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第92話 いよいよ本番!

 観客たちの感想に耳を傾けてみると、「ドラゴンが出てきて驚いた」、「ゴーレムがあんなに繊細な動きをするなんて」など、演奏そのものよりインパクトのある演出に心を奪われた人が多い印象を受けた。

 リールの可愛さに触れる感想も聞こえてくる。あの魅力を沢山の人に発信できたのは嬉しい限りだ。


 3人が盛り上げた雰囲気を引き継いで、ステージ上では次々とパフォーマンスが披露されていく。

 魔法でレーザービームやスモークの効果をガンガン入れながら激しいダンスを踊ったり、魔物と一緒に曲芸をしたりと、噂に違わずレベルが高い。

 感動の涙でスッキリ緊張が晴れていたあたしは、その刺激でやる気もかなり高まってきた。


「よし、次だね。大丈夫、ちょっとくらい失敗しても良いから、楽しんでやろう」


 とはいえ、こんな方法でリラックスできたのはあたしだけ。

 二人は本番直前で更に表情が硬くなっていたので、肩をポンポンと優しく叩きながら声をかけた。


「は、はい」

「頑張るよ、リールに負けたくないもん」


 シュロムは大丈夫そうだけど、ファイクちゃんはまだ硬いな。

 でも、二人にも言った通り失敗したってテストじゃないからいいのだ。何かあったらフォローしてあげよう。


「8番、『氷像アニメ~フライミヨルのだまし蛙~』、どうぞ」

「よし、行くよ!」


 大きく深呼吸をして、ステージへの階段に足を踏み入れる。あたしは二人を先導して、二人が付いてくる音を聞きながら観客の前に立った。

 沢山の目線が一気に注がれる。一瞬たじろいだが、臆せず声を張り上げた。


「1年1組、仲河夢心です」

「同じく1組、シュロム・スタープです!」

「い、1年2組、ファイク・トレーガーです」


 自己紹介をすると、客席から「シュロムーーー! 頑張れよーーー! パパ応援してるからなーーー!」という雄たけびにも似た声援が飛んできた。

 早速シュロムの嫌な予感が当たってしまった。スタープさん、上演中はお静かに頼みます。


「皆さんもよくご存じの絵本『フライミヨルのだまし蛙』を、氷の像にアニメ……動く光で表現します。あ、パンフレットにもありますが2組の模擬店でペンライトを購入された方がいらっしゃいましたら、こちらのアナウンスに合わせて取り出して頂くと更に楽しめると思います」


 出し物の概要を説明してみるも、戸惑う反応が多い。プロジェクションマッピングはおろかアニメの文化が無いし、ペンライトだって初めて買った人が多いから使い方が良く分からないんだろうな。

 それでも、持ち物を探ってペンライトを確認する人がかなりいたのは嬉しい。宣伝しておいてよかった、これは盛り上がりそうだ。


 説明が済んだので一礼し、シュロムとファイクちゃんには反対側に設置してある蓄光器の元へ先に向かってもらう。


 あたしは杖を取り出し、ステージにギリギリ収まるくらいに巨大な氷塊を作り上げた。それを削って、四神様の形を掘り出していく。

 魔法を使い始めた時にお世話になった練習法だ、今となってはこの大きさでもあっという間に加工できるようになった。


 この作業だけで、拍手がちらほら聞こえてきた。まだまだこれからですよ?


 形が整ったら、二人の元へ瞬間移動。ホールの照明を落とし、代わりにファイクちゃんが魔法の光で手元を照らしてくれた。

 あたしは台本を左手に持ち、シュロムへ無言で合図。拡声の魔法をかけてもらうのと同時に、右手で蓄光器へ起動用の魔力を流した。


「昔々、人々が魔法の種ケルンに目覚めたばかりの頃。フライミヨルという街である事件が起きていました────」


 氷像全体に、絵本と同じ街の風景が映し出される。いくつもの人影が、街中を歩いている。

 シュロムが音楽プレーヤーにも拡声魔法をかけ、序盤の街らしい明るい曲を流し始めた。

 突然現れた絵本の世界に、観客が息を飲むのが分かった。よし、掴みはバッチリだ。


 その中央に、蛙の形をした緑色の影が映し出される。緑の影は数度跳ねて蛙アピールをした後人型に変化し、元々いた人影に突然殴りかかった。

 人影が緑の光を追いかけるも、途中でそれは消えてしまい、近くにいた別の人影が捕まってしまう。


 背景が消え、代わりに四神様に光が当たった。音楽の音量を絞って、神聖な雰囲気を演出する。

 浮かび上がった四神様の姿に、思わず手を合わせる観客すらいた。絵本の世界にバッチリ入り込んでくれたようだ。


「春の神様、トゥーリーン様は捕まっている人たちに話を聞きました」

「『知らない、自分はやってない。本当だ!』」


 男性のセリフはシュロムの担当だ。

 リールとじゃれていた時の演技力が申し分なく発揮されている。人影を動かさなくても、必死に弁明している様子が伝わってきた。


 困った仕草をする、桃色のトゥーリーンの影。すると黄色のディザンマの影がやる気を見せるようにこぶしを突き上げ、背景がまた街の風景になった。


 四神様が協力してだまし蛙を捕まえようとするシーンは、動きが多くて見せ場のひとつだ。BGMもそれに合わせて、ドタバタ悪者を追いかける雰囲気の物に変えた。


「待てー!」


 ぴょんぴょん跳ねて逃げ回るだまし蛙を、四神様が一生懸命に追いかける。


 オレンジ色をしたヘラビスの影から湧き出る幽霊っぽい光や、水色のディヴォンの影が放つ氷の魔法を表現する光はファイクちゃんの魔法だ。

 アキューム8号では微妙な色の違いを表現しきれないので、その辺は手動にならざるを得ない。大きな氷像のスクリーンにはっきり映るほどの光量を出すのは大変だろうに、しっかり光を届けてくれていた。


「蛙さん。どうか落ち着いて話を聞いて」

「うるさい! こうなったら神様だろうとやっつけてやる!」


 シュロムはセリフを叫んだ瞬間、大きく弧を描くように杖を振り上げた。

 ゴゴゴゴ……と地鳴りのような音がホールに響き渡る。それに伴って蛙の影が大きなドラゴンの姿に変化していった。


 ここからは一番の山場、四神様VSだまし蛙ドラゴン態のバトルだ。BGMはピアノの前奏が鳥肌物のラスボス曲、カメラワークもいろんな動きを加えた大作になった。

 それだけに付け足す光の効果も派手で多い。ここからは体力の関係であたしとファイクちゃんの役割交代だ。


「くらえええぇぇぇ!」


 ドラゴンは四神様の上に飛び上がると、ゴオオ! と火を噴いた。

 それに合わせて火の粉のエフェクトを最前列までまき散らすと、何人もの客が杖を取り出して防御の態勢を取っていた。音も派手で本物に見えるけど、偽物だから安心してください。


 本番の空気に当てられ役に入り込んだのか、シュロムの演技力が増していた。

 魔物の雄たけびとセリフの声質を変えている。ディザンマとディヴォンのうめき声も臨場感に溢れている。

 練習で何度も聞いてきたあたしすら聞き入ってしまう迫力だ。シュロム声優目指せるんじゃない?


「さあ! スクリーンの前……じゃなかったステージの前にいる皆さん! ペンライトを振って四神様を応援しましょう!」


 目の前で繰り広げられるリアルな戦闘に見惚れていた観客は、このアナウンスではっと我に返る。そしてペンライトを取り出し、四神様を応援し始めた。

 ペンライトを購入していない人も自分の杖先に光を灯して振ってくれて、一気にホール全体が光に包まれた。


 子ども向けの映画にある、入場前にペンライトを配りラストバトルでそれを振って応援させる手法だ。

 客は大人が多いが、大人だって気持ちが高ぶってくれば光り物の1つや2つ振りたくなるものだ。声援も大きくなってきて予想以上の熱気に包まれ、あたし達の演技にも気合が入る。


 「トゥーリーン様頑張って!」の声が圧倒的だが、他の神様を応援する人もちらほらいる。

光魔法が得意な人は、推し……いや、神様だから信仰宗教? と影絵の色を合わせているようだ。青色……ディヴォン色が絶滅危惧種だ。頑張れディヴォン。


「これでおしまいだ!」

「それはこちらのセリフです! 鎮まりなさい!」


 お互いの全力を込めた魔法がぶつかり合う! ドオオオオン!! と一際大きな爆発音を響かせて、スクリーンは暗転する。

 その結末は……………あれ?


 おかしい。次のシーンまで数秒しか暗転しないはず。起動魔力が足りなかったかと思い蓄光器に魔力を流してみても、映像の続きが流れてこない。


 嘘でしょ、こんなタイミングで故障したの!?

次の投稿は11日(金)予定です。今更ですが、そろそろ投稿間隔を縮めたい……。

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