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第85話 文化祭準備①

 シュプリアイゼン魔法学園は生徒全員が寮暮らしだけれど、休日に大々的に集まって文化祭の準備をすることが許されるのは本番一週間前からと決まっている。

 それ以前の休日は、個人や少人数で出来る作業をこなすことになる。


 そんなわけで、あたしは部屋に備え付けられた机に向かっていた。

 クラスで出すクッキーとフルーツジュースの材料を取り寄せる方法について悩んでいる。


 文化祭は5月の38日と39日の2日間にわたって開催される(40日は後片付けの日だ)。

 短い期間に大量生産するので仕入れを煩雑にしない、かつ誰でも作りやすいようにするために材料の種類は少なくする必要があった。


「それは良いんだ、卵と砂糖とバターと小麦粉で作れて、全部類似品はある。トッピングは普通のお店で買える量だけど、基本の4つはたくさん必要だから業者に頼むことになるのかな? にしたってどこへ? 果物はまた別だろうし……」


 フェアユング先生に相談しに行くべきだろうか。昨日はそれどころじゃなかったからなあ。


 色々悩んでいたところへ、ノックの音が耳に入る。やってきたのはファイクちゃんだった。


「こんにちは。もうお体は大丈夫ですか?」

「うん、寝かせてもらったから元気! って、もう午後のお世話の時間か!」


 幻影蛙イールフロスの討伐をしたことに気を遣ってくれたのか、今日の朝はファイクちゃんが一人でお世話をしてくれていた。

 事件現場になった小屋だって混乱して大変だっただろうに、なんて優しいんだ。


「そうだ! 昨日洞窟に行ったついでに、例の物を手に入れたんだよ」


 昨日会えたのは一瞬だったので渡し損ねていた、オヘーレ洞窟で拾った蓄光石をアイテムポーチから取り出してファイクちゃんに見せる。

 今は光を放ち終わって只の石に見えるが、ファイクちゃんは宝石を目の前にしたかのように見入っていた。


「こんなに沢山、しかも大きさが色々あって使いやすそう……。ありがとうございます! でも受け渡しは、ギルドを通した方がいいのでは?」

「あー、依頼を受ける前に手に入れちゃったんだよね。なんかごたごたしそうだから、後であたしから伝えておくよ」


 勿論こんな適当な口約束を覚えているはずもなく、ハフトリープさんにこってり絞られることになるのだが、それはまた別の話だ。


 ファイクちゃんの部屋に寄って、蓄光石を置いていく。そこからいつものように瞬間移動で魔物小屋へ。

 普段はここで誰かに会う事はないのだが、今日は先客がいた。小屋の入口に立っていた事務員さんが腰を抜かしながら、あたし達に杖を向けてきた。


「え、また何かあったんですか? 見ての通り今来たばかりですけど」

「ああ、君たちか。襲撃事件があったことで、しばらく見張りを置くことになったんだよ。人が突然現れたくらいで驚いてちゃいけないんだが、うーん。頑張らないとな」


 杖にはまっている魔法の種ケルンはファイクちゃんの物と似たような濁り具合なので3級くらいか。早々襲撃なんて無いとは思いたいが、幻影蛙イールフロスレベルの敵に遭遇した時に戦えるかは微妙なラインである。


「その時は私も協力しますから、安心するのです」

「リサ! こんな所で会うなんて珍しいね」


 入口にはもう一人、リサもいた。


「むしろ全く会えないことを不思議に思っていましたが、瞬間移動していたのですか……常々感じていますが、贅沢な魔法の使い方なのです」


 どうやらあたしの話を聞いたリサは、本当に嘆願書を書いて飼育係になったらしい。しかも薬草学の知識を評価されて、扱いの難しい植物をいくつも任されているとか。

 最近はステージ発表の関係もあり、あまり話が出来ていなかったから初耳だった。


「手入れの時間を厳密に管理している植物もあって、もともと他の人と時間はずれがちでしたが」

「お世話というか、そこまでくると研究レベルだね」


 荒らされた植物も、リサの得意な成長促進の魔法で元通りになったらしい。事務員さんが改めてお礼をしていた。

 相変わらず歳に見合わない働きぶりだなあ。


「しかし、こちらの忙しさを理由に文化祭の準備を疎かにすることはありません。どちらも完璧にこなしてみせるのです!」

「リサなら出来ると思ってる。それでもあたしは負けないよ!」


 熱い闘志をぶつけ合って、リサは寮の方へ戻っていった。あたしもファイクちゃんを待たせているので急いで小屋の中へ向かう。


 アインホルンの小屋へ入ると、一頭があたしの方に寄ってきて頭を下げた。

 昨日怪我をして、あたしが治療した子だ。


「お礼なんていいよ、元気になって良かった」


 後ろの2頭も、昨日と変わってとても落ち着いた様子だ。

 初めて触れ合った時はリアルに踏んだり蹴ったりされたけど、その分懐いてくれると嬉しくなる。


「よし! 張り切ってやりますか!」


 一日ぶりのお世話に気合を入れて挑む。結果、シャワーの勢いが強すぎてせっかく懐いてくれた子から飛び蹴りを喰らうのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後はステージ発表の準備へ。アニメの大筋は出来上がったので、シュロムの決めてくれたBGMと合わせて鑑賞会を行った。


「うーん、バトルのラストにこの曲か……」

「かっこいい曲だから入れてみたかったんだ! 駄目かな?」

「壮大な雰囲気は出るし、ボスに使われがちな曲だからコンセプトは合ってる。でもこう、もうちょっとテンポ早めの方が良くない?」

「そっかー。じゃあこっち?」


 意見を交わして、曲を差し替え流すタイミングを調整していく。


 ちなみに差し替える前の曲はテンポが遅いという理由もあるが、この曲が使われるボスは双剣だと効率悪いから大剣を背負って行ったな……という記憶が呼び起こされることもあった。

 思い出せること自体は嬉しいんだけどね。手数武器派だから、モーション遅いのは苦手なんだ。


 それとは別に効果音のタイミング合わせも行う。手が足りないならあたしもやろうかと考えていたが、シュロムが披露してくれた魔法の数々を聞くと、足手まといにしかならなさそうだった。


「凄いリアリティだね! 波しぶきの臨場感が半端じゃないよ」

「ディヴォン様の吹雪も、音を聞くだけで凍ってしまいそう」

「ムクさんが貸してくれた道具のおかげだよ、おかげでイメージがしやすかった!」


 ゲームのBGMには季節や気候を表現しているものも多い。それがイメージの手助けになったのだろう。雪国のフィールド曲って神曲多いよね。


 ともかく、これで発表の形は出来上がった。細かい修正や氷像への投影などやることはまだあるけれど、ひとまずゴールが見えてきて安心した。


「でもクラスの方がなあ。やっぱり先生に相談しにいこうかなあ」

「何か困っているんですか?」

「うん、お菓子とかジュースとか売るんだけどね、仕入先をどうすればいいか分からなくて」

「なるほど……それならギルドの伝手を使えないでしょうか?」

「おお、そっちか」


 確かに、先生達よりギルドの方が色んなお店に繋がりがあるイメージだ。


「正確に言えば、ナカガワさんが持っている伝手があると楽だと思います。ギルドのお仕事でお世話になった花屋さんから文化祭の飾りつけを融通してもらう、というのを飼育係の先輩が話していました」

「ああ、更にそっちか」


 自主性を重んじる行事だ、そこまで優しくしてくれるわけでは無かった。ちゃんと自分の顔を使えってことか。


 でも、あたしが仕事した場所に飲食店はない。この手は使えない……と始めは諦めていたが、ファイクちゃんに聞かれて関わった場所を挙げていくと、とんでもない伝手が2つもあることが判明した。

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