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第94話 結果発表とその裏で

 全ての発表が終了し、いよいよ順位発表の時間がやってきた。観客による投票の結果は……


「第1位、『氷像アニメ~フライミヨルのだまし蛙~』!」


 なかなか名前が呼ばれず一心に祈っていたあたし達は、このアナウンスを聞いて一斉に飛び上がった。


「やった、優勝だよ!」

「はい! やりました!」

「わーいわーい!」


 三者三様に喜ぶあたし達へ、ステージ発表が終わったときに勝るとも劣らない、盛大な拍手が送られた。


 ステージ発表のまとめ役である、よく知らない先生から賞品の入った無駄に大きな袋を受け取る。観客へ向けてアピールしろと目で合図されたので、袋を持ち上げて三度拍手を受けた。


 ちなみに賞品は、文化祭のスポンサーをしてくれた街の各商店の優待券だ。ティランネ商会やスタープ魔法用具店など見知った店も含めでかなりの数がある。

 ちょっとだけ賞金を期待してたけど、クラスの出し物の売り上げも没収されるのにここだけ贔屓されるようなことは無いか。


 順位発表が終わり、ようやくホールに完全に明かりが戻る。観客は荷物をまとめて、少しずつ外に流れ始めた。


 さて、リール達との勝負はあたしの勝ちだ。存分にマウントを取らせてもらおう。

 そう思って姿を探し見つけたが、何か様子がおかしい。

 声をかけずに更に接近すると、リサが深刻な顔をしているのをハルヒとリールが慰めているのが見えた。


「ぼくは楽しかったよ。でもぼくが上手じゃなかったせいだよね、リサ、泣かないで」

「……悔しいのです……3位だなんて。ムク達やあのダンスチームのように、もっと派手なことをやるべきでしたか」


 危なかった、想像以上に3人共落ち込んでいた。改めてかける言葉を探していると、賓客席の男性が立ち上がりこちらへ声をかけてきた。


「そんな必要は無いと思うよ」


 涙を堪えながら険しい表情で反省しているリサの肩に、男性が手を置く。誰だか知らないが偉い人なのだろう、自然と周りの生徒の背筋が伸びた。


「植物を繊細に操る技術は大したものだ。それに交友関係も素晴らしいな、ドラゴンの概念の化身コンゼツォンが二人も協力してくれるとは。私は君達の発表が一番心に残ったよ」

「そうそう、2位のチームは派手さで一般客の票を勝ち取ったようですけれど、貴方達の演奏にも目を見張るものがありましたわ」

「あ、ありがとうございます!」


 隣の客にも褒められたことで、あっという間に元気が戻るリサ。お客さんからの感想ってパワーを貰えるよね。

 その様子を微笑ましく見ていると、突然あたしの視界が何人もの大人達に塞がれた。


「貴方が四神様の氷像を作った生徒さんかしら!?」

「あの大きさの物を一度で作り出すだけでなく、形を変えることも出来るなんて」

「最後の演出も素晴らしかったよ」


 いつの間にか、お偉いさんと思しき人達にわらわらと群がられ囲まれてしまった。褒められるのは嬉しいけど、いっぺんに来られると困るな!?

 混乱したあたしは1つだけ訂正をしてその場を逃れようとした。


「光の演出はファイクちゃん、この子が考えてくれたんです!」


 その言葉に大人達の目が光り、半分ほどの注目がファイクちゃんに向かう。


「君のアイデアか、あれは幻想的で心を奪われてしまったよ。今後とも是非、魔法の力を磨いてくれたまえ。将来的にその力を活かすというなら手を貸すことも出来るよ」

「え、あ、あの……私はアインホルンと仕事ができれば……。光は夜道を照らすのに便利ですが、あまり魔法をメインにしようとは考えてなくて、だって3級ですし……」


 よし、大人達の矛先を分けることはできた。でも相変わらずあたしにも質問が飛んでくる。

 それならシュロムにも話を振ってやろうと探してみるが、近くにいたはずの姿が見当たらない。


「二人共頑張って。僕は先に教室に戻ってるね」

「シュロム!? 普段は騒ぐのにこういう時だけ逃げるんだから!」


 いざという時は安全志向のシュロム、人混みに紛れてさっさとホールを出ていってしまった。出世とかに興味無いって言ってたもんね、にしたって逃げ足が速すぎる。

 あたし達はしばらく、この好奇心の波に揉まれることになった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 大ホールでまだステージ発表が行われている頃、その建物の横に一人の男が身を潜めるように佇んでいた。フードを目深に被り、周囲に人の目がないことをしきりに確認している。


 大ホールへは校舎内の通路からしか入ることができない。しかし入口探しに迷っている様子ではなく、そもそも祭りを楽しみに来ている恰好では無かった。


 男は持っていた袋から両手で抱える程の装置を取り出した。一度呼吸を整えてから、それを建物の外壁に取り付けようとして────


「花火会場なら向こうの運動場だぞ?」


 冷ややかな女の声と、いつの間にか首筋に添えられていた木剣に気が付いて、男は手を止めざるを得なかった。


「知ってるよ。だが、もっと派手なのを先に打ち上げてやる」

「どこの差し金だ?」

「言うと思うか? まあ、あの蛙を退けたんだ、分かっているんだろうな」

「確証が欲しいからな、証言が欲しいのだが……」


 相手が言葉を言い終わる前に、男は不意打ちの風魔法を放った。

 女はすんでのところで後ろに飛んで回避し、更に一歩下がった所でため息をついた。


「仕方ないか。捕らえて後から聞くとしよう」

「そうは行くか!」


 装置を地面に置き、態勢を整えた男は風の刃を乱れ打つ。

 高速で放たれるそれを、女は鮮やかな身のこなしで全て避けていく。


「雷絶……いや、抜き身にするまでもないな」


 女は攻撃をかいくぐりながら木剣を振り上げ、そこに雷を纏わせた。

 男は正面にバリアを展開して防ごうとするが、剣はそれをあっけなく切り裂き男の持っていた杖まで真っ二つにする。返しの切り上げが男の首に当たり、男はよろめき倒れた。


「ぐ……な、何故だ」

「やはり雷耐性は持っていたか、麻痺はしていないようだな。だが障壁といえば、その道のプロがここにはいる。作ることに精通すれば、壊し方も分かる。剣が届くならこっちのものだ」

「……まだだ。こんな事ではあの方は諦めないぞ」

「今度仕掛けてくるならば、もっと骨のあるやつを頼みたいものだ」


 木剣で雑に頭を殴られ、今度こそ男は気絶した。

 安全になったのを見計らったように、女のポケットから『目玉』が顔を出した。


「お疲れ様~、とりあえず『見つけた』のはこれで全員だよ。全く、お偉いさんが沢山集まってる所を狙うなんて物騒だね~」

「雑魚ばかりだが数だけは多かったな」

「いやあ、この人の魔法の種ケルンだって2級だから相当強いんだけどねー?」

「耐性を付けて有利になっているからと油断するのは良くないな」


 倒した男を言葉でもバッサリと切り捨てる女に対し、『目玉』はうんうんと頷きながら言葉を続けた。


「そうだねー、ワキュリー君も幻影蛙イールフロス退治の時は、魔物が雷弱点だからって油断してたもんね……ぐえっ」

「あれは予想外の事態で……言い訳になるか。ならば強い魔物にも一切後れをとらぬよう、剣の腕を鍛えていくとしよう」

「ごめんよー、謝るから握らないで……痛たたた」

「文化祭はまだ終わらない。最後までしっかり見回るぞ」

「そうしたいから集中させておくれよ~」


 一人と一匹の雑談は、ホールから漏れ出した歓声に紛れていった。

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