、課題に課題が積み重なり世界の化身でも頭を悩ませる状況になっていた。


「ゲドニス、そちらの首尾はどうかしら」

「順調、とは言えませんが。なんとか構築できそうです」

「良かった、私の手が必要なことも覚悟してたから……そうなったらいよいよ忙殺されそうだけれど」

「リーダーの手を煩わせはしません。特殊な事例ですが、あの呪いは解いてみせます」


 夢心の記憶を削り、命の危険にすら晒している呪い。それに関わる仕事を請け負っているのがこの緑のドラゴン、記憶の概念の化身コンゼツォンゲドニスだ。


 呪いは解除する方向で話が進んでいたが、元々解くことを想定していない強力な呪いだったため、こちらの作業も難航していた。


「お願いね、早くハイルンやアオーグを安心させてあげたいし」

「勿論です、完成し次第すぐに向かいます」


 今のところ夢心の容態は変わっていない。それなら知らせずに解決方法をいきなり持っていき驚かせてやろう、とヴェルテは考えていた。


「記録庫に入った時のことはちゃんと消して、ね?」

「当たり前です、そのための呪いですから」


 ゲドニスは一礼してその場を去る。


「あの場所を見られたことだけは、絶対に思い出させてはいけませんから……絶対に」

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